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第三章 獣人国へ

#50 あっという間の1日

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 女性陣が照り焼き丼を食べ終え、少しすると作業を終えた男性陣が少しずつやってきた。

 女性陣は僕の作っている照り焼き丼の他に、何かスープのようなものと、サラダを作っているみたいだ。 

 スープは野菜を中心に煮込んだもので、サラダは一般的によくあるグリーンサラダだ。

 後で、スープとサラダは少しもらおうかな。
 

「おぉ! ショーマ君! 元気になったんだな!」
 

 相変わらず料理を続けていた僕の所に、照り焼き丼を受け取りに来た冒険者の1人が声をかけてきた。
 

「あ、あの時の指揮してた方ですよね? お疲れ様です」

「あぁ、一応ここに来ている冒険者の中では1番ランクが高い紫だから、指揮を取っていたんだよ」

「そうだったんですか。 改めて名乗ると、僕はショーマという名前で、冒険者ランクは赤です。 隣でお肉をよそってるノアルとパーティーを組んで活動していました。 ちなみに彼女は黄ランクです」

「え、君、赤ランクなのか!? てっきり紫か銅かと思っていたよ」

「ギルドに登録したのも最近ですし、そこまでの実力もありませんよ。 僕なんてまだまだです」

「いやいや、君の戦いを少し見ていたが、あの不思議な浮く武器を使われたら1対1で勝てる者はそうそういないと思うぞ?」

「そうでしょうか?」
 

 うーん、確かにレベルも上がったし、新しい武器も作ったんだけど、自信を持てるかというとそうでもない。 

 まだまだ向上の余地は無限にあるだろう。
 

「おっと、後ろがつかえているな。 また後で時間があったら話をしよう」

「そうですね、今はご飯を楽しんでください」

「ああ、見たこともない料理だが、匂いで美味そうだと分かるよ。 後で食べた感想も言わせてくれ」

「ぜひ、お願いします」

 指揮官だった人はそう言って照り焼き丼を持って去っていった。 

 帰ってしまう前にもう一度話せるといいな。

 その後、続々やってくる男性陣のために、照り焼きを大量に作り続け、人の波が途絶える頃にはコッコの肉もライスもほとんど使い切ってしまった。
 

「ふぅ、これで全員分は作り終わったかな」

「……ん、おつかれ」

「料理するの好きだから、そこまで疲れてないよ」
 

 こんなに大量に料理を作ったのは初めてで、大変ではあったけれど、結局最後まで楽しく作ることが出来て良かった。
 

「おお! なんか美味そうなもの食ってるな!」
 

 少し休憩していた僕の耳に、ドレアスさんの声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、アルジェさんと一緒にドレアスさんがこちらに歩いて来るのが見えた。
 

「よう、ショーマ! 周りの連中が食べてるもん、お前さんが作ったらしいじゃないか! 俺とアルジェの分残ってるか?」

「はい、もちろん残してありますよ。 お好きな量のライスをよそって持ってきてください」

「おう! 分かった!」

「ショーマさん、料理も出来るんですね?」

「一応、家族に出せるくらいの料理は出来ると思いますね」

「そうなんですか、後でその料理について教えてくれませんか?」

「もちろんです」
 

 少しの間で沢山の人と約束しちゃったな。 

 午後は忙しくなりそうだ。
 


     *
 


 現在、時刻は体感で夜の20時くらい。 

 あっという間に午後の時間は過ぎ去っていった。 

 晩ご飯を食べながら、僕は今、指揮官だった人と話している。

 昼食を食べ終えた後、回収した食器やフライパンなどの調理器具をまとめて生活魔法で綺麗にすると、周りの人達にとても感謝をされた。 

 照り焼きを作って油でギトギトになったフライパンも簡単に綺麗になるので、かなり便利な魔法という事にも気づいた。

 ちなみに僕はスープと野菜だけで昼食は済ませました。

 それと、女性陣はこのまま、晩ご飯の準備や裁縫したりするというので、少しでも負担を減らせればと思い、晩ご飯にまた僕が一品作ることにした。

 そんな昼ごはんの後は、ドレアスさんやアルジェさんとかなり長い間話し込んでいて、内容は村の今後だったり、僕の知ってる料理の事、ノアルと出会ってからここに来るまでの話などを改めてしたりと、気付けばあっという間に夕方になっていた。

 冒険者が帰ってしまうという事で、防衛に問題が起きるのではないかと思ったのだが、明日には冒険者達と入れ違う形で国の騎士団が派遣されるらしく、問題はないとのことだ。

 ただ、ドレアスさんがその話をしている最中に「騎士団か~……」と何回もため息を吐きながら話をしていたのだが、結局その理由は聞けなかった。 

 何か問題でもあるのだろうか? 

