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第四章 帝都動乱

#74 帝都のギルドマスター

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 現在、僕達は帝都の冒険者ギルドへの道をザースさんの案内の下、走っている。

 外壁の上からスカイボードで飛んで行くという事も考えたのだが、その案は帝都の現状を見て却下させてもらった。

 その現状というのも……


「くそっ、本当に魔物が都中にいるみたいだね」

「……しかも、普通の魔物より凶暴な気がする」


 そう、都中の至る所に暴れている魔物がいるのだ。

 幸い、1匹1匹はそこまでの強さではないため、冒険者ギルドへ向かう道中の魔物を倒しながら進んでいても、そこまでペースは落ちていない。

 だが、個人的に魔物より気になっているのは、やはり帝都民たちのことだ。

 外壁付近から現在まで、所々壊されている建物は見かけているのだが、兵士はおろか、帝都民の1人すら見当たらない。

 既に避難したのか、それとも、もう魔物にやられてしまったのか……

 嫌な想像を無理やり頭の奥底に押し込み、僕達はギルドへの道をひた走る。


 キィン…… ドォォン……


「見えてきた、あそこが冒険者ギルドだ」


 曲がり角を曲がり、大通りに入った所でザースさんが前方を指差してギルドが見えてきたことを知らせてくれた。

 そして、ギルドが見えてきたと同時に、先程から聞こえていた戦闘音が段々と近くなってきており、恐らく冒険者かこの国の兵士と思われる人達が魔物と戦っている姿も徐々に見えてきた。


「人がいる所に集まっているみたいだね! ショーマ! ノアル! 早いとこ加勢するよ!」

「……んっ。『身体強化』」

「分かりました。『スピードブースト』!」

「ちょ、おい! 待ってくれ……!」


 僕達はそれぞれが持てる最高速度でギルドに向かって走り出す。

 とは言え、ザースさんを除くとこの中では僕が1番遅いんだよなぁ…… 

 ユレーナさんはスキルとか魔法とか使ってないのに……


「加勢するよ! ハァッ!」

「……後ろがガラ空き」


 あっという間に魔物の背後に着いたユレーナさんとノアルが固まっていた魔物数匹をあっという間に倒し、そのまま冒険者達や兵士達の集団に加わる。


「グルァァァ!!」

「って、こっち来ちゃうの!?」


 後ろから急に攻撃された魔物の群れの内、数匹が僕の方に襲いかかってきた。 確かに後ろに立っていたのは僕なのでしょうがないけども! 

 自分のスピードの無さが嫌になるなぁ……

 来てしまったものはしょうがないので、こちらも剣と魔法、加えてプルニーマを使って迎撃する。

 それからはあっという間に乱戦状態だ。 

 冒険者ギルド周辺に群がる魔物を片っ端から倒していく。

 幸いなことに、冒険者ギルド周辺は外壁を背負うような形で立っているので、基本的には正面だけを守ればいい。

 やがて、僕らが駆けつけた時には50匹くらいいた魔物も順調に数を減らし、十数分後には全て倒し切ることができた。

 ……ちなみに半数近くは暴れに暴れたユレーナさんが倒したものである。


「……終わった?」

「ひとまずはそうみたいだね。 ありがとね、ノアル。 途中からこっちに来てくれて」

「……ん、パーティーメンバーなんだから当然」


 結局、最後まで僕は冒険者達の中には加わらず、冒険者達と魔物を挟み込むような形で魔物の相手をしていた。 1人で相手できていたのは、魔法に剣、更にはプルニーマがあったからであろう。 

 途中からノアルも来てくれたし。 

 それに……


「ザースさんも手伝ってくれてありがとうございました」


 そう、少し遅れて到着したザースさんも僕達の方で戦ってくれていたのだ。


「……ザース、普通に戦えてる」

「まぁ…… これでも警備隊の部隊長の1人だったから、並程度には戦える」


 意外と言っては失礼だが、想像以上ザースさんは強かった。 

 先程は期待するなと言っていた所を見るに、恐らく自己評価が低いタイプの人なんだろう。


「おーい! ショーマ! こっちに来な!」


 少し話していた所にユレーナさんが声をかけてきた。

 その声に従ってギルドの前まで行くと、ここに魔物がたくさん集まってくる理由が分かった。

 ギルドの入り口から見えるだけでも、かなりの一般都民の人達がおり、改めて気配察知を使ってみると、ギルドの2階、更には隣の武器屋、解体場などにも沢山の気配を感じ取れた。

