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第三章 獣人国へ
#46 大切にすること
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気が付くと、そこは知らない天井だった。
まさか、自分の人生の中でこんなベタな経験をするなんて思ってもいなかった。
小さな部屋に、床にはどこかの民族が作ったような鮮やかな絨毯が敷かれていて、その上に置かれたベッドの上で僕は寝ている。
……ここは、どこなんだろう?
確か僕は、集会所で治療をしていたはずなのだが、最後にエリアヒールを使ったところ辺りから記憶がない。
恐らく、魔力切れで倒れたんだろうな。
随分と長く寝ていた気がするのだが、窓から差し込む光を見るに、今は朝か昼前くらいかな?
体を起こし、ステータスを見ようと思ったのだが、少し頭がクラクラする。
まぁ、これは体調不良というより、ずっと寝ていた事から起きるものだろう。
少しの間何も考えずに呼吸に集中すると、それも次第に収まってきて、正常な思考が戻ってきた。
改めてステータスを開こうと思ったのだが、僕が寝ている部屋の扉が開く音が聞こえた。
扉の方に目を向けると、そこには手桶とタオルのようなものを持ったノアルが驚きに目を見張った表情でこちらを見ていた。
「……ショー、マ?」
「あ、うん。 おはようノアル」
「ショーマ!!」
「うわっ! ど、どうしたの? ノアル?」
持っていたものを放り出し、ノアルは僕の体目掛けて飛び込んで来た。
全く予想していなかったため、僕はノアルを受け止めきれず、ベッドに押し倒される形になった。
「体は大丈夫? 気分は悪くない? 寒くない? えっと、あとあと……」
「だ、大丈夫だよ。 落ち着いて」
「……本当に大丈夫?」
「うん、意識もはっきりしてるし、体の異常も感じられないから大丈夫だよ」
普段のノアルとは違って、早口でまくしたてるように聞かれた事で多少の驚きはあったが、ちゃんと問題はない事を伝える。
「……不安だった」
「え?」
「……ショーマが、どこかに行っちゃうんじゃないかって…… ノアルの全てを救ってくれた事のお礼も言えてないのに……」
「あー…… 心配かけてごめんね?」
先程からノアルは涙目になりながら僕の胸元に頭をグリグリ擦り付けている。
この様子を見るに、かなり心配かけちゃったみたいだ。
「……どうして、あんなことをしたの?」
「あんなことって?」
「……自分の魔力が無くなるまで回復魔法を使ったこと」
「それは…… あそこにいた怪我人達を待っている大切な人達を悲しませないために……」
「……それは、とても良い考え。 ……けど」
ノアルはそう言うと、体を起こして馬乗りのような体勢になり、僕と正面から目を合わせて、両手は優しく僕の両頬に添えてきた。
「……ノアルは、ショーマがいなくなるのは嫌」
「そうなの……?」
「……ん。 ……だから、他人の事を思いやるのもいいけど、もっと自分を大切にして?」
「自分を大切に……」
「……分からないって顔してる」
「……なんで分かったの?」
「……ショーマは分かりやすい」
相変わらず、顔に出てしまっていたみたいだ。
「……お父さんを助けたのは、ノアルが悲しまないようにするためでしょ?」
「うーん、もちろん族長さん自身の事も助けたいとは思ってたけど、言われてみると1番はそうかもしれない」
「……それを自分に置き換えて考えてみて」
「自分に置き換えて……」
「……ショーマがいなくなると、ノアルは悲しい。 ……だから、ノアルのためにもショーマには、無理はしないで欲しい」
……そこまで、想ってくれているのか。
僕を大切に想ってくれる人のために、自分を大切にする、か……
いざ目の前の困っている他人を見てしまうと、自分の事よりその人の事を考えてしまう僕にはいい考えかもしれない。
一見、ノアルの自己中心的な要求に聞こえるが、その言葉はストンと僕の中に落ちていった。
「……ありがとう、ノアル。 でも、やっぱり僕は目の前で誰かが困っていたら見過ごせないと思う。 ……無理をしなくてはいけないこともあるかもしれない。 けど、これからは僕の事を大切に想ってくれる人がいるっていう事を忘れずに、自分を大切にしつつ、その上で無理を通すことにするよ」
