67 / 90
第三章 獣人国へ
#63 スタンピード(1)
しおりを挟む
怪しい男達を捕まえるため、その男達の近くに来た僕は、スカイボードから降り、近くの茂みに隠れて息を潜めている。
インビジブルがかかっているから姿は見えないだろうが、大きな音を立ててしまうとバレてしまうだろう。
(ノアル? 今、どの辺りにいる?)
(……相手から10mくらいの場所に隠れてる。 ……気配察知系のスキルは持ってないみたいだから、気付かれてはない)
(分かった。 僕もそれくらいの距離にいるから、僕の合図で出てって、まずは逃げられないよう、僕達とプルニーマで囲んでしまって、それから、ここでなにをしているのか聞いてみよう)
もしかしたら、なにか許可を得てここにいるのかもしれないので、まずは少し会話をしてみたい。
その反応を見て、対応をどうするか決めようと思う。
プルニーマとロングソードをアイテムボックスから出しておき、いつでも飛び出せるよう、体制を低く構える。
(……ん、分かった。 ……いつでもいいよ)
(よし、じゃあ行くよ! 3……2……1……ゴー!)
その合図と同時に隠れていた茂みから飛び出し、プルニーマを一気に五輪とも投げて、万が一にも逃げられないよう、退路を塞ぐ形で周囲にバラまく。
この時点で、インビジブルの魔法は解けてしまっている。
この魔法は大きな動きをしてしまうと解けてしまうようで、スカイボードに乗っている時は、僕達自身が動いていた訳では無いため、解けなかったらしい。
それから数秒で男達がいる場所に接近できた僕達は、なにが来ても大丈夫なように構えながら、男達を囲む。
「な、なんだお前達は!」
すると、僕達に気づいた研究者風の男が、慌てながらこちらにそう言葉を投げかけてきた。
「あなた方はここでなにを? 今はスタンピードが起きていてこの辺りは危険ですよ」
「わ、私は研究者だ! 偶然、スタンピードに遭遇したから、観測をしていただけだ!」
「そうですか。 まぁ、理由はどうあれ、僕達と一緒にあの街まで来てくれませんか?」
「な、なぜだ?」
「実はギルドの方で、森で怪しい者を見かけたら、ギルドに連れてくるように言われているんです。 もちろん、手荒な真似はしませんので大丈夫ですよ」
「あ、怪しいだと?」
「スタンピードの近くで、たった2人の護衛を連れて観測するという時点で怪しいです。 服装も服装ですし。 貴方の白衣の後ろに描かれている紋章は確か、スーガルフ帝国のものですよね? 他国の研究者がここにいるというのも不自然ですよ」
「ぐ、それはそうだが……」
「とにかく、僕達に付いてきてください。 モタモタしていたら、魔物がこちらに来るということも有り得るので」
「……分かった、案内してくれ」
「はい、こちらです。 付いてきてください」
素直に従う素振りを見せた男達を街に案内するため、僕は街の方を向き、歩き始めた。
後ろに、男達を引き連れる形で。
「今だ!!」
と、研究者の男がそう言ったのと同時に、黒装束の男の1人が後ろから腰に差していた短剣で斬りかかって来た。
ガキィィィン!
それを気配察知のスキルで認識していた僕は、シールドの魔法でしっかりと受け止める。
「なっ…… 貴様! 魔法使いなのか!?」
研究者の男が驚いたのかそんな声を出してきた。
「そうですよ。 それで、これは一体どういうつもりでしょうか?」
「ぐっ……ええい、やってしまえお前達! たかが2人の冒険者など、捻り潰してしまえ!」
その言葉を聞くや否や、僕とノアルに向かって、1人ずつ攻撃を仕掛けてきた。
僕は、周りに飛ばしていたプルニーマを3輪呼び寄せ、僕の相手に向かって放つ。
「ぐっ!」
男は急に飛んできたプルニーマに対して、慌てて迎撃をする。
しかし、3輪に囲まれて波状的に攻撃を受けているため、その場に釘付けになってしまう。
よし、動きが止まってしまえば、あとは容易く行動不能に出来るな。
「『スリープ』」
プルニーマにかかりっきりだった男に目掛けて、横から闇魔法の一つである、スリープをぶつけた。
「ぐっ、これは……」
スリープをまともに食らった男は、その場で少しよろめいた後、膝から崩れ落ち、数秒もしないうちに寝息を立て始めた。
「ぐあぁぁっ!」
ドカンっ!
