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第三章 獣人国へ
#65 スタンピード(3)
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「おーい! 交代だ!」
僕達の後方から大きな声でこちらに呼びかけてくる冒険者達の声と沢山の足音が聞こえてきた。
後ろを少し見てみると、最初に外壁前に集まっていた人数と同じくらいの後発組が戦意十分! と言った様子で走ってきた。
そんな後発組は、あっという間に僕達の戦線に加わると、戦線をあっという間に押し返し、余裕を作ってくれた。
その隙に、先発組は戦線から離脱し、後方へと退がる。
僕達先発組は恐らく、1時間と少し戦っていたと思う。
その間、僕は基本的に援護をしたり討ち漏らしを倒したりといった立ち回りをしていたが、それでも2、30匹くらいは魔物を倒した気がする。
僕でこの量なのだから、ギルンさん達やノアルが倒した魔物の数は3桁いってるんじゃないかな?
「……ショーマ」
そんな事を考えていると、いつの間にか僕の横にノアルが並走していて、声をかけてきた。
「あぁ、ノアル。 お疲れ様。 怪我はない?」
「……平気。 ……ショーマは?」
「大丈夫だよ。 全然なんともない」
「……良かった」
「ちょっと汚れてるし、生活魔法で綺麗にしておくよ」
「……ん、ありがと」
ノアルにウォッシュとドライの魔法をかけ、魔物の体液を洗い流す。
流石と言うべきか、返り血は一滴たりとも浴びていなかったようだ。
まぁ、浴びていたとしても簡単に落とせるのだが。
「本当に、お前達は仲がいいな」
「あ、ギルンさん達。 お疲れ様です。 皆さんにも生活魔法かけておきますね」
「え、いいんすか?」
「魔力を使う量は微々たるものなので大丈夫ですよ。 さっきの戦闘ではほとんど使っていませんし、休めば回復するので」
「それならありがたくお願いする」
僕はギルンさん達、それに、一緒に周りで戦っていた人達にもまとめて生活魔法をかける。
もう1人、魔法使いの中で生活魔法を使える人がいたので、3分の1くらいの人達はその人に任せる事にした。
そうして戦線から離脱した僕達は、少し時間をかけて街の外壁の近くにまで戻ってきた。
そこには簡易的な拠点のようなものが設置してあり、水や簡易的な食事が準備されていた。
「今、戦って来た皆さん! お疲れ様でした! 一先ず、体を休めてもらうために、テントや食事が用意してあります! 戦える人員を3陣に分けてるので、皆さんが次に戦うのは恐らく、2時間ほど後です! それまで体をしっかりと休めてください!」
次に戦うのは2時間後か。
正直、まだまだ体力的にも魔力的にもいけるので、次の1陣に混ざって、戦闘に加わるのもいいかもしれない。
「……ショーマ、次の戦闘もいけるとか思ってない?」
「え" ……なんで分かったの?」
「……やっぱり。 ……顔に出てた」
……スキルでポーカーフェイスとか無いのかな?
あったら今、とても欲しいのだが。
「……ちゃんと休まなきゃダメ。 ……特に、ショーマはこの戦闘において一、二を争うくらい大事な存在。 ……いなくなられたら困る」
「でも、1時間も休めば十分魔力は回復するし……」
「ノアルの言う通りよ。 ちゃんと休みなさい?」
ノアルと話していると、ミリアンヌさんがこちらに歩いて来て話しかけてきた。
クラウスさん達も既に戻って来たんだな。
「それに、1時間休んだくらいじゃそこまで回復はしないでしょう?」
「いえ、それくらい休めば大規模魔法で使った魔力の半分くらいは回復しますよ?」
「あら、そうなの? 魔素の吸収率がいいのねぇ。 私もいい方だけどそこまでは回復しないわ」
この世界の大気には魔素と呼ばれる魔力を帯びた空気のようなものが漂っており、魔素の濃度が高い場所には魔物が沢山いたりするらしい。