「……むぅ、結局無理はするの?」
「あはは、ごめんね。 でも、それが僕だから」
「……そういうところがショーマらしい」
「そうかな?」
「……ん」
ノアルは最後にそう言うと、再び僕の胸元に顔を埋めた。
「あのー、ノアルさん? そろそろ体を起こして少し動きたいんですけど……」
「……いい匂い」
「聞いてる?」
「……もうちょい」
まぁ、心配させちゃったみたいだし、いっか。
それからしばしの間、僕はノアルに感謝しながら、彼女の頭を撫で続けていた。
*
「ノアルー? ショーマさんの様子は…… って、あら?」
「あ、おはようございます。 えーっと、アルジェさんでよろしかったですか?」
「はい、ノアルの母のアルジェと申します。 目が覚めたんですね、良かったです」
「おかげさまで、今はもう元気です」
「いえいえ。 ところで、ノアルはなにをやっているのかしら……?」
ノアルの方に呆れたような目線を向けながら、アルジェさんがそう訊ねる。
「……抱きついてる」
「もう…… ショーマさんは病み上がりなんだから無理させちゃダメよ?」
「あはは…… 大丈夫ですよ。 心配してくれたみたいなので、僕も嬉しかったですから。 でも、流石にそろそろいいかな? 色々と確かめたい事とかもあるし」
「……ん、分かった」
ノアルはそう言うと、僕から離れてベッドから降りる。
僕も続いて体を起こし、ベッドから降りる。
ずっと寝ていたせいか、少し体を動かす事に違和感があるが、まぁ、すぐに慣れるだろう。
「体は大丈夫ですか?」
「はい。 問題ないです」
「そうですか。 それなら、ショーマさんに会って欲しい人がいるのですが、そちらに来てもらえませんか?」
「構いませんよ。 ちなみに、どなたでしょうか?」
「私の夫で、この村の族長です」
「……! 族長さんはご無事ですか?」
「はい、ショーマさんのおかげでピンピンしています」
「それは良かったです。 本当に良かった……」
「外にいるので行きましょうか。 ノアルも一緒に行く?」
「……もちろん」
アルジェさんとノアルの案内で部屋を出た。
「ちなみに僕はどれくらい寝てたんですか?」
「ショーマさんは2日程寝ていて、今はお昼前ですね」
「え! そんなに経ってたんですか!?」
「……いつまで経っても起きないから、とても心配だった」
確かに、それは心配にもなるか……
長く寝ていた感覚はあるが、そこまでだとは思ってなかった。
「他の怪我人の人たちはどうですか?」
「皆さん既に全員起きていますよ。 ショーマさんのおかげで皆、元気です。 本当にありがとうございました」
「そうですか。 それなら良かったです」
「……元気になったからどうしても帰らなきゃいけない人達もいたけど、出て行く前に皆、ショーマの枕元で感謝とお別れの言葉をかけてた」
「それは少し悪い事をしたかな?」
「……また会ったら改めて感謝するって」
「そっか。 また会えるといいな」
そんなやり取りをしているうちに、家から外に出る扉まで来た。
扉を開けて外に出た時、最初に目に入ったのは、沢山の冒険者と獣人が協力し合って、壊された家などを修理している光景だった。
「冒険者達の半分程が有志で残ってくださってるんです。 本当に、彼らには頭が上がりません」
アルジェさんが彼らを見てそう言っていると、近くの冒険者の1人がこちらに気づいたみたいだ。
「おお、あんた起きたのか! 良かった!」
体格のいいその男は、笑いながらそう言ってきた。
その声が聞こえたのか、他にも沢山の冒険者や獣人達がこちらに近づいて来て、あっという間に小さな囲みが出来てしまった。
「あんたのおかげですっかり元気だ! ありがとう!」
「正直、もうダメかと思った! 君は恩人だよ!」
「お兄ちゃん、パパの傷を治してくれてありがとう!」
中には小さな子供達もいて、皆、口々に感謝の言葉を伝えてきてくれた。
正直なところ、とても嬉しい。
感謝される事を目的にしていた訳ではないが、それでも嬉しいものは嬉しくて、僕のやった事に意味はあったのだと感じさせられた。
ああ、僕は今、とても幸せな気持ちだ。
まさか、自分の人生の中でこんなベタな経験をするなんて思ってもいなかった。
小さな部屋に、床にはどこかの民族が作ったような鮮やかな絨毯が敷かれていて、その上に置かれたベッドの上で僕は寝ている。
……ここは、どこなんだろう?