僕の方はあっさりと終わったので、ノアルに加勢しようとノアルの方を見ると、丁度ノアルがもう片方の男を思い切り蹴り飛ばしていた所だった。
「お、おい! なにをしておるのだ! お前達!!」
少し離れたところに逃げていた研究者の男が、自らの護衛の有様を見て喚き出した。
だが、既にその声をかけられた男達は、1人はノアルに蹴り飛ばされて周りにあった木の一本に背中を強く打ちつけた事で伸びているし、もう1人はスリープの魔法を受けて、スヤスヤと寝息を立てている。
「『ロックバインド』」
「ぐあっ! な、なんだこれは!?」
非戦闘員っぽいこの研究者の男に逃げる力があるとも思えないが、変な事をされても困るので、土属性の拘束魔法で土を研究者の男の全身に絡ませて拘束した。
「さて、手を出してきたのはそちらなので、迎撃させてもらいました。 先程のスタンピードを観察していたというのは嘘ですね? 本当の目的はなんですか?」
「し、知らない! 私はなにも知らない!」
うーん、自分で話してくれるのが一番なんだけど、話してくれそうにないな。
しょうがない、ひとまず、街の方へ連れて帰ろう。
「『スリープ』」
「あふん……」
変な声を上げて研究者の男はあっという間に眠ってしまった。
もうちょっと抗えると思うんだけどな……
「……これから、どうするの?」
「ひとまずは、この人達を街に連れて行くよ。 けど、その前に……」
僕はアイテムボックスからいくつかの鉄鉱石を取り出し、倒れている3人の男に鍛冶師のスキルを使って全員に手枷と足枷を付けた。
手と足にぴったりフィットさせる形で作ったし、鍵穴とかも無いため、生半可な事じゃ外せないだろう。
それに加えて、かなり長めのロープを使って3人まとめてグルグル巻きにし、ロープの先端をスカイボードに括り付ける。
ウィンドで浮かせて運ぶつもりだから、そこまで意味はないのだが、一応の命綱のようなものである。
「それじゃあ、戻ろうか」
「……ん!」
運ぶためのウィンドの魔法で、縛った3人組を浮かせる。
そして、ノアルがスカイボードを置いておいた場所まで駆け足で移動し、僕達はスカイボードで飛び立ってその場を後にした。
そうして上空に飛び立ってみると、スタンピードの方は先ほどよりもかなり進んでいて、先頭が街と森の間くらいまで既に来ていた。
様子を見るに、まだミリアンヌさんは大規模魔法を使っていないみたいだ。
僕達が飛び立って10分も経っていないから、なんとか間に合ったみたいだ。
少し遠くから外壁の上を見てみると、恐らくリムさんとミリアンヌさんであろう人影がこちらに向かって手を振っていた。
あんまりスピード出しすぎると、気絶している3人を包んでいるウィンドの魔法の操作をミスりそうなので、行きの倍くらいの時間をかけて戻ってきた。
そして僕達は、リムさん達の近くに降り立ち、ウィンドで浮かせていた3人組も地面に転がしておいた。
「ショーマさん! おかえりなさい!」
「早かったわね、お疲れ様。 それで、そいつらがリムが見たっていう怪しい奴等?」
「はい、そうです。 大人しく付いて来て欲しいと言ったところ、攻撃してきたので、気絶させて連れてきました」
「攻撃されたんですか…… ごめんなさい、危険な事をさせてしまって……」
「僕もノアルも無傷なので大丈夫ですよ。 それより、この人達どうしますか?」
「そうですね…… とりあえず、このままギルドの方に運ぼうかと。 今は、スタンピードの方が重要ですから、とりあえずは逃げられないように監視をつけておきます」
そう言ってリムさんは、近くにいた別のギルド職員の人に事情を話し、ギルドに応援を頼みに行って欲しいと告げていた。
その言葉を受けた職員さんは了解すると、急いで外壁を降りて、ギルドの方へ走っていった。
「さて、帰ってきたばかりで悪いんだけど、もう一仕事頼んでいいかしら?」
「大規模魔法ですよね? 魔力はまだまだ余裕があるので大丈夫ですよ」
「頼りになるわね。 それじゃあ、魔物の群れも丁度いい所まで来たみたいだし、始めましょうか。 魔法を発動させる場所は……」
「あ、それなら……」
僕とミリアンヌさんで、どんな魔法をどういう風に発動させるのかを軽く相談した後、ミリアンヌさんは杖を正面に構えて、僕は魔法を発動させる場所に向かって両手を突き出すような形で魔力を高める。