魔法が使えるのもその魔素のおかげで、魔素を空気中から呼吸などによって吸収する事で、魔力が回復するそうだ。
「……でも、休まなきゃダメ」
「そうね、自覚無くとも体は疲れるものよ。 それに、今回戦っている皆は強者ばかりだから心配いらないわ。 怪我をしても、よっぽどでない限りマイヤとか他の光魔法の使い手が治してくれるしね」
「あ、それなら手伝えるかもしれません」
「うーん…… さっき見て来た感じ、そこまで怪我人がいる訳でもないから大丈夫じゃないかしら?」
「そうですか……」
「……大人しく休む」
「うん…… 分かったよ。 ちょっともどかしいけど」
せめて、何かあったらすぐに動けるようにはしておこう。
「そういえばノアル? あなた、この前話した事はどうなったの?」
「……ん、ちゃんと伝えた。 ……ノアルがショーマの事、好きって」
「あら、そうなの! アラサドから帰って来てから、少し親密になったように見えたのは間違いじゃなかったようね!」
「え、なんの話ですか?」
「ほら、私達とノアルが初めて会った時に、私とノアルの2人きりで会ったことあったじゃない? その時に色々と相談に乗ってたのよ」
「あー…… そうだったんですか」
「……まだ、正式に一緒になった訳じゃないけど」
「それは、どういう事? なんて答えたの、ショーマ君?」
「えーっと、ノアルが好きと伝えてくれたのは本当に嬉しかったんです。 でも、僕が今、ノアルに抱いてる気持ちが恋愛感情なのかどうか分からないので、そんな中途半端な状態で返事をするのは違うかなと思って、申し訳ないけど返事は保留させてもらっています」
「ふーん…… 難しく考えすぎだと思うけど、本人達がそれでいいなら私がとやかく言うことじゃないわね。 ま、応援してるわよ。 頑張って、ノアル」
「……ん! ……ショーマに好きになってもらえるよう頑張る」
改めて言われると、凄く照れる……
返事を保留させてもらってるといっても、いつまでも先延ばしにするのも違うと思うし……
うーん……
どうしようかな……
一度、考え始めるとその事ばかりに頭が向いてしまい、休憩時間中、僕はずっとノアルの事を考え続けていた。
*
それから僕達は、3巡目になる戦闘を行なっている。
時刻はもうすっかり夜。
だが、この世界の夜は地球と違って、月(この世界でなんと呼んでいるかは分からない)がかなり大きく、地球に比べると、夜であってもかなり明るい。
そのため、多少の薄暗さはあっても、周りを見渡せるくらいには明るさがあるので、戦闘においても不便をすることはなかった。
こんな戦闘中でもなければ、この綺麗な大きい月と星空をゆっくりと眺めていたいくらいだが、そうも言ってられない。
だが、3巡目にしてようやく、襲ってくる魔物の数がかなり減ってきた。
戦線も徐々にだが、森の方に押し返してもいる。
もう少しで戦闘は終わるかもしれないが、まだ気は抜けない。
それに、これは先ほど休憩中に聞いた話なのだが、スタンピードの被害が一番出るのは戦闘の最後の方らしい。
疲労が溜まってきたという事もあるだろうが、それとは別の問題がスタンピードの最後に起こるそうだ。
ドカドカドカッ……!
今まで通り中衛の位置で皆のサポートをしていると、後方から沢山の足音が聞こえてきた。
後ろを見てみると、休憩していたはずの冒険者や衛兵達がほとんどこちらに向かってきていた。
「最後の一陣が来るぞ!! 皆、備えるんだ!」
その中の冒険者の1人が、近くにいる人達に聞こえるよう、大声を上げる。
それを聞いた僕達は、より一層気を引き締め、今のうちに少しでも多く魔物を減らしておくため動き始める。
今から来るのは、スタンピードの最後の一陣だ。
これを凌げば今回のスタンピードは終わり、街を守りきる事が出来る。
だが、ここからが本番と言ってもいい。
なぜなら……
グルアアアアアアァァァァ!!!
森の方から、大気を震わせるような咆哮が聞こえてきた。
あの咆哮の主こそが、今回のスタンピードにおける最大の脅威。
本来だったら、ダンジョンの奥底にいるはずのボスモンスターだ。
その周辺には、大量の上位種。
ゴブリンソルジャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンシーフが100匹以上いるだろうか。
その後ろには、更に体の大きなゴブリンジェネラルが15匹程度。
そのゴブリンジェネラルに囲まれるような形で佇む、ジェネラルの更に2倍くらいはあるであろう巨大なモンスター。
あれこそが、今回のスタンピードのボスモンスターの……
「やはりあれは…… ゴブリンキング……」
今回のスタンピードにおける最後の戦いが今、始まろうとしていた。
僕達の後方から大きな声でこちらに呼びかけてくる冒険者達の声と沢山の足音が聞こえてきた。
後ろを少し見てみると、最初に外壁前に集まっていた人数と同じくらいの後発組が戦意十分! と言った様子で走ってきた。
そんな後発組は、あっという間に僕達の戦線に加わると、戦線をあっという間に押し返し、余裕を作ってくれた。
その隙に、先発組は戦線から離脱し、後方へと退がる。
僕達先発組は恐らく、1時間と少し戦っていたと思う。
その間、僕は基本的に援護をしたり討ち漏らしを倒したりといった立ち回りをしていたが、それでも2、30匹くらいは魔物を倒した気がする。
僕でこの量なのだから、ギルンさん達やノアルが倒した魔物の数は3桁いってるんじゃないかな?
「……ショーマ」
そんな事を考えていると、いつの間にか僕の横にノアルが並走していて、声をかけてきた。
「あぁ、ノアル。 お疲れ様。 怪我はない?」
「……平気。 ……ショーマは?」
「大丈夫だよ。 全然なんともない」
「……良かった」
「ちょっと汚れてるし、生活魔法で綺麗にしておくよ」
「……ん、ありがと」
ノアルにウォッシュとドライの魔法をかけ、魔物の体液を洗い流す。
流石と言うべきか、返り血は一滴たりとも浴びていなかったようだ。
まぁ、浴びていたとしても簡単に落とせるのだが。
「本当に、お前達は仲がいいな」
「あ、ギルンさん達。 お疲れ様です。 皆さんにも生活魔法かけておきますね」
「え、いいんすか?」
「魔力を使う量は微々たるものなので大丈夫ですよ。 さっきの戦闘ではほとんど使っていませんし、休めば回復するので」
「それならありがたくお願いする」
僕はギルンさん達、それに、一緒に周りで戦っていた人達にもまとめて生活魔法をかける。
もう1人、魔法使いの中で生活魔法を使える人がいたので、3分の1くらいの人達はその人に任せる事にした。
そうして戦線から離脱した僕達は、少し時間をかけて街の外壁の近くにまで戻ってきた。
そこには簡易的な拠点のようなものが設置してあり、水や簡易的な食事が準備されていた。
「今、戦って来た皆さん! お疲れ様でした! 一先ず、体を休めてもらうために、テントや食事が用意してあります! 戦える人員を3陣に分けてるので、皆さんが次に戦うのは恐らく、2時間ほど後です! それまで体をしっかりと休めてください!」
次に戦うのは2時間後か。
正直、まだまだ体力的にも魔力的にもいけるので、次の1陣に混ざって、戦闘に加わるのもいいかもしれない。
「……ショーマ、次の戦闘もいけるとか思ってない?」
「え" ……なんで分かったの?」
「……やっぱり。 ……顔に出てた」
……スキルでポーカーフェイスとか無いのかな?
あったら今、とても欲しいのだが。
「……ちゃんと休まなきゃダメ。 ……特に、ショーマはこの戦闘において一、二を争うくらい大事な存在。 ……いなくなられたら困る」
「でも、1時間も休めば十分魔力は回復するし……」
「ノアルの言う通りよ。 ちゃんと休みなさい?」
ノアルと話していると、ミリアンヌさんがこちらに歩いて来て話しかけてきた。
クラウスさん達も既に戻って来たんだな。
「それに、1時間休んだくらいじゃそこまで回復はしないでしょう?」
「いえ、それくらい休めば大規模魔法で使った魔力の半分くらいは回復しますよ?」
「あら、そうなの? 魔素の吸収率がいいのねぇ。 私もいい方だけどそこまでは回復しないわ」
この世界の大気には魔素と呼ばれる魔力を帯びた空気のようなものが漂っており、魔素の濃度が高い場所には魔物が沢山いたりするらしい。
魔法が使えるのもその魔素のおかげで、魔素を空気中から呼吸などによって吸収する事で、魔力が回復するそうだ。
「……でも、休まなきゃダメ」
