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#2 就職

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「おお、ここが……」

「ここが俺たちが拠点にしてるヤタサの街だぜ!」


 リック達の案内で辿り着いたのは、西洋風の木や石で作られた建物が多く立ち並ぶ綺麗な街だった。

 太陽の位置的に、時刻は昼下がりといったところだろうが、そのせいか通りには沢山の人が歩いていた。

 そんな人混みの中には、秀治と同じ人間もいるが、中には獣の耳や尻尾が生えた人や、背中から羽が生えた人もおり、よりここは異世界なんだと実感させられた。


「すみません,通行料を払ってもらい」

「気にすんなって! それに、シュージが肩に担いでるそれを売れば十分お釣りが来るから、その時に返してくれればいいよ!」

「助かります」


 この街に来る間、色々とお互いのことについてや、この世界のことをそれとなく教えてもらった。

 とりあえず分かったのは、お金の価値や単位が日本とほぼ同じなこと、時間や曜日の進み方も日本とほぼ同じなこと。

 そして、リック達は冒険者と呼ばれる職業に就いていて、先程倒した狼のような魔物を倒したりして生活しているそうだ。

 魔物というのは、この世界では基本は害獣とされている生き物で、魔物を使役して働かせたりもするそうだが、野生の魔物は基本的には討伐対象らしい。

 リックともう1人の少年カイン、そして回復魔法をかけてくれた少女メイは、この街の冒険者ギルドの内の一つに所属していて、今回は森にゴブリンという魔物を討伐しにきたそうだ。

 しかし、なぜかあの場所にはいないはずの狼(名をブラックウルフと呼ぶらしい)に遭遇してしまい、ピンチに陥っていたところに、秀治が現れたという訳だった。


「本当に僕がこのブラックウルフの報酬はもらって良いんですか?」

「もちろん。 オイラ達は何もやってないし」

「私達はゴブリンの報酬もありますし、気になさらないで大丈夫ですよ」


 現在、シュージは肩にブラックウルフの死骸を3体分担いでおり、話を聞くとブラックウルフの素材は人気らしく、1匹30000ゴルドで買い取ってくれるそうだ。

 ちなみに、大衆食堂で一食食べるのに1000ゴルドかからないくらいらしいので、30000ゴルドは日本円でまんま30000円くらいみたいだ。


「お、見えてきたぜ! ここが俺たちが所属してる冒険者ギルド、蒼天の風だ!」

「おぉ…… 大きな建物ですね」


 街に着いてから10分ほど歩いたところにその建物はあった。

 恐らくは3階建てくらいの高さがあり、横も一般的な学校の校舎よりも少し大きいくらいの大きな建物で、表の看板には大きく蒼天の風と書いてあった。


(ん? そういえば、看板の文字は異世界のものなのに、普通に読めるな)


 看板の文字は見たこともない文字のはずだが、まるで日本語かのように読むことができる。


(うーむ、異世界に来た特典のようなものなのだろうか…… まぁ、考えても分からないな)


「おーい、シュージ入んないのか?」

「あ、すみません。 今行きますね」


 看板を見てぼーっとしていたシュージは、リックの声で我に返り、その建物の中へと歩を進めていった。

 ギルドの中に入ると、少し進んだところに受付があり、その手前には掲示板のようなものと、会議で使うような大きな丸机がいくつか置いてあった。

 今は受付の場所以外に誰もいないようで、とりあえずリック達について行って受付の場所まで来た。


「キリカ姉、ただいま!」

「あら、リック、カイン、メイ、おかえり。 えっと、そちらの方は?」

「あ、どうも、舘野秀治と申します。 あ、秀治が名前です」

「シュージさん、初めまして。 私はこのギルドで受付業務をしているキリカと言います」

「キリカ姉、色々あったから聞いてくれよー」


 それからリック達は、シュージとの出会いや、どのような境遇であるかなどをキリカに説明してくれた。


「えっ、ブラックウルフと!?」

「私たち、森の入口にいたのに、奥地にいるはずのブラックウルフがいっぱい出てきて……」

「それは災難だったわね…… シュージさん、私達のギルドの新人達を助けていただきありがとうございました」

「ああ、いえいえ。 成り行きでしたからお気になさらず」

「今回の件は異変として他ギルドなどにも伝えておきますね。 それで、シュージさんはこれからどうするんですか?」

「それが、行く当てがなくて困っているんですよね」

「なぁ、シュージ! そんだけ強いなら冒険者になれば良いんじゃないか?」

「冒険者にですか? ……うーん、ですが、僕はあまり戦うのが好きではないんですよね……」

「えっ、あんなに強いのに?」

「もちろん、やむを得ない時や仕事で仕方なくする時は戦いますが、あまり好き好んで戦おうとは思わなくて……」

「他に何か特技とかはありますか?」

「そうですね…… あ、一応料理や家事などは得意ですよ」

「でしたら、ひとまずうちのギルドの用務員として働きますか? 丁度、この前まで掃除などを受け持っていてくれた方が年齢を理由に退職されたので、新しい方を探していたんです」

「お、それはいいですね。 ですが、この場で決めちゃっていいんですか?」

「はい。 人事に関しては一任されてますから。 私、人を見る目はあるんです」

「そうなんですね」


(就職先がこんなに早く決まるとはな。 リック達の話を聞くに、かなり良心的なギルドらしいから、大丈夫だろう)


「では、先代の用務員さんが残してくれた簡単なマニュアルがありますので、後でお渡ししておきます。 今はとりあえずそのブラックウルフをなんとかしましょうか」


 かれこれずっとブラックウルフを担ぎ上げたままのシュージに、キリカは気を利かせてくれた。


「……うん、リック達のゴブリン討伐の証明も出来たから、依頼達成よ」

「ありがとうございます、キリカさん」

「よーし、じゃあ街に遊びに……」

「だめですよ、リック様。 この後は武器の手入れをして、食事の準備もするんですから」

「うえー…… そうだった…… でも、月末だから大したもん残ってないぞー?」

「それでどうするのか考えるのも新人の訓練でしょ? 頑張っておいで」

「食事はリック達が作ってるんですね?」

「うん。 冒険者になると野営もあるから、自炊ができた方がいいって言われてる。 だから、オイラ達見習いや、経験の少ない人が練習がてら作る事になってるんだ」

「では、良ければ僕も食事の手伝いもしていいですか?」

「シュージさんは料理もできるんですね?」

「そうですね、ある程度はできますよ」

「とても助かります。 実を言うと私を始め、ギルドの構成員も料理がすごくできるという人はいないので、教えていただけると助かります」

「分かりました。 あ、もちろん、全部はやらず、練習にもなるようにはしますので」

「ふふ、シュージさんは気が回りますね。 はい、それでお願いします」


 異世界初日にして、シュージは就職先を確保したのであった。

 
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