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第四章 帝都動乱

#71 護衛依頼

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「え、帝国に僕達がですか?」

「ああ、そうさね」


 現在、僕とノアルは冒険者ギルドの執務室にいる。

 朝一番に冒険者ギルドに来て何か依頼を受けようかと思ったのだが、受付にいたリムさんに呼び止められ、あれよあれよという間に、執務室まで案内されていた。

 執務室に入って、呼ばれた理由を聞いていたのだが、それはかなり予想外の言葉だった。


「えっと、依頼という形になるんですかね?」

「そうだ。 形式としては護衛依頼になる。 護衛対象は私だよ」

「……え、ユレーナさんに護衛なんているんですか?」

「おいおい、これでもか弱い女だよ、アタシは。 ちょっとその反応はないんじゃないかい?」

「はぁ…… そうですかね?」


 剣の一振りで大地を切り裂く女の人が本当にか弱いと言えるのだろうか……?


「もう…… ギルドマスター? ふざけていないで用件を伝えてください」

「はいはい、分かったよ。 まぁ、確かにアタシも護衛なんていらないって言ったんだが、リムを始め、周りが許してくれなくてねぇ。 仕方ないから腕の立つ冒険者パーティーを護衛として一緒に行くことになったんだ。 どうだい? 引き受けてくれないかい?」

「それは構いませんが、なんのために帝国に行くんですか? 今はかなり難しい時期だと思いますけど」

「その事についてもしっかり説明するよ。 今回、帝国に行く目的としては正式に冒険者ギルドに抗議しに行こうというのが一番だ」

「抗議というと、何に対してですか?」

「以前、チラッと話をしたと思うが、本来ギルドはどの国にも属さない中立の立場で、もし冒険者ギルドがある国でなんらかの問題…… 例えば今回のような隷属の輪に関する事のような問題が発生した時には、何かしら冒険者ギルド本部に報告が来るはずなんだが、帝国にあるギルドからはどこの支部からも音沙汰がないんだよ。 それも、冒険者ギルド本部からの書状が届いている筈なのにも関わらず……だ」

「なるほど…… 確かにそれは妙ですね」

「だろう? だからもういっそ殴りこ…… ん゙ん゙っ、直接話を聞きに行けってグランドマスターから言われたんだよ」


 ……今、殴り込もうって言おうとしたよな、ユレーナさん。 

 グランドマスターもそれを認めてるっぽいけども。


「本当に注意してくださいよ? ギルドマスター。 いくらグランドマスターからの許可があるからと言って無茶苦茶しちゃダメですからね?」

「いいじゃないか別に。 個人的にアタシは帝国帝都のギルドマスター嫌いだし」

「そんな子供みたいな事言わないでください」

「はぁー、分かったよ。 向こうが何かしてこない限りは大人しくしておく」


 なんか物騒な話してるけど、僕達も付いていくんだよな…… 

 なにか騒動が起きなきゃいいんだけど。


「それで、改めてだけどこの依頼受けてくれるかい?」

「えぇ、僕は構わないです。 ノアルもいい?」

「……ん、問題なし」

「でも、僕達でいいんですか? 万全を期すなら他にも腕の立つ方達の方がいいんじゃないかと思うんですけど」

「アンタ達も実力なら十分トップクラスだよ。 ランクが伴ってないだけでね。 それに、クラウス達はこないだスタンピードが起きたダンジョンの方へ調査に行っているし、ギルン達もまた獣人国へ行ってもらってるから、必然的にアンタ達が一番適してるんだよ。 それに、アンタ達に一つ提案というかお願いがあるんだが、聞いてくれないかい?」

「なんでしょうか?」

「アンタ達が使ってるスカイボードだっけ? それをアタシにも貸してくれないかい? そうすれば馬車でアホみたいな時間かけずとも帝国まで行けるだろう?」


 確かに帝国の帝都まで行くとなると、馬車だと多分、数日はかかるだろう。

 隣国とはいえかなり距離があるし。


「はい、いいですよ。 予備も何個か作ってありますから全然いけると思います」

「そうかい! 助かるよ!」

「あ、でも流石に少し練習しないと危ないですよ? なので出発する前に少し時間を作ったほうがいいと思います」

「うーん、そうさね…… それじゃあ出発の時間も今、決めよう。 なるべく早く出発したいんだが、大丈夫かい?」

「はい、特に依頼とかも受けていないので大丈夫ですよ」

「それじゃあ……」


 結局、今後の予定としては、帝国に出発するのは明日の夜明け辺りに決まった。 これは、こちらを夜明けくらいに出れば帝都には昼過ぎくらいには着けるという計算の下である。

 なので、今日一日は明日の準備として、午前中僕達は必要なものの買い出しで、ユレーナさんは片付けなきゃいけない仕事の処理、そして、午後からはユレーナさんとスカイボードに乗るための練習をする事になった。

 ちなみにユレーナさんは、さりげなく午前中から僕達と行動を共にしようとしたのだが、横にいたリムさんの素敵な笑顔+仕事の残りがあると告げられた事で撃沈していた。 


「それじゃあ、また後で街の外で集まりましょう。 僕達は色々と買い出しに行ってきますね」

「はぁ…… アタシも付いて行きたかったよ」

「ダメですよ、ギルドマスター。 本当だったらこんな大変な時に帝国に行く事もして欲しくないんです。 だから、せめて最低限は仕事して行ってください」

「全く…… そんな小言ばかり言ってたら、将来嫁になった時、旦那に嫌われちまうよ?」

「なっ!? そ、そんな事、今は関係ないでしょう!?」

「いーや、分からないよ? なぁ、どう思うショーマよ?」

「え! 僕に聞くんですか!?」


 このタイミングで僕に振らないで欲しいんだが! 

 確かにこの部屋に男は僕しかいいけれども!


「ショ、ショーマさんは私みたいな口うるさい女は嫌いですか……?」


 リムさんも、なんでそんな、なんとも言えない目で僕を見てくるんだ……?


「い、いや、リムさんを口うるさいなんて思った事ないですし、ユレーナさんに色々言っているのも、ユレーナさんの事を思ってのことですよね? だから、僕はリムさんの事、優しくていい人だと思ってますよ」

「はぅ…… あ、ありがとうございます」


 リムさんはそう言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「……むぅ。 ……ショーマ、色々と準備あるし早く行こ?」

「あ、うん、そうだね。 それじゃあ、ユレーナさん、また後で。 リムさんも、また」

「あぁ、また後で頼むよ」

「あっ、お、お気をつけて~!」


 ユレーナさんとリムさんに一旦別れを告げ、僕達は執務室を後にした。


 
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