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第三章 獣人国へ

#53 嘘

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「それで、話とはなんですか?」
 

 ステータス確認をしていたところ、突然、騎士団の3人組に声をかけられ、協力して欲しいと言われた。
 

「先程も言ったんだが、この村の住人から君の事を聞いてね。 なんでも、魔法の腕から剣の腕まですごいそうじゃないか?」

「まぁ一応、赤ランクの冒険者ですし、多少は戦う力は持ってますね」

「その力を見込んで、どうだろう、我が子爵家の私兵にならないか?」

「私兵、ですか?」

「あぁ、もちろん、冒険者なんぞをやるよりも多くの報酬を支払おう。 どうだ? 悪い話ではないだろう?」
 

 うーん…… 

 どうもキナ臭いな……

 そう思う理由は分からないが、この人達の目はなんとなく信用が出来ない。

 あ、そういえば、さっき魔導師のレベルを上げた時に、真偽鑑定とかいうのが出来るようになったし、試してみようか。

 えーっと、普通に発動させればいいのかな? 

 お、発動しっぱなしにも出来るみたいだ。

 真偽鑑定を発動したまま、彼らとの会話を続ける。
 

「私兵とはなんのための持つものなんですか? あまり、馴染みが無くて知らないもので……」

「そうなのか。 簡単に言うと、貴族は大体が自らの身を守るために、私兵を持っているのだ。 だから、やはり強い私兵を持っていた方が安心出来るという訳だね。 ちなみに、横にいる2人も騎士団でありながら我が家の私兵でもある」
 

 ん? 

 今、強い私兵を持っていたら安心出来る、という事を話した時に、この人が少し黄色く光って見えたな。 

 これはどういう事なんだろう? 

 嘘ついたって事か?

 内心、少し警戒を強めながらも会話を続ける。
 

「では、僕が私兵になったとして、なにをさせるつもりなんですか?」

「そこまで難しい事ではないよ。 ただ、何かあった時に私達一家を守って欲しいのと、後は遠出する際に護衛を頼むくらいだな。 丁度、今みたいな感じで」
 

 んー、また黄色く光ったな……

 嘘をついているようには見えないんだけど、この人は多分、なにかを隠してるんじゃないかと思う。 

 あくまで、勘でしかないのだが。

 ……もう少し、切り込んだ質問をしてみるか?
 

「なるほど、私兵の必要性は理解出来ました。 ですが、やはり貴族の私兵になると、権力争いに巻き込まれたりという事があったりするんじゃないですか?」

「いや、そんな事はないさ。 私兵にも多少の自由は与えるし、権力争いの道具になどにはしないぞ。 共にこの国のため、協力しようじゃないか?」
 

 その言葉を相手が発した途端、今まで黄色だった真偽鑑定の光が真っ赤に染まった。

 それも、鮮やかな赤ではなく濁ったような赤で、少し見ていて不快になるような光だ。

 これは…… 嘘って事だよな?

 となると、黄色は恐らく嘘はついていないが、何か隠している事がある、という事になるのではないだろうか。

 そして、直前の言葉が嘘だって事は、この貴族の男は、僕を権力争いの道具にしようとしているんだな……

 国のため、というのも本当かどうか怪しいものだ。

 これも推測だが、自分がのし上がるために僕を利用しようという算段ではないだろうか?

