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第四章 帝都動乱

#82 変貌

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「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げ続けるアカードを尻目に、ショーマは持っていた剣をブンッと一振りし、剣についた血を払った。

 そして、一旦アイテムボックスにその剣をしまうと、すぐそこで倒れている奴隷の少女へと駆け寄った。


「……っ」

「ごめん、傷つけてしまって。 でも、今なら!」


 カシャン……

 そこでショーマが少女の首に付けられていた首輪に魔力を流すと、首輪はぐにゃりと形を変えてあっさり外れた。


「えっ……?」

「よしっ、外れた! 続けて『メガヒール』!」


 ショーマの治癒魔法が少女の傷と体力を回復させていく。


「体が…… 助けて、くれたんですか?」

「うん、そうだよ。 君はあいつに無理やり従わされてたみたいだからね」

「あ、ありがとう、ございます……」

「気にしないでいいよ。 それで、体は問題なく動くかい?」

「はい……!」

「それじゃあ、ノアルとアリシャ…… えっと、僕の仲間の2人のところに行こう」

「分かりましたっ」


 ショーマと少女は少し離れたところにいるノアルとアリシャの所へと向かった。

 2人の近くに来ると、ノアルが少し目を潤ませながら凄い勢いで抱きついてきた。


「……ショーマ!!」

「うおっと!? ノ、ノアル? どうしたの?」

「……心配した。 ……体は平気なの?」

「あー…… うん、とりあえず何ともないよ。 心配かけたね」

「驚いたわ…… ねぇ、ショーマ?」

「ん? どうしたのアリシャ?」

「あなた、どうしてあの魔法の影響受けてないの? 確かにあの魔法は発動していたし、あなたはモロにそれを食らったはずなのに」

「その…… 状態異常に耐性があってね。 ああいう魔法は僕には効かないんだ」

「そう…… まぁ、なにはともあれ良かったわ」


 ショーマは内心冷や汗をかきながらノアルとアリシャの質問に返事をする。

 特にアリシャの質問に対してはヒヤヒヤものだった。

 というのも、ショーマが無事だった本当の理由は……


(まさか、こんなところでも加護が役に立つなんて思ってなかったよ)


 そう、カースパペットを食らったあの瞬間、目の前にステータス画面と同じディスプレイが現れ、そこには『運命神の加護により、外部からの影響による重度な状態異常を無効化しました』と表記されていた。

