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第三章 獣人国へ

#43 決着、そして現状

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「グァァァァァ!!!」
 
「『シールド』!!」
 

 ガァァァァン!!
 

 僕の前とノアルの前に現れたシールドが、ジェネラルの咆哮を受け止めた。

 うん、割れたりはしてないね。 

 数発連続で打たれても大丈夫そうだけど、そもそも連発出来ないっぽいな。
 

「……んっ!」
 
 
 咆哮の隙を狙って、ノアルがジェネラルに斬りかかる。
 

「ブモォ!」
 

 だが、ジェネラルもその体格に似合わないスピードで斧を振り回して、ノアルの攻撃を捌いている。
 

「後ろがガラ空きだよ!」
 
「ブヒィ!?」
 
「……ナイス」

 
 ノアルが前で引き付けてくれているお陰で、僕のロングソードの一撃がジェネラルの背中に入った……

 ん? あれは……?

 気になるものを見つけたが……

 今は戦闘に集中しよう。

 大きめの傷がつけられて怒ったのか、ジェネラルが斧やら太い腕を振り回して攻撃してくる。
 

(……ショーマ?)
 
(ん? どうしたの?)
 
(……とどめはノアルが刺していい?)
 

 その攻撃をヒョイヒョイ避けていると、ノアルから念話が届いた。
 

(いいけど…… どうして?)
 
(……この村を襲って、みんなを傷つけたのは許せない。 だから、ノアルがやる)
 

 念話越しにもノアルの怒気が伝わってくる。 

 あんまり顔には出していないが、かなり怒ってるみたいだ。

(分かった…… けど、無茶はダメだよ? 僕もサポートするから、2人で追い込もうね?)
 
(……ん、ありがと。 ……最後だし、身体強化のレベルを上げる)
 
(え、全力じゃなかったの?)
 
(……ちょっとだけ副作用があるから使わない方がいいけど、決定力が足りないから使う)
 
(……分かった。 詳しい事は後で聞くから、今は全力でこの魔物を倒そう)
 
(……もちろん)
 

 副作用というのが気になるが、深刻そうには聞こえないので深くは聞かないでおく。 

 体の異常なら回復魔法で治せるだろうし。

 そんなノアルは、ジェネラルの攻撃をわざと受け止め、その勢いを使って後ろに跳び、着地したその場で魔力を集中させていく。
 

「ブヒィ……」

 
 ジェネラルも何かを感じ取ったのか、ノアルの方に狙いを定めて走り出そうとする。
 

「おっと、行かせないよ」
 
「ブヒ!?」
 

 そんなジェネラルに対し僕は、プルニーマをジェネラルの周りで縦横無尽に飛ばし、細かい傷を増やしていく。 

 腕とかを両断出来ればいいのだが、ジェネラルの手下(今思うと普通のオークだと思う)よりも腕やら足が太く硬いので、真っ正面からプルニーマをぶつけると、両断出来ずに刺さって動かせなくなってしまう恐れがあるのでやめておく。
 

「……身体強化、レベル4」
 

 少し離れたところにいるノアルの呟きが聞こえた。

 ジェネラルをプルニーマで牽制しながらそちらに目を向けると、そこには純白の魔力をオーラのように纏ったノアルが立っていた。

 もしかして、あれがノアルの魔力の色なのかな? 