こんな事なら、僕も杖の一つくらい作っておくべきだったな。
そんな事を思いながら、発動範囲とどんな魔法を使うのかというイメージを固めていく。
この世界の魔法はイメージが大事で、より明確なイメージが有ればそれだけ魔法の威力や質が上がるようだ。
「いつでもいけます!」
「ええ! 私もよ!」
ほぼ同時に準備が出来た僕とミリアンヌさんは、一瞬顔を見合わせ、タイミングを合わせた大規模魔法を発動させる。
「いきます!『トルネードエッジ』!!」
「食らいなさい!『インフェルノ』!!」
僕が放った風の大規模魔法、トルネードエッジが僕達から見てスタンピードの魔物群の左側に発動し、右側にはミリアンヌさんが放った火の大規模魔法、インフェルノが発動した。
その威力は、絶大。
左側で発生した巨大な竜巻に、大小関係なく、魔物が巻き上げられていく。
更に、その内部に発生している大量の風の刃によって、全身細切れにされ、竜巻が通り過ぎた場所には既に魔物の姿は1匹たりとも確認出来なかった。
その反対側では、超高熱の巨大な火柱が地面からいくつも上がり、その範囲に存在していた魔物を、こちらも1匹残らず焼き尽くしてしまった。
そんな魔物の先頭付近で発動した2つの大規模魔法は、使用者である僕とミリアンヌさんのコントロールで、魔物の群れの中央まで移動する。
そこは丁度、ウロナの森とハゾットの街の中間地点だ。
そこで重なり合った2つの大規模魔法は融合し、やがて、炎をまとった巨大な竜巻へと姿を変えた。
先程のトルネードエッジよりも更に大きな竜巻は、今、確認出来る魔物の殆どを巻き込み、その存在を跡形もなく消し去っていった。
「……凄まじいわね」
「ここまでのものになるとは、流石に予想していませんでしたね……」
「魔物達が、あんなに簡単に……」
「……すごい」
その光景を遠くから見ていた冒険者達は、軒並み絶句していた。
それを放った僕達ですら驚いているのだから、無理もないだろう。
やがて、第一陣の魔物の大群をほとんど飲み込んだ炎の竜巻は、込めていた魔力が尽きたのか、何事もなかったかのようにフワッと空中で霧散した。
「まぁ、なにはともあれ、大分数を減らせたわね。 ここからは下の人達に任せましょう。 もう一発、大規模魔法を放てる魔力は残っているけど、それは最後の手段として取っておいた方がいいと思うし」
「そうですね。 話を聞くに、まだまだ魔物は押し寄せてくるでしょうから、油断はできないですね」
遠目にだが、新たな魔物の群れのようなものが、森から少しした所で集まっているのが見える。
まだまだ、数は残っているようだ。
「それじゃあ、私はクラウス達に合流するわね。 お互い、頑張りましょう?」
「はい、お気をつけて」
「ショーマ君とノアルちゃんもね」
そう言って、ミリアンヌさんは風の魔法を使って自らを浮かせると、そのまま外壁からゆっくりと降りて行った。
「僕達も行こうか」
「……ん!」
「あ、ショーマさん! ノアルさん! お気をつけて! 必ず無事に戻ってきてくださいね!」
「ありがとうございます、リムさん! 行ってきます!」
僕達はスカイボードに乗って、同じように外壁から下まで降りて行った。
ここからが踏ん張り所だ。 気を引き締めていこう。
インビジブルがかかっているから姿は見えないだろうが、大きな音を立ててしまうとバレてしまうだろう。
(ノアル? 今、どの辺りにいる?)
(……相手から10mくらいの場所に隠れてる。 ……気配察知系のスキルは持ってないみたいだから、気付かれてはない)
(分かった。 僕もそれくらいの距離にいるから、僕の合図で出てって、まずは逃げられないよう、僕達とプルニーマで囲んでしまって、それから、ここでなにをしているのか聞いてみよう)
もしかしたら、なにか許可を得てここにいるのかもしれないので、まずは少し会話をしてみたい。
その反応を見て、対応をどうするか決めようと思う。
プルニーマとロングソードをアイテムボックスから出しておき、いつでも飛び出せるよう、体制を低く構える。
(……ん、分かった。 ……いつでもいいよ)
(よし、じゃあ行くよ! 3……2……1……ゴー!)