 うん、目の前の男のような人種は、この世界において僕が一番関わりたくなかった人種だ。

 なので、この話はきっぱりと断ることにする。
 

「すいません、せっかくですが、その話はお断りします」

「……ほう、なぜだい?」
 

 断られると思っていなかったのか、さっきまで話していた貴族の男が眉を顰めてそう聞いてくる。
 

「僕には冒険者が合っていますから、それに……」

「それに?」

「なに食わぬ顔で嘘をつくような人には付いていこうとは思えません」

「なんだと……?」
 

 その言葉を聞いた途端、怒りというより驚きの表情を浮かべ、家族の男はこちらを訝しげに見てきた。
 

「僕の力は、僕のために使います。 その結果、人を助ける事になったりもしますが、それだけです。 なので、あなた達が望むような働きは求められても絶対にしません」

「……っち、こちらが下手に出れば思い上がりやがって……! お前ら脆弱なヒト種は黙って私達の言う事を聞けばいいものを!」

「……本音はそっちですか」

「あぁ、そうさ! 獣人には魔法使いがあまりいないからな。 私兵に優秀な魔法使いがいるというだけでも獣人国の貴族社会では発言権が増すのさ!」

「なるほど。 その事を聞いて、尚更ついて行く気はなくなりました。 それで、話は終わりですかね?」

「いいや、まだだ」

「……まだ、なにかあるんですか?」

「このまま、引き下がれるわけないだろう! お前達!」
 

 貴族の男の言葉に応え、横にいた2人の男が抜剣し、剣を構える。
 

「大人しく付いてくるなら良かったものを!」

「分かってるんですか? 周りに見てる人が沢山いる中でそんな事をして、ただで済むと? それに、こんなに騒いだら、オロンさんもいずれはここに来ますよ?」

「はっ! こんな小さな村などには金を握らせておけばいくらでも事を握りつぶせる! 団長も同じだ! 平民上がりの騎士団長など、恐るるに足らん!」
 

 僕をはじめとして、周りに数名集まってきていた村人達も絶句する。

 この人、頭おかしいのではないか……?

 そもそも、今の言葉とか偉い人に聞かれたら不敬罪とかで捕まるんじゃ?

 まぁ、恐らく、今までそれがまかり通ってきたからそんな事が言えるんだろうな。
 

「ふざけるんじゃねぇ! 金をいくら積まれようが、お前の言う事なんて聞くか!」

「そうよ! ショーマさんはこの村の恩人なんだから!」

「おい! 誰か族長を呼んでこい! 他の騎士団は信用ならん!」

 
 周りで見ていた人達は、貴族の男の言葉に怒りを隠せないようだ。 

 それに、僕の心配や援護をしようとする人達もいる。

 本当に、いい人達だな……

 
「……っち! 庶民の分際で煩いぞ! お前らは黙ってその恩人とやらが傷付けられるのを見ておけ!」

「なんだと!? その前に俺達が相手を……」
 

 そう言って前に出ようとした村人を僕は手で制する。

 
「……皆さんは下がっていてください。 巻き込む訳にはいかないので」

「いや、だが相手は3人だぞ? あんた1人じゃ……」

「大丈夫です」
 

 僕がしっかりとした表情でそう言うと、彼もなにも言えなくなったのか、大人しく下がってくれた。
 

「おや、いいのか? 言っておくが、この2人はうちの私兵の中でも1、2を争うレベルで強いぞ?」

「そうなんですか、それは怖いですね」

「……ヒト種風情が、舐めた態度を!」
 

 周りの人達が十分下がったところで、僕はアイテムボックスからプルニーマを5輪取り出し、魔力を流す。

 確かに、3対1は不利かもしれないが、そういう多対1の場面も想定してこの武器は作ったのだ。
 

「お、おい、なんだあれ?」

「浮いてる……?」

「あれは、武器なのか?」
 

 周りの人達からそんなざわめきが聞こえてきた。 

 確かに、初めて見る人達は驚くだろうな。

 それは、目の前の貴族の男や私兵も同じだったようで……

「なっ、なんだそれは!?」

「なにって、僕の武器ですよ。 そちらが複数人で来るなら、僕もそれに乗らせてもらいます」

 貴族の男は初めて見る、得体の知れない武器に対して動揺を隠しきれていないようだ。

「坊ちゃま、心配ありません。 あのような物は所詮こけおどしです。 我々が叩き潰して見せましょう」

 すると、横にいた私兵の1人がそんな事を言う。 

 うーん、私兵の人達もまともじゃないな、この調子だと。 

 嫌々やってるならまだ他にやりようがあったんだけど……

 
「そ、そうか! 頼むぞ! お前達!」

「「はっ!」」


 主人からの言葉を受けた私兵の2人は短く返事をし、同時に別角度からこちらに突っ込んできた。
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