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第三章 獣人国へ

#41 新武器

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 現在、僕は空を飛んでいる。

 下を見下ろしてみると、かなりの高さがあることが分かる。 

 ただでさえ高い丘から斜め上に向かって飛んだため、地上から50mくらいは離れてるのではないだろうか? 

 なおも上昇しているので、結果的には100m程までいくかもしれない。

 高所恐怖症とかじゃなくて良かった。

 高所であることもそうだし、シールドの魔法が無くてはこの方法は取れなかっただろう。 

 ゴブリンメイジの風魔法を通さなかったから、風圧も防げると思ったのだが、成功して本当に良かった。 

 防げなかったら今頃、ジェットコースター以上の風圧と重力に襲われていただろう。

 着地は……ウィンドを使えば出来るかな? 

 無理そうだったら、魔力を大量に使ってシールドを張れば大丈夫だろう。

 それにしても、あまり考え無しにこんな事をしたのは失敗だったかもしれないなぁ……

 ただ、ノアルの切羽詰まった表情を見ちゃったから、僕もいてもたってもいられなくなっちゃったんだよね。

 そのノアルは、僕のほぼ真下をとんでもないスピードで走っている。 

 ここからだと、小粒のようにしか見えないのだが。

 このペースならあと3分くらいで行けそうだな。 

 よし、着地の準備をしよう。

 ウィンドの魔法をコントロールして、高度を少しずつ下げていく。 

 スピードを下げるとノアルにあっという間に置いてかれるから、スピードを下げるのは着地の少し前でいいだろう。

 目的地との距離はあと、500メートルくらい。 

 ここまで来て分かったが、やっぱり戦闘しているみたいだ。

 というかよくよく考えてみると、なんか僕、目が良くなった気がする。

 丘の頂上からは2キロくらい離れていたし、戦闘しているということがなんとなく分かった時点で結構異常じゃないか?

 ……まぁ、困る事はないからいいか。 

 今度フォルティにでも聞いてみよう。

 戦闘相手の魔物は、数が20匹くらいの群れで、かなり大きいのがここから見ても分かる。 

 体高が2~3mくらいか? 

 必死に抵抗しているみたいだが、徐々に押されているようだ。 

 話に聞いていた魔物の群れとは全然違い、同じ種類の魔物しかいないみたいだが、ピンチなのは変わらないだろう。 

 ノアルの故郷を壊させる訳にはいかない。 

 急がないと……
 


     *

 

「絶対に通すな!! 後ろには戦えない者達が沢山いる! 死んでも守り抜け!」
 

 所々で争う音がする。 

 戦況は控えめに言っても良くないことは明らかで、少しずつ押されていってしまっている。

 先日の魔物の大群がもたらしていった傷痕が癒えている訳もなく、今戦っている30人程は既に満身創痍の状態である。 

 救援に来た冒険者や国の兵士達を含めて、この数しか残っていない。

 救援を含めて100人程いた仲間たちも、2割が無残にも戦死し、残りの者達も大小様々な傷を負い、村の中で体を休めている。

 何故かは分からないが、魔物の群れが訪れたところから数日程でほとんどの魔物が村を襲うのをやめ、次第に方々へ散っていった。 

 そのことは本当に救いだった。

 それでも、残った魔物を殲滅するのに3日はかかったのだが。
 

「グファァ!」
 
「うわぁぁー!!!」
 

 隣で戦っていた1人の男から悲鳴が聞こえた。 

 今戦っているのは、しつこくも村を狙ってくるオーク達で、1匹1匹がかなりのパワーと耐久力を持っており、今の自分達にとってはかなり厄介な相手だ。

 隣の男はそんなオークの攻撃を捌ききれなかったようだ。

 吹き飛ばされた男は地面に転がり、身動きが取れなくなる。 

 くそっ! 誰か、助けに行けないのか!?

 周りを見てみても、全員が手いっぱいで自分の身を守るのに精一杯のようだ。 

 そもそも、オークは1匹倒すのに青ランクのパーティー1組が必要な魔物だ。 

 黄ランクくらいになってようやく1人で倒せるかだろう。

 全員が満身創痍の中、1人1匹を相手して持ち堪えているだけでも奇跡なのかもしれない。

 だか、それは1人が落ちれば成立しない奇跡でもある。

 くそっ、ここまでか……


 ズドンッッッ!!