 見ただけですごい密度の魔力が体の周りを覆っているのが分かる。
 

「ガァァァァァ!!」
 

 ノアルの様子に焦ったのか、ジェネラルが周りを飛んでいたプルニーマを咆哮で弾き飛ばす。 

 シールドを張ったのでそこまでの損傷はないが、多少は距離が離れてしまった。

 それからジェネラルは僕とノアルを交互に見て、ノアルの方に向き直ると、全速力でノアルの方へと向かった。 

 恐らく本能がノアルの方が僕より危険だと判断したんだろう。 

 まぁ、間違ってないね。

 ジェネラルの様子を見て、ノアルのサポートにプルニーマを飛ばそうとしたのだが……

 次の瞬間、ノアルの姿を見失った。 

 そして、僕が次に認識出来たノアルは、ジェネラルの後ろで真っ直ぐに立っていた。

  ……両手の剣を手放した状態で。
 

「ブモ…………」
 

 数秒の硬直の後、掠れるような声量を最期に、ジェネラルが後ろに倒れていった。

 ノアルが持っていた双剣は、ジェネラルの左右の胸部に1本ずつ根本まで深く突き刺さり、ジェネラルの命を奪い去っていた。
 

「……ノアルの故郷を襲った罪、償うといい」
 

 ノアルはそう言うと、ジェネラルに刺さった双剣を引き抜き、剣に付いた血や体液をブンっと振り落とし、そのままチャキンと鞘にしまった。
 

「ノアル!」
 
「……ん、ショーマ。 倒したよ」
 
「うん、見てたよ。 倒してくれてありがとう。 それに、凄いねその力」
 
「……身体強化は、スキルのレベルに応じた段階がある。 ……高ければ高いほど強い力が出せるようになる」
 
「そうなんだ、すごい力だね?」
 
「……ただ、さっきも言ったけど、副作用がある。 ……自分自身のレベルとかパラメーターが足りないと、身体強化を解いた時に、体中の痛みに襲われる」
 
「今は大丈夫?」
 
「……ん、思ったより痛くない。 ……ここまで来るまでに多少レベルが上がったのかも」
 
「そっか。 一応回復魔法かけようか?」
 
「……いや、あんまり回復魔法に頼ると体が弱くなるってお父さんが言ってたから、大丈夫」
 
「分かった。 辛かったら言ってね」
 
「……ん」
 

 僕達はお互いの無事を確認し合い、次に周りの人達の介抱に向かった。
 

 幸い、皆少し吹き飛ばされただけで、命に別状のあるような人はいなかった。 

 ただ、全員体力の消耗が激しいので、休息が必要な事には変わりはないが。
 

「おーーーーい!! 大丈夫かーーー!?」
 

 そして丁度全員の容態を見終わった頃に、向こうで僕と一緒に戦った人達がこちらに来た。
 

「あ、お疲れ様です。 大丈夫でしたか?」
 
「そりゃこっちのセリフだよ! 上位種はどうしたんだ?」
 
「あそこに倒れていますよ」
 

 僕はジェネラルの死骸を指差し、戦闘の結果を示す。
 

「ん? おぉ! 本当だ!」
 
「デ、デカイな……」
 
「私達じゃ倒せなかったわね……」
 

 周りで戦っていた人達は、それぞれの感想を溢しながらジェネラルの死骸を眺めていた。
 

「君達…… 本当にありがとう! 正直、君達が来るまでは希望はカケラも無かった。 私達が生きているのは君達のおかげだ」
 
「そう言ってもらえると嬉しいです。 あ、そうだ、皆さんもう少し集まってください」
 
「ん? 何をするんだ?」
 

 疑問を口にしながらも皆、間を詰めてひとかたまりになってくれた。
 

「はい、それくらいでいいです。 なるべく動かないでくださいね。『エリアヒール』!」
 

 傷ついた人たちに向けて僕は光魔法の内の一つ、エリアヒールを唱えた。

 この魔法は字面から分かる通り、一定範囲の人達をまとめて回復させることが出来る。 

 回復量はメガヒール以下、ヒール以上といったくらいだ。 

「これは…… 傷が治っていく……?」
 
「皆さん少し傷ついているので、まとめて範囲回復魔法をかけました。 傷を治しただけで体力までは回復してないので、なるべく休んでください」
 
「十分過ぎるよ。 本当にありがとう。 ちなみに、まだ回復魔法は使えたりするか?」
 
「そうですね…… 今と同じ規模ならあと3、4回と言ったところでしょうか?」
 
「重ね重ねで悪いんだが…… この村の集会所に怪我人がたくさんいるんだ。 出来れば彼等にも回復魔法をかけて欲しい」
 
「分かりました。 案内をお願い出来ますか?」
 
「ありがとう! こっちだ! 付いてきてくれ」
 

 怪我人がまだまだいるのか……

 早いところ治してあげないとな。
 

「あ、あなたは! ノアル様!?」
 

 と、集会所に行こうとした僕の耳に、そんな心底驚いたような声が響いた。
 

「……ブラン、無事で良かった」
 
「とんでもございません! ノアル様こそよくぞ無事で!」
 
「……お父さんとお母さんは無事?」
 
「アルジェ様はご無事です。 ただ…… 族長は……」
 
「……っ。 ……どこにいるの?」
 
「他の怪我人達と同じく、集会所にいらっしゃいます……」
 
「……ショーマ」
 
「うん、急ごうか」
 
 
 僕達は急いで集会所に向かって走り出した。
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