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第四章 帝都動乱

#86 皇族との謁見

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 帝国の騒動から5日程経ち、ようやく火急で行わなければならないことが一通り片付いてきた。

 家を失った者達の仮設住宅であったり、瓦礫の撤去、行方不明者の捜索と、ここ数日動ける者達はとにかく動き回った。

 その中でも僕は土魔法や鉱物操作のスキルだったり、気配察知のスキルを持っていたので我ながらかなり貢献できたと思う。

 今日に至るまでの数日で、避難所やギルドにいた者達にほとんど顔と名前を覚えられるくらいには。


「おはよう、ショーマ」

「おはようございます、ゲラルトさん」

「今朝、帝国内の他の街から応援の人員が到着した。 あとは私達、帝国に住んでいる者達で何とかしよう」

「それは良かったです」

「本当にお前達がいてくれて助かった。 特にショーマに関しては1人で数十人分の働きをしてくれたな。 もちろん、この事に関しての報酬は国からもギルドからも正式に払うから、少し待っていてくれ」

「ありがたく受け取ります。 ただ、ゆっくりで大丈夫ですよ」

「ありがとう。 それで、最後に頼みたい事があるんだが…… この国の王族がショーマに一目会いたいと言っているんだ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。 間違いなくお前はこの国を救った立役者だ。 国からしても、誰かを表彰なりしないと面目が立たないようでな。 公式の場だがそこには数名しかいないというから、変な要求などもないと思う」

「それなら、分かりました」

「済まないな。 時間は明日の昼前でいいか?」

「はい。 あ、何か準備とかっていります?」

「いや、こんな時だから服装とかもそのままでいい。 王城もかなり壊れているから、場所もそこまで華やかにはできないそうだからな」


 確かに、謁見の間で戦ったりもしたしな……

 という事で、帰る前に一つやる事ができた。



 *



 そして、翌日。

 僕、ノアル、アリシャ、セフィは王城へと訪れていた。

 ちなみにゲラルトさんも同じタイミングで表彰されるらしく、一緒だ。

 ユレーナさんも表彰されるべきだが不在なので、後日正式な感謝がギルド本部に送られるらしい。


「お、王様と会うの、緊張します……」

「僕もだよ。 ……ノアルとアリシャは平気そうだね?」

「……獣人国の王様に会ったことあるから」

「私はまぁ…… 緊張とかはしないわね」


 ちょっとアリシャの歯切れが悪いのが気になるが、僕達は門を通り、王城の中へと案内された。

 通されたのはかなり広い応接間のような部屋で、所々壁にヒビが入ったりしていたが、ここまで来る途中の王城の壊れ具合からすると、まだ被害がマシな部屋になっていた。

 その部屋の奥に、玉座の間に置かれていたのと同じ椅子に座った70代くらいの白髭を蓄えた男性が座っていて、その横には10代前半かという身綺麗な男の子もいた。


「ようこそおいでくださった。 私はこの国の先代王である、アシュトン・ウー・スーガルフじゃ。 公式な場ではあるが、そう固くならず、いつも通り接してくれれば良い」

「ぼ、僕は第一王子のシャルテ・ウー・スーガルフですっ」

「ゲラルト殿は存じておるが、そちらの冒険者諸君の名をまずは聞かせてくれるか?」


 想像していたよりも優しげな感じでアシュトン様はそう尋ねてきた。


「ショーマと申します」

「……ノアルです」

「アリシャです」

「せ、セフィですっ」

「うむ。 まず初めに、この国を救ってくれたこと、そして復興に多大な貢献をしてくれたこと、心の底から感謝しておる。 ありがとう」


 そう言ってアシュトン様と隣にいた男の子はしっかりと頭を下げてきた。


「いえ、我々は自分達にできることをしたまでです」


 僕達の気持ちも併せてゲラルトさんがそう言葉を返した。


「それで、今回呼んだのは主な目的は感謝を伝えるのと、報酬についての話なんじゃが、ゲラルト殿にはギルドを通すとして、ひとまずショーマ殿のパーティーに対しては報酬として金貨2000枚を払わせてもらう。 本当は白金貨を払わなければいけないレベルなんじゃが、いかんせん復興に莫大な金額がかかるのでな…… 余裕が出来次第追加で払わせてもらう形で良いかの?」