「そうね、自覚無くとも体は疲れるものよ。 それに、今回戦っている皆は強者ばかりだから心配いらないわ。 怪我をしても、よっぽどでない限りマイヤとか他の光魔法の使い手が治してくれるしね」
「あ、それなら手伝えるかもしれません」
「うーん…… さっき見て来た感じ、そこまで怪我人がいる訳でもないから大丈夫じゃないかしら?」
「そうですか……」
「……大人しく休む」
「うん…… 分かったよ。 ちょっともどかしいけど」
せめて、何かあったらすぐに動けるようにはしておこう。
「そういえばノアル? あなた、この前話した事はどうなったの?」
「……ん、ちゃんと伝えた。 ……ノアルがショーマの事、好きって」
「あら、そうなの! アラサドから帰って来てから、少し親密になったように見えたのは間違いじゃなかったようね!」
「え、なんの話ですか?」
「ほら、私達とノアルが初めて会った時に、私とノアルの2人きりで会ったことあったじゃない? その時に色々と相談に乗ってたのよ」
「あー…… そうだったんですか」
「……まだ、正式に一緒になった訳じゃないけど」
「それは、どういう事? なんて答えたの、ショーマ君?」
「えーっと、ノアルが好きと伝えてくれたのは本当に嬉しかったんです。 でも、僕が今、ノアルに抱いてる気持ちが恋愛感情なのかどうか分からないので、そんな中途半端な状態で返事をするのは違うかなと思って、申し訳ないけど返事は保留させてもらっています」
「ふーん…… 難しく考えすぎだと思うけど、本人達がそれでいいなら私がとやかく言うことじゃないわね。 ま、応援してるわよ。 頑張って、ノアル」
「……ん! ……ショーマに好きになってもらえるよう頑張る」
改めて言われると、凄く照れる……
返事を保留させてもらってるといっても、いつまでも先延ばしにするのも違うと思うし……
うーん……
どうしようかな……
一度、考え始めるとその事ばかりに頭が向いてしまい、休憩時間中、僕はずっとノアルの事を考え続けていた。
*
それから僕達は、3巡目になる戦闘を行なっている。
時刻はもうすっかり夜。
だが、この世界の夜は地球と違って、月(この世界でなんと呼んでいるかは分からない)がかなり大きく、地球に比べると、夜であってもかなり明るい。
そのため、多少の薄暗さはあっても、周りを見渡せるくらいには明るさがあるので、戦闘においても不便をすることはなかった。
こんな戦闘中でもなければ、この綺麗な大きい月と星空をゆっくりと眺めていたいくらいだが、そうも言ってられない。
だが、3巡目にしてようやく、襲ってくる魔物の数がかなり減ってきた。
戦線も徐々にだが、森の方に押し返してもいる。
もう少しで戦闘は終わるかもしれないが、まだ気は抜けない。
それに、これは先ほど休憩中に聞いた話なのだが、スタンピードの被害が一番出るのは戦闘の最後の方らしい。
疲労が溜まってきたという事もあるだろうが、それとは別の問題がスタンピードの最後に起こるそうだ。
ドカドカドカッ……!
今まで通り中衛の位置で皆のサポートをしていると、後方から沢山の足音が聞こえてきた。
後ろを見てみると、休憩していたはずの冒険者や衛兵達がほとんどこちらに向かってきていた。
「最後の一陣が来るぞ!! 皆、備えるんだ!」
その中の冒険者の1人が、近くにいる人達に聞こえるよう、大声を上げる。
それを聞いた僕達は、より一層気を引き締め、今のうちに少しでも多く魔物を減らしておくため動き始める。
今から来るのは、スタンピードの最後の一陣だ。
これを凌げば今回のスタンピードは終わり、街を守りきる事が出来る。
だが、ここからが本番と言ってもいい。
なぜなら……
グルアアアアアアァァァァ!!!
森の方から、大気を震わせるような咆哮が聞こえてきた。
あの咆哮の主こそが、今回のスタンピードにおける最大の脅威。
本来だったら、ダンジョンの奥底にいるはずのボスモンスターだ。
その周辺には、大量の上位種。
ゴブリンソルジャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンシーフが100匹以上いるだろうか。
その後ろには、更に体の大きなゴブリンジェネラルが15匹程度。
そのゴブリンジェネラルに囲まれるような形で佇む、ジェネラルの更に2倍くらいはあるであろう巨大なモンスター。
あれこそが、今回のスタンピードのボスモンスターの……
「やはりあれは…… ゴブリンキング……」
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