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第四章 帝都動乱
#77 エルフの少女
しおりを挟む「ガァァァッ!!」
僕達から少し離れた所にいた怪物が、咆哮と共に風の刃を放ってきた。
「ふっ………んっ!!」
それに対し、僕は大剣の魔法防御を信じて思いっきり飛んできた魔法目掛けて大剣を振り抜く。
結果的に、正面からぶつかった大剣と風の刃は、一瞬の均衡も見せずに風の刃の方が大剣によってかき消される形となった。
「よし! これならいける!」
そのまま、怪物が魔法を撃ち終わった隙に、大剣を振りかぶりながら怪物に突っ込んでいく。
怪物はそんな僕の姿を確認すると、迎え撃つかのように正面から対峙し、人の腰回りくらいはあろうかというサイズの前脚を振り上げ、大剣の攻撃に合わせて振り下ろした。
やがて、大剣と怪物の爪がぶつかると、甲高い音を立てて辺りに小規模の衝撃波が発生した。
(ぐうっ!? おっも……! けど、なんとか耐えれてる!)
「グルルルッ……!」
内心苦しみながらもなんとか怪物の一撃を受け止めたことで、怪物の動きが止まった。
その隙にプルニーマを怪物の側面から飛ばし、攻撃を加える。
「グガッ……! ガァァァッ!!」
それにより、毛皮や体自体の硬さのせいで深い傷をつけるには至らなかったが、いくつもの浅い傷をつけることはできた。
それを煩わしく思ったのか、怪物は大剣とぶつかり合っていた前脚を無理やり振り抜き、僕を引き剥がすと、全身を回転させる事でプルニーマを風圧で吹き飛ばした。
その行動は今の状況に対しての最適解だった。
……先程まで僕の隣にいた、もう1人の存在を怪物が忘れていなければ。
「……モード『風炎』」
気配を断ち、倒れた柱の影に隠れていたノアルが、怪物の背後からとてつもないスピードであっという間に接近した。
既に身体強化の魔法を使っているようで、体には純白の魔力を纏っている。
その両手にはいつも通り双剣が握られているのだが、今までのものとは少し様子が変わっていた。
その右手の剣には可視化できるほどの密度を誇った暴風を、左手の剣には真っ赤に燃え盛る爆炎をそれぞれに纏わせている。
「シャアアッ!」
案の定、突っ込んでくるノアルに対して、怪物の尻尾部分にあたる蛇の魔物が噛み付こうと首を伸ばしてきた。
「んっ……!」
それを見たノアルは、少し離れたところからその蛇の魔物目掛けて右手に持った風の剣を振り抜いた。
空を切る音と同時に放たれたのは、先程まで怪物が使っていたような風の刃。
それは真っ直ぐに蛇の魔物に飛んでいき、怪物の尻尾部分である蛇の魔物を根本付近からスッパリと切り落とした。
「グギャァッ!?」
体の一部を切り落とされた怪物は苦しみの声を上げて暴れ出す。
「……もう一発」
それを掻い潜りながら、追撃を加えるためにノアルは、そのままのスピードで怪物に突っ込んでいく。
それを追い払おうとしたのか、怪物は再び魔法を使うために翼をはためかせる。
「僕もいる事を忘れずにね!!」
ズバァァンッ!
が、注意が逸れた隙に後ろに回り込んでいた僕は、持っていた大剣で怪物の片翼を斬り飛ばした。
「ガギャアアアアア!!!」
尻尾に続き、翼までも斬られた怪物は更なる苦痛の声を上げて地面に堕ちた。
そのため、魔法を撃つための集中力を保つことができず、ノアルの接近も防ぐことができなかった。
「……これで、終わり!」
そう言いながらノアルは、両手に持っていた双剣を頭上で振りかぶり、ぴったりと重ね合わせて一本の剣のようにすると、さらに魔力を流し込んだ。
そうすると片方の剣から吹き上がった炎が、もう片方の剣から発せられた風でさらに激しく、大きく燃え上がっていく。
さながら炎の大剣と呼ぶべきものとなったその双剣を、ノアルは思い切り怪物に叩きこんだ。
ドガァァァァン!!