確か僕は、集会所で治療をしていたはずなのだが、最後にエリアヒールを使ったところ辺りから記憶がない。
恐らく、魔力切れで倒れたんだろうな。
随分と長く寝ていた気がするのだが、窓から差し込む光を見るに、今は朝か昼前くらいかな?
体を起こし、ステータスを見ようと思ったのだが、少し頭がクラクラする。
まぁ、これは体調不良というより、ずっと寝ていた事から起きるものだろう。
少しの間何も考えずに呼吸に集中すると、それも次第に収まってきて、正常な思考が戻ってきた。
改めてステータスを開こうと思ったのだが、僕が寝ている部屋の扉が開く音が聞こえた。
扉の方に目を向けると、そこには手桶とタオルのようなものを持ったノアルが驚きに目を見張った表情でこちらを見ていた。
「……ショー、マ?」
「あ、うん。 おはようノアル」
「ショーマ!!」
「うわっ! ど、どうしたの? ノアル?」
持っていたものを放り出し、ノアルは僕の体目掛けて飛び込んで来た。
全く予想していなかったため、僕はノアルを受け止めきれず、ベッドに押し倒される形になった。
「体は大丈夫? 気分は悪くない? 寒くない? えっと、あとあと……」
「だ、大丈夫だよ。 落ち着いて」
「……本当に大丈夫?」
「うん、意識もはっきりしてるし、体の異常も感じられないから大丈夫だよ」
普段のノアルとは違って、早口でまくしたてるように聞かれた事で多少の驚きはあったが、ちゃんと問題はない事を伝える。
「……不安だった」
「え?」
「……ショーマが、どこかに行っちゃうんじゃないかって…… ノアルの全てを救ってくれた事のお礼も言えてないのに……」
「あー…… 心配かけてごめんね?」
先程からノアルは涙目になりながら僕の胸元に頭をグリグリ擦り付けている。
この様子を見るに、かなり心配かけちゃったみたいだ。
「……どうして、あんなことをしたの?」
「あんなことって?」
「……自分の魔力が無くなるまで回復魔法を使ったこと」
「それは…… あそこにいた怪我人達を待っている大切な人達を悲しませないために……」
「……それは、とても良い考え。 ……けど」
ノアルはそう言うと、体を起こして馬乗りのような体勢になり、僕と正面から目を合わせて、両手は優しく僕の両頬に添えてきた。
「……ノアルは、ショーマがいなくなるのは嫌」
「そうなの……?」
「……ん。 ……だから、他人の事を思いやるのもいいけど、もっと自分を大切にして?」
「自分を大切に……」
「……分からないって顔してる」
「……なんで分かったの?」
「……ショーマは分かりやすい」
相変わらず、顔に出てしまっていたみたいだ。
「……お父さんを助けたのは、ノアルが悲しまないようにするためでしょ?」
「うーん、もちろん族長さん自身の事も助けたいとは思ってたけど、言われてみると1番はそうかもしれない」
「……それを自分に置き換えて考えてみて」
「自分に置き換えて……」
「……ショーマがいなくなると、ノアルは悲しい。 ……だから、ノアルのためにもショーマには、無理はしないで欲しい」
……そこまで、想ってくれているのか。
僕を大切に想ってくれる人のために、自分を大切にする、か……
いざ目の前の困っている他人を見てしまうと、自分の事よりその人の事を考えてしまう僕にはいい考えかもしれない。
一見、ノアルの自己中心的な要求に聞こえるが、その言葉はストンと僕の中に落ちていった。
「……ありがとう、ノアル。 でも、やっぱり僕は目の前で誰かが困っていたら見過ごせないと思う。 ……無理をしなくてはいけないこともあるかもしれない。 けど、これからは僕の事を大切に想ってくれる人がいるっていう事を忘れずに、自分を大切にしつつ、その上で無理を通すことにするよ」
「……むぅ、結局無理はするの?」
「あはは、ごめんね。 でも、それが僕だから」
「……そういうところがショーマらしい」
「そうかな?」
「……ん」
ノアルは最後にそう言うと、再び僕の胸元に顔を埋めた。
