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第二章 新たな出会い

#20 シーフはすごい

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「おはよう、ショーマ。 お、そいつ起きたんだな」
 
「おはようございます、ミルドさん。 はい、今朝起きました」
 
「そうかそうか、ところで、そいつも飯食うのか?」
 
(……食べる)
 

 ノアルはコクコク首を縦に振っている。
 

「なんだ? 言葉が分かるのか?」
 
「そうみたいです」
 
「賢いんだな。 人間と同じでいいのか?」
 
「コクコクっ(……いい、お腹空いた)」
 
「そうか、じゃあお前の分も準備するから座って待っとけ」
 

 そう言ってミルドさんは厨房の方へ戻っていった。
 

(よかったね、ご飯もらえるみたいで)
 
(……うん、楽しみ。 お腹すいた)
 

 ノアルは僕の肩を踏みながらそう答える。

 肉球の感触が気持ちいい。
 

「お! ショーマおはよう! そいつが昨日助けたっていう黒猫か!」
 
「ゲイルさんおはようございます。 あれ? 僕この子の事話しました?」
 
「いや、お前が昨日、部屋に戻った後にミルドから聞いたんだ! ん?こいつは……」
 
「どうかしました? ゲイルさん?」
 
「あぁ、いや、なんでもねえよ! 一緒に飯食おうぜ!」
 
「もちろん、大丈夫ですよ」
 
(……だれ?)
 
(僕がこの街に来た時に助けてもらった冒険者のゲイルさん。 この街で1番ランクの高いパーティーに入ってるよ)
 
(……ちょっと顔が怖い)
 
(い、いい人なのは間違いないから)
 

 やっぱり、初対面だとちょっと怖いのか。 

 僕はもういい人だって分かってるから怖くないけど。

 そんなやり取りをしているうちに、朝ご飯が運ばれてきた。 

 今日の朝ご飯は、ソーセージにサラダ、コーンスープと食パンだった。 

 ノアルには一口大に切られたソーセージが入った小皿と、ミルクが注がれたお皿がミラルちゃんによって運ばれてきた。 

 食べる場所は机の上だ。
 

(……食べていい?)
 
「おう、お前の分だ。 食べていいぞ」
 

 ノアルが待ちきれない雰囲気でミルドさんの方に顔を向け首を傾げてると、その意図を汲み取ったミルドさんが許可を出す。 

 と同時にすごい勢いで食べ始めた。 
 
 お腹空いてたんだなー。

 僕たちも、それを見て食事に手を付け始める。 

 うん、今日も美味しい。

 結局、ノアルはソーセージがかなり気に入ったらしく、最初の皿を合わせて3杯食べていた。 

 おかわりが欲しくなったら、ミルドさんやミラルちゃんの方を見て、皿を前足でテシテシして伝えてた。
 

(……美味しかった)
 
(良かったね、満足した?)
 
(……うん、この姿だと、これくらいでお腹いっぱい)
 

 それにしてもいっぱい食べてたけどね。 

 その小さい体のどこに入ってるんだろう?

 僕とゲイルさんも食べ終わり、食堂を後にすることにする。 

 ミラルちゃんはノアルと遊びたかったみたいだが、また僕らが帰ってきてからということで納得してもらった。 

 聞き分けの良い子だと思う。

 
「ゲイルさん、この後はギルドですか?」
 
「んー、ギルドには行くがそこまで急ぎって訳でもねぇな。 なんでだ?」
 
「ちょっと聞きたいことがありまして」
 
「お? 全然いいぞ」
 
「ありがとうございます。 ちょっと他には聞かせづらいので、宿を出ましょうか」
 
「おう、分かった」

 
 ゲイルさんはあっさりと快諾してくれた。

 その後、僕らは宿を出て、近くの人通りのない路地に入る。
 

「んで、聞きたいのはそいつが獣人だってことか?」
 
「!! 分かってたんですか?」
 

 驚いた。 

 なんで分かったんだ……?
 