その合図と同時に隠れていた茂みから飛び出し、プルニーマを一気に五輪とも投げて、万が一にも逃げられないよう、退路を塞ぐ形で周囲にバラまく。
この時点で、インビジブルの魔法は解けてしまっている。
この魔法は大きな動きをしてしまうと解けてしまうようで、スカイボードに乗っている時は、僕達自身が動いていた訳では無いため、解けなかったらしい。
それから数秒で男達がいる場所に接近できた僕達は、なにが来ても大丈夫なように構えながら、男達を囲む。
「な、なんだお前達は!」
すると、僕達に気づいた研究者風の男が、慌てながらこちらにそう言葉を投げかけてきた。
「あなた方はここでなにを? 今はスタンピードが起きていてこの辺りは危険ですよ」
「わ、私は研究者だ! 偶然、スタンピードに遭遇したから、観測をしていただけだ!」
「そうですか。 まぁ、理由はどうあれ、僕達と一緒にあの街まで来てくれませんか?」
「な、なぜだ?」
「実はギルドの方で、森で怪しい者を見かけたら、ギルドに連れてくるように言われているんです。 もちろん、手荒な真似はしませんので大丈夫ですよ」
「あ、怪しいだと?」
「スタンピードの近くで、たった2人の護衛を連れて観測するという時点で怪しいです。 服装も服装ですし。 貴方の白衣の後ろに描かれている紋章は確か、スーガルフ帝国のものですよね? 他国の研究者がここにいるというのも不自然ですよ」
「ぐ、それはそうだが……」
「とにかく、僕達に付いてきてください。 モタモタしていたら、魔物がこちらに来るということも有り得るので」
「……分かった、案内してくれ」
「はい、こちらです。 付いてきてください」
素直に従う素振りを見せた男達を街に案内するため、僕は街の方を向き、歩き始めた。
後ろに、男達を引き連れる形で。
「今だ!!」
と、研究者の男がそう言ったのと同時に、黒装束の男の1人が後ろから腰に差していた短剣で斬りかかって来た。
ガキィィィン!
それを気配察知のスキルで認識していた僕は、シールドの魔法でしっかりと受け止める。
「なっ…… 貴様! 魔法使いなのか!?」
研究者の男が驚いたのかそんな声を出してきた。
「そうですよ。 それで、これは一体どういうつもりでしょうか?」
「ぐっ……ええい、やってしまえお前達! たかが2人の冒険者など、捻り潰してしまえ!」
その言葉を聞くや否や、僕とノアルに向かって、1人ずつ攻撃を仕掛けてきた。
僕は、周りに飛ばしていたプルニーマを3輪呼び寄せ、僕の相手に向かって放つ。
「ぐっ!」
男は急に飛んできたプルニーマに対して、慌てて迎撃をする。
しかし、3輪に囲まれて波状的に攻撃を受けているため、その場に釘付けになってしまう。
よし、動きが止まってしまえば、あとは容易く行動不能に出来るな。
「『スリープ』」
プルニーマにかかりっきりだった男に目掛けて、横から闇魔法の一つである、スリープをぶつけた。
「ぐっ、これは……」
スリープをまともに食らった男は、その場で少しよろめいた後、膝から崩れ落ち、数秒もしないうちに寝息を立て始めた。
「ぐあぁぁっ!」
ドカンっ!