 隣を見ても、アルジェさんやノアルは苦笑してるのみだった。

 夕方になったら、昼食の時に料理をした場所に戻ってきた僕は、昼間に綺麗に洗ってアイテムボックスにしまっておいたコッコの骨を大量に取り出し、いくつかの大鍋に放り込んで水を入れ出汁を取る。 

 一緒に長ネギと生姜も目分量で放り込んでおいた。

 出汁を取っているといっても、やる事と言えばたまにアクを取り除いたり、減った水分を足すくらいだったため、暇な間は他の人の料理や裁縫の作業を手伝ったりして過ごした。 

 丁度晩飯時くらいになった頃には出汁もいい感じに出てきたので、目の細かい網で何度か越していく。

 キッチンペーパーがあれば良かったが、ないものねだりをしてもしょうがないのでこれで我慢しよう。

 それから野菜数種類とオーク肉を薄切りにして手頃なサイズにカットし鍋で炒めて、丁度いいところで水と先程作った鶏ガラスープを加えてアクを取りながら煮出たせる。

 最後に味噌を溶かして完成させたのは、豚汁。 

 この世界風に言うとオーク汁になるのかな?

  ……ちょっと響きが気に入らないので豚汁でいいだろう。

 夜は少し冷めるし、なによりライスに合うので昼間から作ろうとずーっと考えていた。 

 今回作ったのは鶏ガラを入れたので、少し中華っぽい風味があるが、ライスには問題なく合うので問題ないだろう。

 先に食べた女性陣からもお墨付きをもらい、配膳するのは任せて欲しいと言われたため、お言葉に甘えて僕は現在、昼間の約束があったので指揮官の人と話している。 

 ノアルはなにやらやる事があるそうでこの場にはいない。
 

「昼間の照り焼き丼?も美味かったが、これも美味い! 汁物の割には腹にたまるし、味もしっかりしてていいな!」

「お口に合ったようで良かったです」

「ショーマ君は普通に料理屋とか開けそうだな。 この料理が食えるなら喜んで通うぞ?」

「今のところその予定はないですが、それもいいかもしれませんね」
 

 貴族とかに出すような料理は作れないが、庶民料理屋で出すような料理は出来るから、案外アリかもしれない。

 
「おーい! お前たち食べてるかー!?」
 

 村の中央広場で思い思いの場所で皆、食事をしている中、ドレアスさんの大きな声が響き渡った。
 

「今日も皆、ご苦労だった! 特に今日まで残ってくれた冒険者達には本当に感謝している! 近いうちに報酬を上乗せしてギルドに渡すからそのつもりでいてくれ!」

「おー!太っ腹だな!」

「気にしなくていいぞー!」
 

 ドレアスさんの言葉に応えるように、方々から声が上がる。
 

「それに、俺達の全てを守り、救ってくれたショーマも今日の朝目覚めた! 今、俺達が食ってる食事の一部もショーマが作ってくれた! 本当にありがとう!」

「ほら、主役なんだから君も行きなよ」

「え、行かないとダメですかね?」

「そりゃそうだろう。 みんな見てるぞ」
 

 気がつくと、周りにいる人達は皆、僕の方に目線を向けていた。 

 う、確かに注目されるのはしょうがないかもしれないけど、こういうのには慣れてない……

 恐縮しながらも僕は足早にドレアスさんの下へ行き、周りを見渡してみる。

 するとそこには、多くの冒険者達とこの村の住人達がほぼ全員集まっていた。

 僕は気持ちを落ち着けるため、一度深呼吸をしてから言葉を発する。

 
「今日1日、村を綺麗にする人達、その作業をしている人を支えている人達、皆さんがこの村のためを想って動いている姿を、僕は今日1日ですが見たり手伝ったりしていました。 自分ではなく、他の何かのためを想って動く事は、簡単なようでとても難しい事だと僕は思います。  ……まぁ、僕みたいに無理をしてまで周りを助けようとすると、後で怒られるのでオススメはしませんが」

「そりゃそうだ!」

「心配したんだぞー!」

「だが、感謝してるぞー!」
 

 その言葉を聞いて、周りからいくつかの大きな声が聞こえてきた。 

 本当に、いい人達だと思う。
 

「そんな他の何かを想って行動できる素敵な皆さんの力になれて、こうやって感謝までされるのはとても嬉しいです! 本当に、ありがとう…… そしてお疲れ様でした!!」
 

 僕がそう言った途端、周りの人達から割れんばかりの拍手や歓声が上がり、夜の村の中央でこれでもかと響き渡っていった。
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