「えっ、いや、金貨2000枚でも十分過ぎるくらいなんですけど……」

「ショーマ、お前は一国を救ったんだ。 お前達がいなかったら、人が恐らく数倍は死んでいた。 そうなったら、白金貨なんかじゃ収まらないくらいの被害になっていただろうな」

「ゲラルト殿の言うとおりじゃ。 お主の働きは本来は国を挙げて祝福しなければならない、歴史に残る功績なのじゃよ」

「そ、そういうことなら、ありがたく受け取っておきます」

「うむ。 ……それにしても、こんなことになってしまうとはな。 これではおちおち隠居もできぬ。 ……まさか人をあそこまで操る術があるとは」

「……お父様。 厳しくも優しいお方でした。 それがある日、人が変わったようになってしまい……」


 話を聞くと、この国の王と宰相はアカードの使用した禁術で操り人形となってしまっていたようで、その2人に異を唱えた者は悉く処罰されたらしい。

 アシュトン様もその1人で、王城の外れにある堅固な塔に半ば監禁されていたそうだ。

 その堅固さのおかげで今回の魔物被害に遭わずに済んだのは不幸中の幸いだったのかもしれないが。


「アカード…… 彼奴は今回の騒ぎに乗じて他にも多数の王族や貴族に手をかけてきおった。 そのため、王位継承権を持つのは、もうこの子ともう少し歳の離れた第二王女しかおらん」

「ぐす……」

「これ、シャルテよ。 王たるものがそう簡単に他者の前で泣いてはならんぞ」

「お祖父様……」

「儂のこともこれからはアシュトンと呼ぶんじゃよ。 家臣になるわけじゃからな。 儂もシャルテ様と呼ばなければな」

「シャルテ様がこれからは王となるんですか?」

「うむ、正統な血族じゃからな。 じゃが、この子は優秀ではあるものの、まだ実務経験は無い。 暫くは儂が実務を行いつつ、この子に教えていく形となるじゃろうな」

「僕がいきなり王だなんて…… あの、ショーマ様」

「え、はい? なんでしょうか?」

「ショーマ様は、帝国民でもないのに、あんな化け物のような魔物や怪物に勇気を持って立ち向かったと聞いています」

「あー、キマイラやアカードの姿を見たんですね」

「はい、今回の騒動の元凶という事で死骸を…… 僕にはあんな怪物に立ち向かう勇気なんてありません…… それに、数千万の民が住まう広大な帝国の王になるなんてもっと……」

「うーん…… まず僕自身、そこまで勇気がある方かと言われたらそうでもないと思います。 どちらかといえば臆病ですよ?」

「そうなのですか……?」

「はい。 でも、今回は信頼できる仲間が近くにいて、苦しんでいる人達がいっぱいいました。 だから、僕がやらなきゃという気持ちが強かったのが大きかったですね。 シャルテ様にも、信頼できる方が少なからずいるんじゃないかと思います」

「そうですね…… お祖父様に、妹とかでしょうか?」

「人は誰かのために行動しようと思うと頑張れるものです。 これからシャルテ様はこの国のために王になって、ご家族や民を1番上で守れる力を持てますから、まずはその力の使い方を学ぶのがいいかと」

「学ぶ……」

「焦ってもいい事はありませんからね。 しっかり学び、自信をつけるところから頑張りましょう。 ちなみに僕もまだまだ未熟なので、もっと努力しますよ」

「あんな怪物を倒せるのに、まだ努力するんですね……」

「あんまり励みにならないかもですけど、共に頑張りましょう? 僕もこれきりとかではなく、協力は惜しみませんから、もし困ったらいつでも力になりますよ」

「良いのですか?」

「一度関わってしまうと、見過ごせませんからね。 その内また来たりもすると思いますよ」

「ありがとうございますっ。 なんだか、話したら少し気が楽になりました」

「1人で抱え込まず、周りを頼るのも大事ですよ。 ……僕も最近、自分をもっと大切にしろと叱られたばかりなので」


 そう言ってノアルの方をチラッと見ると、しょうがない人を見るような目と微笑みを返してくれた。


「そうですね…… まずは一つずつ頑張っていこうと思います」

「はは、ショーマ殿。 何から何まで済まないな」

「いえいえ。 こうして知り合ったわけですし、今後も良い付き合いをしたいですから、打算も込みですよ」

「それでもじゃよ。 こちらとしても、今後頼らせてもらう事があるかもしれぬからな」

「僕が力になれることなら」

「うむ」


 それから少しまた色々と話し、唐突に行われた謁見はとても有意義なものになるのであった。
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