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第四章 帝都動乱

#78 研究所からの脱出

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 エルフの少女を助け出した後、僕達は地下から出て、すぐそこにあった部屋に入った。 どうやらここは所長室のようだ。

 ちなみに男は縄でグルグル巻きにした上でアイテムボックスにしまってあった車輪が付いている台座に乗せてノアルが引きずってきた。

 「僕がやるよ」と言ったのだが、「……いい、ノアルがやる」と強く言われたのでその通りにしている。 

 ……かなりご立腹のようである。


「さて、とりあえずその枷を外そうか」

「あ、でもこれは……」

「フ、ハハハッ……!」


 エルフの少女に着けられた手錠と足枷を外そうとすると、先程まで気絶していた男が顔を上げ急に笑い出した。


「……なに笑ってる」

「ハッハッハ、その魔力封じの手枷と足枷は魔導国家が開発した特注品だ。 この世界でも有数の硬度を誇る鉱石が使われていてなぁ? 鍵がなければ……」

「んー、別に問題ないんじゃないかな?」

「……な、なんだと?」


 ガチャンガチャン


「ほら、外れた」

「なっ、なにぃっ!?」


 どんだけ硬い物だろうが鉱物が使われていれば僕のスキルで形を変えることはできる。 

 まだ職業スキルのレベルが足りてなくて、スキルが通じないものもあるみたいだが、この鉱物はいけるみたいだ。

 うん、使えるかもしれないし、一応貰っておこうかな。


「そ、そんな…… 合わせて金貨1000枚近くした特注品が……」

「あ、ありがとう! これで魔法が使えるわ!」

「どういたしまして。 あ、違和感とかはない? 腕とか足に関わらず、なにかあるなら教えてくれれば治せるよ?」

「大丈夫よ。 魔力が少し減ってるくらいで体はなんともないから」

「それは良かった。 ……さて、とりあえず、あなたに話を聞こうかな。 知ってる事を話してもらうよ」

「ふ、ふん! 話すことなどなにもないわ! このままでいれると思うなよ! 今にも私が作った魔物共がお前達を……」

「『ヒュプノシス』」

「ふぁ?」


 時間が惜しいので男に催眠魔法をかけ、聞きたい事を手早く聞いていく。

 そこで聞いたところによると、この男は先程見つけた報告書を書いた開発責任者だった。

 エルフの少女を襲っていた理由は、その美貌を見て以前から自分のものにしたいと思っていたらしい。 

 ……その理由を聞いて、横にいる少女2人の周辺の気温が下がったような気がするが、なるべくそちらは見ないようにした。


「……女の敵。 ……生かしてはおけない」

「同感よ。 どうしてやろうかしら……」


 そう言うとノアルは双剣の柄に手をかけ、エルフの少女は手の平に風の魔力を練り上げ始めた。 

 それを僕は慌てて止める。


「待って待って2人とも。 一応、この人は今回の件の証人になるから。 腹は立つのは分かるけど抑えて」

「……むぅ」

「……分かったわ」


 そう言ったところ、渋々だが2人とも怒りを収めてくれた。


「ところで、君の名前は? 今更だけど教えてもらえると嬉しいな」

「アリシャ=ヴァルトレクスよ。 アリシャでいいわ。 あなた達の名前も教えて?」

「僕はショーマ=ケンモチ。 ショーマが名前だよ」

「……ノアル。 ……ノアル=ソルム」

「ショーマにノアルね。 改めて礼を言うわ。 本当にありがとう! あなた達がいなかったら私はどうなっていたか……」

「……気にしないで大丈夫」

「そうだね、無事でいてくれて良かったよ。 ただ、外はまだ魔物がいるだろうから油断はできない。 それで、聞きたいんだけど…… アリシャは戦える? 魔法は使えるみたいだけど……」