 恐らく、避難してきた人達だろう。 

 皆、一様に不安そうな表情を浮かべている。


「来たね。 とりあえず、ここのギルドマスターに会いに行くよ。 ……出来れば会いたくないんだけどねぇ……」

「わ、分かりました」

「その必要はない」


 ユレーナさんが珍しくゲンナリした表情を浮かべてギルドの中へ入ろうとすると、ギルドの入り口から1人の男性が出てきた。

 その男性は、どちらかと言うと痩せ気味、そして、身長もかなり高い部類に入るスラッとした体型で、冒険者というより学者のような風貌をしていた。 

 加えて、眼鏡をかけており、首にはスカーフのようなものを巻いている。


「久しぶりだ、ユレーナ。 相変わらずの実力だな」

「……ふん、アンタは前に比べてやつれたね。 仕事のしすぎかい?」

「ふっ…… 久しぶりだと言うのに手厳しいな」


 恐らくユレーナさんの言葉は皮肉だろう。 

 ギルド本部に報告が来てないと言っていたからな。


「まずは今回の戦いに加勢してくれたことに感謝する。 ユレーナだけでなく、そちらの2人もだ。 私の名前はゲラルトという。 これでも帝都のギルドマスターだ」

「……アンタが素直にアタシに礼を言うなんて。 明日は空から槍でも降るかもねぇ。 ……それで? アンタならアタシが来た理由は分かるだろう?」

「……分かっている。 煮るなり焼くなり好きにするといい」


 その言葉に周りにいた冒険者達がザワッとなった。 

 その反応を見るに、ショックを受けているみたいだが…… 

 どういう事なんだろう?


「潔いね…… まぁ、それは良いが、煮るなり焼くなりする前に、なんで報告をしなかったのか聞きたいんだけど?」

「それは…… 言えない」

「……なんだって?」

「……すまない。 言いたくないのではなく言えないんだ」


 そう言ってゲラルトさんは首に巻いていたスカーフを外し、首元をこちらに見えるように差し出す。

 そこには、何やら幾何学的な模様をした黒色の首輪が直接首に描かれていた。


「それは…… 呪いかい? 発動条件は?」

「これを私に着けた者の不利益となる行動をしない事、だ」


 呪いというのは、闇魔法の中にある『カース』という魔法の別称だ。

 僕も一応使えるが、まだ使った事はないし、色々効果や制約があるみたいという、ざっくりとした知識しか知らない。


「ふむ…… という事は帝国には知られたくない事があるって事だね?」


 ゲラルトさんはユレーナさんの発言になんの反応も示さないが、恐らくはそれで合ってるだろう。


「解呪はしないのかい?」

「かなり高位の闇魔法使いがかけたものみたいでな。 生半可な使い手じゃ解呪出来ないんだ。 そもそも、私が簡単に呪いをかけられたと思っているのか?」

「どういうことだい?」

「……人質が取られている」

「……そこまで下種だったのか。 この国の人間は。 だが、アンタにとっての人質って誰なんだい? ギルドの職員とか?」

「妻だ」

「……は?」

「……妻だ」

「…………………………」

「何をそんな驚いた顔をしている。 私だって1人の男だぞ?」

「え、いや、だって、アンタが? 万年魔法研究バカだった、あのアンタが妻だって? 冗談だろう?」

「……一度お前の私に対する評価を改めさせる必要がありそうだな」


 ユレーナさんは余程驚いたのか見たこともないような表情をしている。 

 それに対してゲラルトさんは、ゲンナリとした顔をしてツッコんでいる。

 今の話を聞くに、ユレーナさんとゲラルトさんはかなり昔からの付き合いなのかな?

 一体、2人はどういう関係だったのだろうか?

 
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