 まさかショーマ自身もこんな効果があったとは思わず、この表記が出た時はかなり驚いたのだが、幸い黒い靄に包まれていたため、周りにいた者達にはバレなかったのだ。

 そして、その状況を利用して一芝居うつことで、アカードの片腕を奪うこともできた。


「あの……」

「ん? あぁ、ごめんね放ったらかして」

「ち、ちょっとショーマ? 大丈夫なの? その子」

「ん? なにが?」

「なにがって…… その子、敵だったんじゃないの? なんか、あなたに懐いてるみたいだけど……」


 少女はいつの間にかショーマの後ろにピトッとくっついており、シャツの裾を躊躇いがちにだが指で挟んでいた。 

 そんな少女はアリシャの言葉にビクッと反応すると、ショーマの顔を下から覗き込んだ。


「あの…… 僕、敵じゃない、です…… だから、捨てないで……」


 その時、ショーマと少女ではかなり身長差があるため、自然と見上げる形になった。

 そうした事で、少女の顔を隠していた黒い外套のフードが外れ、その容貌が明るみになった。


「あっ……!?」


 慌てて少女はフードを被り直したが、ショーマ達はしっかりとその姿を確認してしまった。

 ショーマ達が少女の姿を見た上で、その姿を一言で表すなら、全員が純白という言葉を挙げるだろう。

 それほどその少女は肌を始め、髪や瞳まで全てが白く、どこか儚く、幻想的な姿をしていた。


「ごめんなさい…… やっぱり、こんな姿は気持ち悪いです、よね……」


 なにも言葉が出てこないショーマ達を見て、少女は俯いてしまった。


「あぁ、違うよ! ごめんね、すごく綺麗でびっくりしたんだ」

「……えっ?」

「……ん、とても綺麗。 特に肌とか。 羨ましい」

「私達エルフは客観的に見ても凄く美形が多いけど、それとはまた違った美しさだと思うわ」

「ほ、本当に……?」

「えぇ。 それと、あなたのその様子だと敵ではないみたいね。 疑ってごめんなさい」

「うぅ……!」


 少女はそれらの言葉を聞くと、なにを思ったのか、その場で泣き崩れてしまった。


「ちょっ…… そ、そんなに傷付いたの!? ご、ごめんなさい!」

「……アリシャ、泣かせた」

「わ、私なの!? ショ、ショーマもなんか言ってよ!」

「えっと…… 大丈夫かい? ごめんね? なにか気に障ることを言っちゃったかな?」

「うぅ……ち、違うの…… 嬉、しいの」


 尚も泣き続ける少女をなんとかして宥めようとしていたのだが……


「ぐおぉぉ……! なぜ私がこんな目にぃぃぃ……! おい、奴隷! なにをしているんだ! 早くそいつらをなんとかしろぉ!」

「グ……ガァァァ!!」

「おっと! ノアル、迎撃するよ! アリシャはその2人を守って!」


 目まぐるしく変わる状況に戸惑い、オロオロしていたメリエと少女をアリシャに任せ、ショーマとノアルはこちら側に突っ込んでくる大男を迎撃するべく前に出た。


「その必要はない」


 ドゴォォォォォッ!!


「ギャァァァァァァァ!!!」


 だが、ショーマとノアルにとって聞き覚えのある声が大きな岩と共に後方から飛んできたことで、大男は呆気なく吹き飛ばされて壁に激突し、その動きを止めた。


「すまない、遅くなったようだな」

「全く、無駄に広すぎるんだよ、この城は」


 ショーマ達が大岩の飛んできた玉座の間の入り口の方を見ると、そこには冒険者ギルドが誇るギルドマスターの2人が立っていた。


「ゲラルトさん! ユレーナさん!」

「あ、あなたっ……」

「あぁ、メリエ…… 無事で良かった……!」


 そう言ってゲラルトはメリエのいるところに駆け寄り、その体をギュッと強く抱きしめた。


「おーおー、お熱いこった」

「あ、あなたっ、人が見てますよっ!?」

「すまない、つい安心してしまってな。 ……ショーマ、メリエを助けてくれたこと、感謝するぞ」

「いえ、当然のことをしたまでですから、気にしないでください」

「そうか。 それで、元凶はあの男だな?」


 ゲラルトはそう言い、アカードの近くまで近寄ると、そのまま怒りのこもった目で見下ろした。


「さて、貴様には言いたい事…… いや、出来る事ならば今すぐ私がこの手で葬ってやりたいが、そういうわけにもいかないのでな。 しかるべき所に届けてやろう」

「ぐぅぅぅ!! ゲラルト、貴様ぁ!」

「貴様がやった事は許されざる大罪だ。 二度と明るい場所に戻れると思うなよ」

「わ、私が、私がっ! こんな所でぇぇぇ! あぁ、我らが主よっ! どうか、私に今一度力をぉぉぉ!」

「……哀れな男だな『ロックバインド』」


 ゲラルトの拘束魔法によって、アカードは身動き出来ないように拘束されていく。

 これにより、今回の戦いは終わり、後処理を始めることになる……

 誰もがそう思っていた。


「《カッカッカッ……》」

「……ん?」

「うん? どうしたの、ノアル?」

「……なんか聞こえる」


 ノアルがそう言った事で、周りにいた者達は揃って口を閉ざした。


「《無様だな…… アカードよ……》」

「誰だっ!?」


 今度はここにいた者達全員の耳にはっきりと聞こえた。

 そして、皆がその不気味な声のした方へと目線を向けると、先程までアカードが持っていた杖の先の髑髏がカタカタと音を立てて喋っていた。


「そ、その声は!! 教祖様では!?」

「《アカード…… 最後の最後にしくじったようだな……》」

「そっ、それはっ…… も、申し訳ありません! ですが、まだ私はやれます!! どうか、今一度お力を……」

「《よかろう…… お主に力をやろうではないか……》」


 その言葉を言い終えると同時に、今まで喋っていた髑髏の目が怪しげな紫色の光を帯びた。


「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございま……… うぐっ!?」


 すると、アカードが胸の辺りを押さえてうめき声を上げた。


「あがっ、うぎぎぎぎっ……!」

「なんだ、この魔力は! どんどん膨れ上がっていく……!?」


 バキッゴキッと骨が歪むような音と共に、アカードの体は徐々に巨大化していく。

 それに比例するように身体から闇色の魔力が噴き出し、アカードの姿を隠すと、辺りの床や柱を無差別に破壊し始めた。


「そう易々と強化されてたまるかい!」


 それを阻止するべく、ユレーナは目にも止まらぬスピードで剣を振り抜き、斬撃を飛ばした。

 模擬戦でショーマ達に使うものとは比較にならないような切れ味と大きさを誇るその技は、真っ直ぐにアカードへと向かっていった。


 バキィィィン!


 だが、その斬撃はアカードに触れる直前に壁にぶつかったかのような音を発して砕け散ってしまった。


「っち、あれを防ぐのかい」

「グォォォォォォォォ!!!!!」


 数秒後、咆哮と共にアカードを取り巻いていた闇色の魔力が霧散していくと、そこには体長3メートル程に巨大化し、肌は赤黒く変色した異形の怪物が現れたのであった。
 
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