「ギャアアアアア………! グルゥ……」
とてつもない威力を誇るノアルの一撃によって吹き飛んだ怪物は、建物の壁にぶつかり、何度か痙攣をした後にその動きを止めた。
その体に大きな焦げ跡を残して。
「……やった。 ……あ」
見事に怪物を倒したが、ふらっと少しだけよろめいたノアルの肩を僕はしっかりと受け止めた。
「っと、大丈夫、ノアル?」
「……んー、ちょっと魔力使い過ぎた」
「威力は凄かったけど、やっぱりもう少し改良しないとかもね。 でも、とにかく助かったよ。 ありがとね、ノアル」
「……ん、お安いごよう」
*
その後、ノアルは魔力を自分の指輪で回復させ、その間に僕は、自分とノアルの武器を少しメンテナンスをし、それぞれの準備を整えた。
「それじゃあ、探索しようか。 とりあえず、生き残りの人がいないかという事と、なにか気になるものがあったら回収することを目的としよう」
「……ん、了解」
それから僕とノアルは、改めて研究所の探索を始めた。
ただ、しばらく歩いても、研究所の廊下などに魔物が現れたり、既に事切れた研究員と思しき人たちを何人も見かけたりはしたが、あまり成果と呼べるようなものは見つけられなかった。
今は施設の奥の方に位置する研究室の一つを2人で探索している。
ふと、その部屋の机の上を見てみると、なにやら気になる書類を見つけた。
「ん? これは……」
「……なにか見つけた?」
ノアルが物色していた棚から離れこちらに近づいてくる。
……来るのはいいけど、その手に持っているホルマリン漬けみたいのは置いてきて欲しいんだが。
「……新種の魔物兵器について?」
「うん、恐らくだけど、さっきの怪物の事じゃないかな?」
『—— 魔物兵器キマイラの戦闘実験報告 : 開発責任者 モブリー ——
先日開発に成功した魔物兵器(キマイラと後述する)と犯罪奴隷数十名を同じ空間に閉じ込め、戦わせた結果、圧倒的なスペックでキマイラが圧倒、勝利した。 しかし、キマイラの能力自体は証明されたのだが、いかんせんそれを抑え込むのにコストがかかりすぎている。 現在は秘密裏に捕らえ、地下に幽閉しているエルフの女の魔力を絞り取る事で賄っているが、いずれ新たな代案が必要となるだろう。 それから……』
「キマイラ、それがあの怪物の名前……」
「……ひどい事ばかり。 ……許せない」
「それに、地下にエルフが捕らえられているのか……」
「……行くの?」
「うん、そうだね。 もういないかもしれないけど、確認するだけしよう。 証拠としてはこの資料があれば足りるだろうし、この辺りの探索は終えて地下に向かおうか」
「……分かった」
机の上に並べられていた研究資料をアイテムボックスにしまい、僕達は地下への階段を降りた。
地下はなにやら物々しい雰囲気が漂っており、少し血生臭い匂いもする。
幾つか牢獄のような作りをした部屋や怪しい道具が多々あることから、ここは恐らく実験施設だったのではないかと当たりを付けた。
そこまで広くない地下を歩き回っていると、隣を歩いていたノアルが耳をピンッと立てて立ち止まった。
「ん? どうしたの?」
「……今、声が聞こえた」
「え、そうなの?」
「……ん、多分この先」
「分かった、一応気配は断って行くよ」
「……んっ」
気配を断ち、足音を立てないように移動する。
ノアルが言うには声はこの先に見えている扉の奥から聞こえるらしい。
その扉までもう少しといったところで、やっと僕にも声が聞こえてきた。
「やめ……… こっ……に…こな……で……」
「!!」
ノアルを見ると、こちらを見て頷いたことから、先程まで聞こえていた声と同じだという事が分かった。
気配を断ちながら出せる最高速で扉まで移動したショーマ達は、声を出さずに念話で会話をする。
(気配からして2人いるから、とりあえず中に入って状況を確かめよう。 そこからは臨機応変にね)
(……了解)
(じゃあいくよ…… 3、2、1……)
ドガンッ!
扉を蹴破り中に入ると、白衣を着た小太りの男が手足を拘束された少女に覆い被さっていくところだった。
ショーマが動くよりも早く、隣からノアルが飛び出し、男の顔面を思い切り蹴飛ばした。
「な、なんだ貴様…… グペッ!?」
「……離れろ、汚らしい」
……ノアルが底冷えするような視線で蹴り飛ばした男を見下ろしているのを見て、ちょっと怖くなった。
それを横目で見ながらショーマは手足を拘束された少女の方を介抱する。
「助けにきたよ。 大丈夫かい?」
「あ、あなた達は……?」
そう言ってこちらを見上げる少女は、長い金髪に少し気の強そうな翠眼をしており、中でも目を引くのは人間よりも長く尖っている耳だ。
……彼女がエルフなのか。
地球の空想上の絵はそこまで間違いじゃなかったみたいだ。
だが、そんなものよりも目の前の少女は美しく見える。
やはり、絵と実際に生きている様子を見るのとではその辺りに違いが生まれてくるのだろう。
「僕達は冒険者だよ。 色々あって君の事を知ってここまで来たんだ」
「アタシの事を……?」
「とりあえず、落ち着ける場所を探そう。 まずはそれからだ。 ……そこの男にも話を聞かないとだしね」
ひとまず僕達は、男とエルフの少女を連れ、地下から脱出した。
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