「任せて、それなりに戦えるわ。 弓があればもっといいのだけど…… 魔法だけでも十分戦力にはなれると思う」

「弓が得意なんだね。 作っておけば良かったなぁ…… じゃあ一応、この杖を渡しておくよ。 軽いから扱いやすいと思うし、魔法の発動を助けてくれるから、無いよりはいいんじゃないかな」


 間に合わせとして、アイテムボックスから一本の杖を取り出してアリシャに渡した。 

 軽量化、魔法威力上昇、魔力消費量軽減が付与された扱いやすい杖だ。

 だが、アリシャは杖よりも別の事が気になったらしい。


「それは…… 収納魔法! ショーマはいい魔法を使えるのね」

「あ、エルフからしても収納魔法って珍しいの?」

「ええ、もちろんよ! ヒト種よりは使える人の割合は多いかもしれないけど、それでもあんまりいないわ。 私も使えないし」

「そうなんだ」

「それに、この杖も軽くて扱いやすいわね……! 魔力の通りも凄く良いし、使っちゃっていいの?」

「うん、遠慮せず使っていいよ。 それと似たような杖もいくつか持ってるし、多少無茶な扱いしてくれても大丈夫だよ」

「そう! ならありがたく使わせてもらうわ。 ありがとう!」

「どういたしまして。 よし、それじゃあ研究所から出ようか。 ユレーナさん達…… っと、アリシャは知らないか。 僕達の知り合いに合流しに行くから付いてきて」

「分かったわ」

「ノアルは……」

「……こいつはノアルが運ぶから気にしないで」

「そ、そっか。 一応、重要人物だからあんまり手荒に扱っちゃダメだよ?」

「……善処する」


 ノアルに対しての不安が少々残るがまぁ、そこまで雑に扱う事はしないだろう。

  ……多分。



     *



 僕達はそれから、アリシャを連れて研究所の外へ出た。

 その道中、入り口に転がっていたキマイラの死体を見てアリシャが驚き、一応証拠としてキマイラもアイテムボックスにしまっていくことにしたりといったことがあったが、魔物などには遭遇せずに無事に研究所から出ることができた。


「ユレーナさん達は…… まだ王宮かな?」

「……多分」

「ここに来るまでに話してた冒険者ギルドのマスター達ね? どうするの?」

「とりあえず、この男を冒険者ギルドまで運ぼうかな。 正直に言ってこの先に行くには邪魔だし……」

「私はそれでいいわよ」

「……ん、賛成。 ……けど、ショーマとアリシャはこの辺で待ってて」

「え、ノアルは?」

「……ノアル1人で運んでくる。 ……飛んでいけばすぐだし、もしユレーナ達が戻ってきた時に誰もいなかったらそれはそれで困る」

「それもそっか…… それなら僕が行ってもいいんだけど、ノアルが行きたいの?」

「え? 飛んでいくって……?」

「……ん、任せて。 ……その間、ショーマはアリシャに色々と話しておくといい」

「分かったよ。 くれぐれも気をつけてね」

「……行って帰ってくるだけだから大丈夫。 ……それじゃ、行ってきます」


 ショーマからスカイボードを受け取ったノアルは、スカイボードに男を括り付けて飛んで行った。 

 空に放り出す形になっているが、幸いにも男は催眠状態で意識は無いも同然なので騒ぐ事はないだろう。


「うわぁ…… あれもあなたが作ったの?」

「そうだね。 あれでも意外と乗るの簡単なんだよ」

「なんか、あなたといると退屈しなさそうね。 驚くことばかりだわ」

「それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」

「ふふっ、もちろん褒めてるわよ」

「そっか、ありがとう。 それじゃあ、ただ待ってるのもなんだからこの辺りに魔物がいないか探してみようか? それでいたらなるべく倒すようにしよう」

「了解よ。 援護は任せて」

「よし、それじゃあ行こうか」


 それから僕とアリシャは、2人で付近の魔物の殲滅をしながらお互いの出来ることなどを確認し合った。

 そして、20分もしない内にノアルが帰ってきたため、3人はそのまま王宮に向かう事となった。

 
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