 ドシャドシャッ……


「うぉっ!?」


 諦めの考えが頭をよぎった瞬間、オークがいたところに何かが落ちてきた音と、数瞬遅れて何かが崩れ落ちる音がした。

 そこにいたのはまだ若い青年だった。

 質の良さそうなロングソードを振り下ろし、膝を曲げた姿勢で止まっていたが、やがてスクっと立ち上がって剣についた血を振り払い、倒れていた男に走り寄った。
 

「大丈夫ですか? 今、回復させますね『メガヒール』」
 

 救援…… しかも魔法使いか! 

 ありがたい! 

 これでなんとかなるかもしれない。

 諦めかけていた周囲の人間に、再び火がついた。

 

     *

 

 危なかった。 

 もう少し遅れていたらこの人は魔物にやられていただろう。 

 上からゆっくり降りている最中に、この人が魔物に吹き飛ばされたのを目撃して、魔法を解除して50m程上空から自由落下で降りてきた。 

 衝撃に関しては全身に張っておいたシールドが肩代わりしてくれたみたいで、シールドは壊れてしまったが、僕自身は無傷だ。
 

「傷は治しましたが、無理はしないでください。 体力までは戻らないので」
 
「あ、あぁ、助かったよ。 本当にありがとう」
 
「お気になさらず。 ただ、今はこの状況を切り抜ける事を考えましょう」
 

 周りを見てみると、全員が手いっぱいなのが分かる。 

 この魔物は今まで戦ってきた魔物よりは強いかもしれない。 

 油断せずにいこう。
 

「ぐぁぁ!」
 
「きゃぁぁ!」
 

 そうこうしていると、近くにいた獣人の男と冒険者っぽい女の人が魔物の攻撃を食らってしまい、倒れた。
 

「ロックア…… お?」
 

 咄嗟に魔法を放とうとするが、その必要は無かった。
 

「ブヒュ……」

 
 数秒前まで有利だったはずの2匹の魔物は、片方は首を吹き飛ばされ、1匹は胸を2本の剣で貫かれ絶命した。
 

「……むぅ、遅れた」


 それは地上から走ってここまで辿り着いたノアルの仕業だった。
 
 
「そんな事ないよ。 それよりも、早いところサポートに回ろう。 ノアルは向こうを任せてもいい? 僕はこっちをサポートするから」
 
「……ん、了解。 ……気をつけてね」
 
「うん、ノアルもね。 無理せずに動いて、何かあったら念話を繋げておくから連絡して? あと、支援魔法もかけておくね『フィジカルブースト』」
 
「……ありがと。 ……念話は頭の中で話しかければいい?」
 
「うん、それで大丈夫。 お互い安全第一で行こうね」
 
「……分かった」
 

 昨日のうちに念話のスキルレベルを6まで上げておいたので、今は半径40m程なら頭の中で会話できる。 

 お互い確認も終わったところで、僕達は魔物の方に向き直った。
 

「よし、じゃあ行くよ!」
 
「……ん!」
 

 僕とノアルは二手に別れて、戦っている人達の救援に入る。
 

「まずは……『メガヒール』」
 

 さっき吹き飛ばされた2人に回復魔法をかけて回復させる。

 
「すまない! 助かった!」
 
「ありがとう!」
 
「いえいえ、無理せずに退がっていてください」
 

 2人を退がらせ、僕はアイテムボックスから昨日作った新しい武器を5つ取り出した。


 浮空石搭載型戦輪 『プルニーマ』


 サイズは掌よりも少し大きめで、形状は戦輪…… 地球の一部地域ではチャクラムと呼ばれる武器を参考にした。 

 無駄な部分を極力分離させ、浮かす力を強くした浮空石と、僕のロングソードと同じ硬度の高い鉄を3:7くらいで混ぜた刃に、刃の内側には魔石で作った十字の持ち手を刃と繋げてある。 

 魔石が魔力を貯蔵するバッテリーのような機能を担っていて、これによって付与された魔法と浮空石の力を発動させやすくした。

 今回作った5つは全て+3なので、全て同じ付与をしてある。 

 鍛冶師のレベルがあがってから作るものの全てが+3なのだが、何か関係があるんだろうか?

 いや、今はそんな事より、早いところこの状況をなんとかしないとな。
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