僕の方はあっさりと終わったので、ノアルに加勢しようとノアルの方を見ると、丁度ノアルがもう片方の男を思い切り蹴り飛ばしていた所だった。
「お、おい! なにをしておるのだ! お前達!!」
少し離れたところに逃げていた研究者の男が、自らの護衛の有様を見て喚き出した。
だが、既にその声をかけられた男達は、1人はノアルに蹴り飛ばされて周りにあった木の一本に背中を強く打ちつけた事で伸びているし、もう1人はスリープの魔法を受けて、スヤスヤと寝息を立てている。
「『ロックバインド』」
「ぐあっ! な、なんだこれは!?」
非戦闘員っぽいこの研究者の男に逃げる力があるとも思えないが、変な事をされても困るので、土属性の拘束魔法で土を研究者の男の全身に絡ませて拘束した。
「さて、手を出してきたのはそちらなので、迎撃させてもらいました。 先程のスタンピードを観察していたというのは嘘ですね? 本当の目的はなんですか?」
「し、知らない! 私はなにも知らない!」
うーん、自分で話してくれるのが一番なんだけど、話してくれそうにないな。
しょうがない、ひとまず、街の方へ連れて帰ろう。
「『スリープ』」
「あふん……」
変な声を上げて研究者の男はあっという間に眠ってしまった。
もうちょっと抗えると思うんだけどな……
「……これから、どうするの?」
「ひとまずは、この人達を街に連れて行くよ。 けど、その前に……」
僕はアイテムボックスからいくつかの鉄鉱石を取り出し、倒れている3人の男に鍛冶師のスキルを使って全員に手枷と足枷を付けた。
手と足にぴったりフィットさせる形で作ったし、鍵穴とかも無いため、生半可な事じゃ外せないだろう。
それに加えて、かなり長めのロープを使って3人まとめてグルグル巻きにし、ロープの先端をスカイボードに括り付ける。
ウィンドで浮かせて運ぶつもりだから、そこまで意味はないのだが、一応の命綱のようなものである。
「それじゃあ、戻ろうか」
「……ん!」
運ぶためのウィンドの魔法で、縛った3人組を浮かせる。
そして、ノアルがスカイボードを置いておいた場所まで駆け足で移動し、僕達はスカイボードで飛び立ってその場を後にした。
そうして上空に飛び立ってみると、スタンピードの方は先ほどよりもかなり進んでいて、先頭が街と森の間くらいまで既に来ていた。
様子を見るに、まだミリアンヌさんは大規模魔法を使っていないみたいだ。
僕達が飛び立って10分も経っていないから、なんとか間に合ったみたいだ。
少し遠くから外壁の上を見てみると、恐らくリムさんとミリアンヌさんであろう人影がこちらに向かって手を振っていた。
あんまりスピード出しすぎると、気絶している3人を包んでいるウィンドの魔法の操作をミスりそうなので、行きの倍くらいの時間をかけて戻ってきた。
そして僕達は、リムさん達の近くに降り立ち、ウィンドで浮かせていた3人組も地面に転がしておいた。
「ショーマさん! おかえりなさい!」
「早かったわね、お疲れ様。 それで、そいつらがリムが見たっていう怪しい奴等?」
「はい、そうです。 大人しく付いて来て欲しいと言ったところ、攻撃してきたので、気絶させて連れてきました」
「攻撃されたんですか…… ごめんなさい、危険な事をさせてしまって……」
「僕もノアルも無傷なので大丈夫ですよ。 それより、この人達どうしますか?」
「そうですね…… とりあえず、このままギルドの方に運ぼうかと。 今は、スタンピードの方が重要ですから、とりあえずは逃げられないように監視をつけておきます」
そう言ってリムさんは、近くにいた別のギルド職員の人に事情を話し、ギルドに応援を頼みに行って欲しいと告げていた。
その言葉を受けた職員さんは了解すると、急いで外壁を降りて、ギルドの方へ走っていった。
「さて、帰ってきたばかりで悪いんだけど、もう一仕事頼んでいいかしら?」
「大規模魔法ですよね? 魔力はまだまだ余裕があるので大丈夫ですよ」
「頼りになるわね。 それじゃあ、魔物の群れも丁度いい所まで来たみたいだし、始めましょうか。 魔法を発動させる場所は……」
「あ、それなら……」
僕とミリアンヌさんで、どんな魔法をどういう風に発動させるのかを軽く相談した後、ミリアンヌさんは杖を正面に構えて、僕は魔法を発動させる場所に向かって両手を突き出すような形で魔力を高める。
こんな事なら、僕も杖の一つくらい作っておくべきだったな。
そんな事を思いながら、発動範囲とどんな魔法を使うのかというイメージを固めていく。
この世界の魔法はイメージが大事で、より明確なイメージが有ればそれだけ魔法の威力や質が上がるようだ。
「いつでもいけます!」
「ええ! 私もよ!」
ほぼ同時に準備が出来た僕とミリアンヌさんは、一瞬顔を見合わせ、タイミングを合わせた大規模魔法を発動させる。
「いきます!『トルネードエッジ』!!」
「食らいなさい!『インフェルノ』!!」
僕が放った風の大規模魔法、トルネードエッジが僕達から見てスタンピードの魔物群の左側に発動し、右側にはミリアンヌさんが放った火の大規模魔法、インフェルノが発動した。
その威力は、絶大。
左側で発生した巨大な竜巻に、大小関係なく、魔物が巻き上げられていく。
更に、その内部に発生している大量の風の刃によって、全身細切れにされ、竜巻が通り過ぎた場所には既に魔物の姿は1匹たりとも確認出来なかった。
その反対側では、超高熱の巨大な火柱が地面からいくつも上がり、その範囲に存在していた魔物を、こちらも1匹残らず焼き尽くしてしまった。
