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第三章 獣人国へ

#66 最上位種

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 僕達がいる場所から少し離れた森の入り口に現れたのは、上位種よりもさらに上。 

 種の頂点という意味を込めた、最上位種と呼ばれる魔物だ。

 名称は、ゴブリンキング。

 その名の通りゴブリンの王であり、ただでさえ繁殖力の高いゴブリンの全てを支配し、まさに王と呼ばれるに相応しい力を持っている。

 大きさは4~5mくらい、手には2mは軽く超えているであろう、先端が四角い形をした肉切り包丁のような大剣を持っている。

 そのゴブリンキングのステータスを見るために、鑑定魔法を使ってみると、


  ゴブリンキング  Lv85

  種族:ゴブリン
               
  スキル:大剣術 Lv7    統率 Lv7    王者の威圧    自己再生
      

      HP:24713/24713
      MP:1681/1681
      力:3863
      速:942
      技:1387
      守:3049
      魔:539
      運:10


 ……かなり強い。 

 特にHPと力のパラメーターが高く、守りのステータスもかなりのものだ。

 恐らく、並大抵の武器や魔法の攻撃は歯牙にもかけないだろう。

 ちなみに、周りにいたゴブリンジェネラルの方も鑑定してみたところ、Lvは40前後でステータスはゴブリンキングの半分くらいといったところだった。

 それを確認した僕は、近くにいたノアルやギルンさん達にもこの鑑定結果を伝え、周りにいた他の冒険者達にも鑑定結果を共有するように頼んだ。


「ショーマ、私達はジェネラルの方をやるぞ」


 その結果を聞いて、ギルンさんが僕とノアルに向かってそう告げる。


「それは構いませんが、キングの方はどうするんですか?」

「キングがいる位置には、クラウスのパーティーがいるはずだ。 ……それに、デカイのが現れたと知ったら、ギルドマスターも恐らくあそこに向かうだろう」

「ああ…… 確かにそうですね……」


 ユレーナさん、ひょっとしなくても戦いが好きだからなぁ……

 今頃、嬉々として向かっているんじゃないだろうか?


「まぁ、そのメンバーに任せておけば大丈夫だろう。 私達は取り巻きを早いところ倒してしまおう」

「そうですね。 それじゃあ、ここからは出し惜しみ無しでいきましょう」

「あぁ、そうだな。 それでは、さっきと違い、今回は手分けしていくぞ。 お前達ならジェネラルであっても単騎で倒せる相手だろうが、油断せずにな」

「分かりました。 それじゃあ、まずは…… 『フィジカルブースト』『スピードブースト』『マジックブースト』!」

「む……! これは……」

「おお! 体が軽いっす!」

「それに、力も湧いてくるな」


 以前、ノアルに使った支援魔法をとりあえず近くにいたギルンさん達を始めとした冒険者達にかけておいた。

 支援魔法がかかった冒険者達は、力、速さ、魔力のパラメーターが少し上昇する。 

 今回は人数が増えた分、魔力消費は増えたが、それでも僕の魔力にはまだまだ余裕があるので、これくらいはなんの問題もないだろう。


「皆さんに支援魔法をかけました! 込めた魔力量的に、恐らく1時間程で効果は切れるので、その辺りになったら注意してください!」

「助かるぜ!」

「ありがとう!」

「分かったわ!」


 戦ってる時に急にブースト効果が無くなったら少し困るだろうから、先に言っておいた。 

 皆、しっかりと返事やお礼の声をかけてくれたので、心配はないだろう。


「よし! それではそちらは任せる! ジェネラルを討伐したら、その後の判断は各自で頼む!」

「分かりました! 行こう! ノアル!」

「……ん!」


 僕とノアル、他にも沢山の冒険者が、まずは手前にいたゴブリンソルジャーやゴブリンシーフと対峙する。


「……身体強化、レベル3」

「『ウィンドカッター』!」


 ノアルは身体強化を使い、ソルジャーやシーフを薙ぎ倒しながらジェネラルへと真っ直ぐ向かっていく。

 僕は魔法やプルニーマを牽制に使い、それで怯んだ奴等を次々にロングソードで倒していった。

 以前、ソルジャーとメイジと戦った時より、ステータスが比べるのも烏滸がましいレベルで上がったおかげか、ソルジャーやシーフには全く手こずる事なく進む事が今のところは出来ていた。

 僕達はその勢いのまま、あっという間にソルジャーとシーフの群れを抜け、その先にいたジェネラルの所までたどり着いた。 

 そこには2匹のジェネラルがそれぞれの武器を構えており、既に僕達の事を視界に捉えているみたいだ。 

 さらに、その後ろには5匹のゴブリンメイジもいる。


「ジェネラルがメイジを守ってるね…… 先にジェネラルを倒さないとダメかな?」

「……多分、そう」

「それじゃあ…… おっと!」

「ゲギャァ!」


 話している最中に、ジェネラルの1匹が斧を振り下ろしてきた。

 僕とノアルはそれを左右に跳んで回避する。


(ノアル? 聞こえてる? メイジは僕がなんとかするからノアルはジェネラルの足止めをお願い。 無理しなくていいからね)

(……ん、分かった)


 念話をしている最中にも、メイジが色々な魔法を放ってきていて、まずはこれをなんとかしないとジェネラルの相手は少し苦労するだろう。


「『シールド』!」


 なので、まずはメイジが放ってきた魔法をシールドで防ぐ。

 そして、メイジが魔法を放つために、再度魔力を高め始めた所へ、最近作った新武器である投げクナイをアイテムボックスから取り出し、メイジに向かって投げた。

 クナイに驚いたメイジは、魔力を高めるのを中断し、そのクナイをすんでのところで避ける。 

 その避けたクナイは、メイジの足下の地面にサクッと突き刺さった。

 だが、それでは避けた事にはならない。


 ボカァァァン!!


「「グギャーー!?」」


 地面に突き刺さったクナイは、一瞬光ったかと思うと大爆発し、ゴブリンメイジを大きく吹き飛ばした。

 1匹巻き込めれば十分だと思ったが、2匹巻き込まれてくれたのは嬉しい誤算だった。

 今、僕が投げたクナイは、魔石と鉄を加工して作ったもので、今投げたクナイには火魔法の『エクスプロード』が付与されている。

 基本的にはプルニーマの構造と同じで、僕の魔力操作によって爆発するタイミングは決定できる。  

 なので割と使い勝手はいい。 

 使い捨てなのが唯一の欠点だろうか?

 ちなみに、他にも色んな魔法が付与されたクナイが沢山、アイテムボックスには入っている。 

 例えば、出力高めのライトの魔法が付与された閃光手榴弾モドキや、スリープの魔法が付与された麻酔弾モドキのクナイなどがある。


「さっさと片付けてノアルに合流しないとね」


 プルニーマとクナイで魔法を放つ隙を与えず、最終的には僕のロングソードで残りのメイジを倒していく。


「これで…… 最後!」

「ギャ……」

 
 そうして3匹のメイジを倒し終え、ノアルの方を見ると、


「……レベル4」


 純白の魔力を身に纏い、ジェネラル2匹の攻撃を避けながら、少しずつ反撃しているところだった。


「ガァァ!」


 ジェネラルが雄叫びを上げながら、ノアルに向かって斧を振り下ろす。

 散々攻撃をかわされたのか、ちょっと苛立っているように見えるのは気のせいじゃないだろう。


 キィン!


 そんなジェネラルとノアルの間に僕は割り込み、その攻撃をロングソードで受け流す。 

 そして、大振りの隙をついて、ジェネラルの腕を深く斬りつける。


「お待たせ、ノアル」

「……ありがと」

「こちらこそだよ。 引きつけてくれてありがとう」


 メイジをあっさり倒せたのも、ノアルがジェネラルを引きつけてくれていたおかげだ。

 それに見合う働きをしないとな。 

 パートナーとして恥ずかしくなってしまう。


「『アイスバインド』」


 まずはジェネラルの片方を、水魔法を使って動きを封じる。

 体の動きを封じる氷からなんとか逃れようともがいているが、10秒くらいは抜けれないだろう。

 なので、その間にもう片方の相手をする。

 1対2になったが、そんなことはお構いなしといった風に、ジェネラルは僕達に向かって斧を振り回しながら突っ込んできた。

 僕はその攻撃をロングソードで捌き、僕に注意が向くように引き付ける。


「いいのかい? 僕の方ばかり見ていて」


 僕が引き付けている隙に、今度は横から回り込んでいたノアルが、空中に跳び上がりながらジェネラルの武器を持っている方の腕を目にも止まらぬスピードで何度も斬りつけ、傷をつけた。


「グギャーー!?」


 たまらず斧を手放したジェネラルに向かって、今度は僕が突っ込んで行く。

 それを認識したジェネラルは、僕に向かって大きな拳を突き出してくる。

 が、その拳を僕の周りに浮かせていたプルニーマのシールドを展開し、角度をつけることで逸らす。 

 恐らく、まともに受けるとシールドが割れてしまうから。

 そして、腕を突き出したことでガラ空きになった胴体を斜めに深く斬り裂くと、肉を裂く確かな手応えを感じた。

 一瞬の硬直の後、ジェネラルの目から光が消え、そのまま地面に倒れ伏した。


「グラァァァァ!!!」


 1匹倒したのも束の間、同族が倒されたのを見て怒ったのか、もう1匹のジェネラルがアイスバインドの拘束から無理やり抜け出し、こちらに走ってきた。


「……遅い」


 それを見た僕の隣にいたノアルが、ジェネラルに突撃していった。

 ノアルはそのままのスピードでジェネラルの攻撃をあっさりかわすと、懐に潜り込み、その胴体に深く斜めに十字の傷をつけた。

 その攻撃を受けたジェネラルは、正面から地面に倒れ、その動きを止めた。

 ……参戦する必要無かったなー。

 アイスバインドを抜け出すためにかなり力を使ったみたいで、動きが鈍っていたというのもあり、あっさりノアル1人で倒してしまった。


「ノアル、お疲れ」

「……ん、大したことない。 これからどうする?」

「そうだね……」


 周りを見渡すと、大半の冒険者はソルジャーやシーフなどと戦っていて、こちらもそこまで苦戦はしておらず、着実に殲滅していってるようだ。

 少し離れたところで戦っているギルンさん達の方を見てみると、丁度ギルンさんの大剣が、ジェネラルの首を斬り飛ばしていたところだった。

 周りに2匹の倒れたジェネラルがいるので、あれがひとまず最後の1匹だったのだろう。


「とりあえず、近くにいるメイジを倒そうか。 皆、ソルジャーとシーフに阻まれてメイジには手が出せてないみたいだから」

「……ん、賛成」


 ざっと確認したところ、メイジは近くに10匹くらいはいるみたいなので、僕達はそれを倒す事にする。


「……手分けする?」

「いや、まだまだメイジ以外にも沢山いるから一緒に行こう。 意図せず囲まれたりしたら怖いしね」

「……心配してくれてるの?」

「そりゃあ、するよ。 余計なお世話だったかな?」

「……そんな事ない。 ……嬉しい」


 嬉しそうにこちらを見て微笑みながらノアルがそう言ってくる。 

 こんな時だが、その表情に少しドキッとしてしまった。 

 余裕そうですね、ノアルさん。

 僕もちょっとその余裕を見習ったほうがいいかな?
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