「獣人の獣化スキルも多少なりとも魔力を使うから、獣化した時にほんの少しだが魔力を纏ってるんだ。 俺はシーフだからそういう魔力の動きには敏感で、そいつを見た時に判別がついた。 ダンジョンのトラップとかもその力で見極めてる。 まぁ、シーフなら誰でも分かるって訳じゃないがな!」
 

 ……ゲイルさん凄いんだな。

 僕もノアルの魔力を感じようと、めちゃくちゃ集中して観察してみたところ、なんとなーく感じ取れるくらいの微量な魔力をノアルが纏ってることに気付いた。
 

(……ばれてた)
 
(みたいだね)
 

 ノアルも少し驚いたみたいだ。
 

「んで、ショーマが聞きたいことは獣人についてか?」
 
「そうです。 この子からヒト種族は獣人を嫌ってると聞いたので、どうしようかと思いまして」
 
「まぁ、確かに獣人を毛嫌いしてる奴も一定数いるなぁ。 ただ、この街にも獣人が来ないわけでもないし、この街の奴らは基本的に大丈夫だと思うぜ。 どっちかというと冒険者の連中の方が厄介だな」
 
「冒険者が、ですか?」
 
「ああ、冒険者は色んなところから来るから、獣人を嫌ってる土地から来たって奴も多い。 この街にも獣人の冒険者パーティーが今、1組いるんだが、そいつらがギルドに来た時に一悶着あったらしい」
 
「そうなんですか……」
 

 僕も冒険者だから、ギルドには行くことになるだろうし、どうしたもんかな。
 

(ノアルは、獣化の姿のままで大丈夫?)
 
(……獣化は魔力を使う。 ……少しずつだから数日は持つけど、それ以上は昨日みたいに魔力が無くなって動けなくなる)
 

 出来れば人間の姿でいた方が楽なのか。

 というか、魔力が無くなると昨日のノアルみたいになるんだ。 

 僕も気をつけないと。
 

「見つめ合ってなにしてんだ?」
 
「あ、すいません。 スキルを使ってこの子と話してたんです」
 
「スキルを……? ああ、念話か! 通りで朝からちょいちょいショーマとそいつの間で魔力が動いてたのか」
 
「そんな事も分かるんですか?」
 
「分かるぞ、シーフだからな」
 

 シーフすごいな。
 

「うん、獣人の事は大体分かりました。 教えてくれてありがとうございます」
 
「お、もういいのか?」
 
「はい、もう大丈夫です。 時間取らせてしまってすいませんでした」
 
「いいってことよ! んじゃ、俺はそろそろギルドに行くぜ! またな!」
 

 そう言って、ゲイルさんはギルドの方へ歩いていった。

 さて、僕も動き始めないとだな。
 

(……どこ行くの?)
 
(最初は服屋に行くよ。 ノアルの服買わなくちゃね)
 

 まずは、フーリヤさんのところへ行こう。



 *



 それから僕たちは、ノアルの服を買うためにフーリヤさんの所へ向かっているのだが、その間ノアルに聞いておきたい事を聞くことにする。
 

(ノアルはどうして森で魔物に襲われていたの? ああ、言いたくなかったりしたら言わなくていいからね?)
 
(……分からない)
 
(分からない?)
 
(……ノアルは獣人国の端っこの村で暮らしてた)
 
(獣人国…… 確かウロナの森を抜けたところにある国の一つだよね?)
 

 昨日、ギルドマスターのフレーナさんに会いにギルドに行った時に、この辺りの地図をチラッと見たが、ウロナの森はかなり大きく、今僕たちがいるベルファイン王国の他に、二つの国がウロナの森に接している。
 
 その2つは獣人国アラサドとスーガルフ帝国で、帝国の方はここ数年皇帝が変わってから他国へ侵攻しようとする動きが強まっているらしい。
 

(……そう。 ……それで数日前、突然私たちの村に魔物の群れが襲撃してきた)
 
(魔物の群れ……?)
 
(……魔物は基本、違う種類が群れたりしないのに、その時は色んな種類の魔物が真っ直ぐに村に向かってきた)
 
(それで、逃げてきたのか)
 
(……村のみんなは戦ったり逃げて、私はお父さんとお母さんにこの街の方へ逃がされた…… 万全ならあの魔物くらい余裕で倒せたけど、魔力切れて怪我もしてたから、逃げ回ってた)
 

 そんなノアルの言葉には念話越しに色々混ざった複雑な感情が伝わってきた。
 

(そうだったんだ…… ノアルは今後、どうするつもりなの?)
 
(……少しだけ休んで、体力と魔力が回復したら戻る。 ……お父さんやお母さん、村のみんながどうなっているのか気になる)
 
(そっか、じゃあ早く服買わないとね。 人の姿にならないと魔力回復しないんでしょ?)
 
(……ショーマしかいなかったら服着なくていいのに)
 
(……僕だけだとしても服は着てください)
 

 そんなやり取りをしていたらフーリヤさんの店に着いた。
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