そんな魔物の先頭付近で発動した2つの大規模魔法は、使用者である僕とミリアンヌさんのコントロールで、魔物の群れの中央まで移動する。
そこは丁度、ウロナの森とハゾットの街の中間地点だ。
そこで重なり合った2つの大規模魔法は融合し、やがて、炎をまとった巨大な竜巻へと姿を変えた。
先程のトルネードエッジよりも更に大きな竜巻は、今、確認出来る魔物の殆どを巻き込み、その存在を跡形もなく消し去っていった。
「……凄まじいわね」
「ここまでのものになるとは、流石に予想していませんでしたね……」
「魔物達が、あんなに簡単に……」
「……すごい」
その光景を遠くから見ていた冒険者達は、軒並み絶句していた。
それを放った僕達ですら驚いているのだから、無理もないだろう。
やがて、第一陣の魔物の大群をほとんど飲み込んだ炎の竜巻は、込めていた魔力が尽きたのか、何事もなかったかのようにフワッと空中で霧散した。
「まぁ、なにはともあれ、大分数を減らせたわね。 ここからは下の人達に任せましょう。 もう一発、大規模魔法を放てる魔力は残っているけど、それは最後の手段として取っておいた方がいいと思うし」
「そうですね。 話を聞くに、まだまだ魔物は押し寄せてくるでしょうから、油断はできないですね」
遠目にだが、新たな魔物の群れのようなものが、森から少しした所で集まっているのが見える。
まだまだ、数は残っているようだ。
「それじゃあ、私はクラウス達に合流するわね。 お互い、頑張りましょう?」
「はい、お気をつけて」
「ショーマ君とノアルちゃんもね」
そう言って、ミリアンヌさんは風の魔法を使って自らを浮かせると、そのまま外壁からゆっくりと降りて行った。
「僕達も行こうか」
「……ん!」
「あ、ショーマさん! ノアルさん! お気をつけて! 必ず無事に戻ってきてくださいね!」
「ありがとうございます、リムさん! 行ってきます!」
僕達はスカイボードに乗って、同じように外壁から下まで降りて行った。
ここからが踏ん張り所だ。 気を引き締めていこう。
638
お気に入りに追加
2,255
あなたにおすすめの小説
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜
北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。
この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。
※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※
カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!!
*毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。*
※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※
表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!
ブリードスキル いじめられっこ覚醒! いじめられスキルで異世界でも怖くありません……
石のやっさん
ファンタジー
虐められ自殺までした僕が異世界転移......もう知らない。
主人公である竜崎聖夜はクラスで酷いイジメにあっていた。
その執拗なイジメに耐えかねて屋上から飛び降り自殺をした瞬間。
聖夜のクラスが光輝き女神イシュタスの元に召喚されてしまう。
話しを聞くと他の皆は既に異世界ルミナスに転移ずみ。
聖夜は自殺し、死んでいたので蘇生したぶん後になったのだと言う。
聖夜は異世界ルミナスに行きたくなかったが、転移魔法はクラス全員に掛かっているため、拒否できない。
しかも、自分のジョブやスキルは、クラスの情報でイシュタスが勝手に決めていた。
そのステータスに絶望したが……実は。
おもいつきで書き始めたので更新はゆっくりになるかも知れません。
いじめられっこ覚醒! いじめられスキルで異世界でも怖くありません……
からタイトルを『ブリードスキル いじめられっこ覚醒! いじめられスキルで異世界でも怖くありません……』に変更しました。
カクヨムコン9に出品予定でしたが、期間内に10万文字まで書けそうも無いのでカクヨムコン出品取り消しました。
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!
らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。
俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。
向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!
それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。
自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。
そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる