転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら

文字の大きさ
上 下
84 / 93
第四章 帝都動乱

#80 玉座の間の戦い(1)

しおりを挟む
(どうして、こんなことに……)


 メリエは自分の置かれている状況を鑑みて、心の中でそう呟いた。

 いつものように愛する夫の帰りを家で待っていたら突然拐われ、気がつくとこの国の王城に囚われていた。

 それからというもの、あの魔術師の男、アカードから自分が人質であることを告げられ、夫は自分の身を案じてその身に呪いをかけられたという。

 情けなかった。

 夫を支える立場でありながら、夫を害する存在に捕らえられ、終いには夫の足枷になってしまっている自分が。

 それなのに、久しぶりに会った夫は自分のことを本気で心配し、アカードに対して夫婦生活では見たこともない怒りの表情を見せていた。

 その事に対して少し嬉しいと思ってしまった自分もいるが、より自分が足手まといであることを自覚する事にもなった。


(このままでは、ダメだ……)


 自分のせいであの人が命を落とすなんて事になったら、悔やんでも悔やみきれない。

 ——少なくとも自分よりあの人の方が生きている価値がある。

 ——もし、自分のせいであの人に危機が訪れたらその時は……


 フワッ……


「えっ?」


 決意を新たにしたメリエに突然、浮遊感のようなものが襲いかかり、それと同時に、見ていた景色が一瞬にして切り替わった。


 ドサッ


「あいたっ……」


 突然の事だったため、メリエはもろにお尻から地面に着地してしまう。


「よしっ! 成功したみたい!」

「……ん、さすがショーマ。 ……それじゃ、アリシャはこの人をお願い」

「えぇ! 任せて!」


 そこにいたのは先程まで自分を捕らえていた男たちではなく、若い青年に黒髪の獣人の少女と耳の長いエルフの少女。

 状況が判断できない中、獣人の少女はこの場から猛スピードで駆けて行ってしまった。


「あ、あなた達は……?」


 メリエは自分の体を縛り付けていたロープを解いているエルフの少女に、このわけの分からない状況はなんなのかを尋ねた。


「安心して、あなたを助けに来たのよ。 私はアリシャって言うの。 えーっと、あなたは確かゲラルト?ってギルドマスターの奥さんよね?」

「夫を知っているんですか!?」

「会ったことはないけどね。 話は聞いているわ。 ところで、怪我とかはない?」

「は、はい…… 大丈夫だと思います」

「そう、それじゃあ私の後ろに隠れてて?」


 アリシャはメリエを後ろに庇い、ショーマからもらった杖を構えた。 少しでも隙があれば、近くで戦っているノアルとショーマのサポートをするために。
 



     *

 


「……っち! ゲラルトはまだか!? いい加減待ちわびたぞ」


 アカードは一向に姿を見せないゲラルトに対して苛立ちを覚えていた。

 とは言っても、まだ地下牢のやり取りから5分と少し経ったくらいであり、アカード達のように影移動などで来れば別だが、普通の方法で来ようとしたらこの帝城の広さからして10分くらいはかかるだろう。

 アカードはせっかちな男であった。


「くっくっくっ、あいつが来た時はどうしてやるかなぁ…… そうだ、折角なら愛する女に傷でも付けておくか。 いつもスカしているあいつの取り乱した表情を拝ませてもらうと……」


 そう言ってアカードは足元に転がっているメリエに手を伸ばしていき……


「そんな事させないよ」


 驚きに目を見開いた。

 そこに転がっていたはずのメリエが、いつの間にか見知らぬ青年に変わっていたのだ。

 今回、ショーマが使ったのは転送魔法と呼ばれる魔法で、これは物体と物体の位置を入れ替えたり、50メートルくらいの範囲であれば一瞬で移動できるという魔法だ。

 ただ、欠点もあり、発動に数秒のタメが必要であったり、入れ替えは対象が大きく動いたりしていると発動できないので、戦闘に組み込む事は難しいだろう。

 ただ、今回のような場面では大いに役立った。


「とりあえず……『ライト・強』!」

「ぐわっ!? 目がぁー!!」


 ショーマが放った通常より多く魔力を使って放ったライトの魔法によって視覚に大きなダメージを負い、思わず目を抑えながら後ろに退がってしまった。

 その隙にショーマはアイテムボックスからロングソードを取り出し、アカードに斬りかかっていく。


 ガキィン!!


 だが、その刃は隣に立っていた黒づくめの人物が剣の軌道上に割り込み、短剣をクロスさせて受け止めた事で届く事は無かった。


(早い……! あっという間に割り込んできた! それに、小柄の割にはパワーもあるな!)


 ギリギリと音を立てて鍔迫り合いをするショーマと黒づくめの人物だが、流石に体格差と得物の差もあり、少しずつだがショーマが押していった。

 このまま押し切ろうと力を込めたところで、不意にゾクッとした嫌な予感がショーマを襲った。


「ショーマ! 危ない!!」


 嫌な予感とほぼ同時に聞こえたノアルの警告が示す先に、ショーマは咄嗟にシールドを張った。 


 バキィィィン! ドゴォッッ!!


「なっ!? ……うぐっ!」


 だがしかし、シールドを張った次の瞬間、ショーマは横からのとてつもない衝撃によって吹き飛ばされてしまった。

 吹き飛ばされる過程で、ショーマはその衝撃の発生源の方へ目を向けると、そこには拳を真っ直ぐに振り抜いた筋骨隆々の男が立っていた。

 ——あの男が何かしたのか……!?

 吹き飛ばされながらそんな事を考えていたショーマは、地面を数回バウンドした後、柱に背中から強くぶつかった事でようやく止まった。


「……かはっ! ……ゴホッゴホッ!」


 背中からぶつかったことで肺の中の空気が一気に外へと出てしまう。

 そのため、一瞬呼吸が困難になったショーマは勢いよく咳き込み、その度に衝撃が加わった横腹付近に鈍い痛みが走った。


「……ショーマ!! ……くっ!」


 ノアルが慌ててショーマの元へ行こうとするが、その行く手を筋骨隆々の男がニタァ…… とした笑みを浮かべて阻んだ。


「……邪魔っ!!」

「ふんっっ!!」


 無理やり突破しようとしたノアルの剣は、男が着けている金属製の籠手によって防がれてしまい、ノアルはその場に拘束されてしまった。

 一方のショーマの元へは黒づくめの人物が近づいていき、その短剣を振るった。


「くっ!」

「……………………」


 咄嗟に片手に持ったロングソードで受け止めるが、ショーマの現状だと上手く力が入らない。

 先程とは逆の立場になり、押されていくショーマは、不意に目の前の人物が何かを言っている事に気付いた。


「…………ごめん………なさい」

「!?」


 鍔迫り合いの最中、改めて目の前の人物を観察してみると、小柄な身長は150cmも無く、微かに発した声は、小さいながらよく響いて聞こえる高音であった。

 それに、服装でよく分からなかったが、近くで見たその人物の体は、今自分と互角に鍔迫り合いをしているにしてはあまりにも華奢で、さらには僅かな曲線を描いていることが見て取れた。

 そこからショーマは一つの結論を出した。


「君は…… 女の子……なのか?」


 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

処理中です...