「あのー、ノアルさん? そろそろ体を起こして少し動きたいんですけど……」
「……いい匂い」
「聞いてる?」
「……もうちょい」
まぁ、心配させちゃったみたいだし、いっか。
それからしばしの間、僕はノアルに感謝しながら、彼女の頭を撫で続けていた。
*
「ノアルー? ショーマさんの様子は…… って、あら?」
「あ、おはようございます。 えーっと、アルジェさんでよろしかったですか?」
「はい、ノアルの母のアルジェと申します。 目が覚めたんですね、良かったです」
「おかげさまで、今はもう元気です」
「いえいえ。 ところで、ノアルはなにをやっているのかしら……?」
ノアルの方に呆れたような目線を向けながら、アルジェさんがそう訊ねる。
「……抱きついてる」
「もう…… ショーマさんは病み上がりなんだから無理させちゃダメよ?」
「あはは…… 大丈夫ですよ。 心配してくれたみたいなので、僕も嬉しかったですから。 でも、流石にそろそろいいかな? 色々と確かめたい事とかもあるし」
「……ん、分かった」
ノアルはそう言うと、僕から離れてベッドから降りる。
僕も続いて体を起こし、ベッドから降りる。
ずっと寝ていたせいか、少し体を動かす事に違和感があるが、まぁ、すぐに慣れるだろう。
「体は大丈夫ですか?」
「はい。 問題ないです」
「そうですか。 それなら、ショーマさんに会って欲しい人がいるのですが、そちらに来てもらえませんか?」
「構いませんよ。 ちなみに、どなたでしょうか?」
「私の夫で、この村の族長です」
「……! 族長さんはご無事ですか?」
「はい、ショーマさんのおかげでピンピンしています」
「それは良かったです。 本当に良かった……」
「外にいるので行きましょうか。 ノアルも一緒に行く?」
「……もちろん」
アルジェさんとノアルの案内で部屋を出た。
「ちなみに僕はどれくらい寝てたんですか?」
「ショーマさんは2日程寝ていて、今はお昼前ですね」
「え! そんなに経ってたんですか!?」
「……いつまで経っても起きないから、とても心配だった」
確かに、それは心配にもなるか……
長く寝ていた感覚はあるが、そこまでだとは思ってなかった。
「他の怪我人の人たちはどうですか?」
「皆さん既に全員起きていますよ。 ショーマさんのおかげで皆、元気です。 本当にありがとうございました」
「そうですか。 それなら良かったです」
「……元気になったからどうしても帰らなきゃいけない人達もいたけど、出て行く前に皆、ショーマの枕元で感謝とお別れの言葉をかけてた」
「それは少し悪い事をしたかな?」
「……また会ったら改めて感謝するって」
「そっか。 また会えるといいな」
そんなやり取りをしているうちに、家から外に出る扉まで来た。
扉を開けて外に出た時、最初に目に入ったのは、沢山の冒険者と獣人が協力し合って、壊された家などを修理している光景だった。
「冒険者達の半分程が有志で残ってくださってるんです。 本当に、彼らには頭が上がりません」
アルジェさんが彼らを見てそう言っていると、近くの冒険者の1人がこちらに気づいたみたいだ。
「おお、あんた起きたのか! 良かった!」
体格のいいその男は、笑いながらそう言ってきた。
その声が聞こえたのか、他にも沢山の冒険者や獣人達がこちらに近づいて来て、あっという間に小さな囲みが出来てしまった。
「あんたのおかげですっかり元気だ! ありがとう!」
「正直、もうダメかと思った! 君は恩人だよ!」
「お兄ちゃん、パパの傷を治してくれてありがとう!」
中には小さな子供達もいて、皆、口々に感謝の言葉を伝えてきてくれた。
正直なところ、とても嬉しい。
感謝される事を目的にしていた訳ではないが、それでも嬉しいものは嬉しくて、僕のやった事に意味はあったのだと感じさせられた。
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