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第二章 新たな出会い

#15 黒猫と魔物

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 僕は今、この世界に降り立った時にいた森に来ている。 
 
 何故ここかというと、先ほど作った短剣に付与をするためだ。
 
 武器に付与をしようとすると、槌で金属を叩くのでどうしても音が出て、目立ってしまう。 

 なので、宿の部屋などで行う訳にはいかなかったのだ。

 それに、この森の街道付近は魔物除けのアイテムが効いているため、魔物も近寄ってこないらしい。 

 たまに近寄ってくる魔物もいるそうだが、冒険者などにその都度倒されているとゲイルさんに聞いた。
 

(さて、やりますか)
 

 ゲイルさんに贈るダガーもそうだが、僕が使うロングソードも強化しておこう。  

 まずはダガーからだな。
 

(付与する魔法は何がいいかな)
 

 耐久値上昇を付与する事は確定しているのだが、後の二つをどうしようか悩む。
 
 ダガーなどの短剣の類の攻撃方法は刺突か斬撃かになると思うが、ゲイルさんはどっち主体なんだろうか? 

 聞いておけばよかったな。

 何を付与するか悩み、付与できる魔法の一覧をぼーっと眺めていると、刺突強化の付与を見つけた。
 
 ……この際、どちらも付ければいいか?

 攻撃力が上がる付与と言っていたし、いいんじゃないだろうか。

 下手に試した事のない付与するよりは分かるものを付与した方がいいだろう。 

 恐らく刺突強化は斬撃強化と似たようなものだろうから。
 

(よし、この3つでいこう)
 

 ダガーを置き、付与の槌をアイテムボックス取り出して、付与する魔法をイメージしながら魔力を流す。

 魔力は使い過ぎると良くないそうだが、朝に合成、分離のスキルを使った時にMPを100程消費しても市場に行ったりしている間に回復していた。 

 この自動回復力があれば武器作りには困らないだろう。

 なので、惜しみなく魔力を流す。

 3つの付与だからか、この前よりも魔力を多く必要とするみたいで、MPが200程減ったところで、槌の打撃面に魔法陣が浮かび上がった。

 そして、ダガーに向かって槌を振り下ろす。
 

 キィン……! キィン……!
 

 10回程叩いた所で魔法陣の色が変わった。 

 そのまま最後の一振りを振り下ろす。
 

 キィィィン……!
 

 ダガーに幾何学模様が刻まれ、数秒かけてその模様が沈み込んでいく。

 
(……うん、いい感じだ)
 

 鑑定してみても、しっかりと耐久値上昇、斬撃強化、刺突強化が付与されているのが確認できた。
 
 これならゲイルさんに渡しても良さそうな気がする。

 喜んでくれるかは分からないが、今僕が作れる中では最高のものが出来た。

 ダガーを作り終えたので、今度は僕のロングソードを作り直す作業に入る。

 朝やったように分離と合成のスキルを使って、作った2本のロングソードを1本の出来のいいロングソードにすることにした。

 なので、アイテムボックスから2本のロングソードを取り出し、再びスキルを使っていく。

 ダガーの時と同じように、剣から必要な物質だけを分離させインゴットにし、出来上がった二つのインゴットを今度は一つに合成する。
 
 最後に、そのそれなりに大きくなったインゴットを、鉱物操作を使いロングソードの形にしていくと、
 
 
【ロングソード+3(斬撃強化+耐久値上昇)】:
 力+140 
 鋼を使って作られたロングソード。 
 作成者の力量により、効果を3つ付与することが出来る。 
 品質もかなり良いため、一般的なロングソードより力のパラメーターの上昇率が高い。 
 作成者はショーマ=ケンモチ。


 +2と+3の剣を合成したからどうなるかと思ったが、出来たのは+3のロングソードだった。 

 うーん、法則がよく分からないな。 

 運の可能性もあるので気にするだけ無駄かもしれないが。

 それよりも、スキルを使う一連の流れもかなりスムーズになってきた。 

 今後もこれらのスキルは頻繁に使うと思うし、スピードが上がる分には困る事はないだろう。

 けれども、なんでスピードが上がったんだろう? 

 慣れただけかもしれないが、それにしてははっきりと自覚出来ている。 

 そこでなんとなく、ステータス画面を開いてみた。

 鍛冶師の詳細にスピードが上がった原因とかが書いているかもしれないと思ったので。

 そう思ってステータスを見てみたところ、
 

(レベルが上がってる?)
 

  ショーマ=ケンモチ  Lv3   男 17歳

  種族:ヒト種

  職業:鍛冶師 Lv3 魔導師 Lv3
               ウェポンマスター Lv3

  スキル:言語知識 Lv10
      家事 Lv8
      運命神の加護(隠蔽) Lv10
      

  HP:1802
      MP:1446
      力:361
      速:118
      技:602
      守:178
      魔:361
      運:1000

      スキルポイント:10


 なぜかレベルが2つも上がっていた。
 
 原因はスキルを使った事だろうか? 

 スキルを使うとレベルが上がるものだとしても、こんなに早くレベル上がるものなんだな。
 
 まぁ、まだレベルが低いから、少しスキルを使っただけで経験値がたまったのかもしれないが。
 

(スキルポイントか…… 何に使うべきかな?)
 

 レベルが上がった事でスキルポイントを得ることが出来たが、何も考えていなかったし、取得できるスキルというのも後回しにしていてまだしっかりとは見ていない。 

 とりあえず、その確認からするか。
 

(取得できるスキルの一覧は…… っと、これか。 これまためちゃくちゃ多いな)
 

 ステータスでスキルポイントで取得できるスキルの一覧を開いてみたが、付与の数の比にならないくらい多い。
 
 一応、戦闘系スキルとか、便利系スキルといったように、カテゴリーには分かれているのが救いだな。
 

(初めてだし、何か取ってみようかな)
 

 物は試しと言うし、何か取ってみることにする。 

 この調子だと、またすぐレベルは上がるだろうから、貯めていてもしょうがないだろう。

 そう思い、なにか便利なスキルはないかと一覧を眺めていく。

 戦闘系のスキルは今はいらないし、なにか補助的なスキルを取るつもりだ。

 それから10分程探してみて、面白そうなスキルがいくつかあった。 

 けれど、今回は一つだけ取ってレベルを4まで上げることにする。 

 あまり低いレベルだと、持っていても意味がなさそうなので。

 それから少し考え、1番取りたいと思ったスキルをタップして調べてみる。


【気配探知】:
 一定範囲の気配を探知することができる。
 探知する対象は指定可能。
 レベルが上がると、スキルの有効範囲が向上する。 
 隠形系統のスキル持ちには効果が薄い。
 発動は任意で切り替えることが出来る。
 
※このスキルを取りますか?→消費スキルポイント1


 なぜこのスキルを取ろうと思ったかというと、やはり慎重に行きたいという僕のスタンスからだ。
 
 昨日、ゲイルさんに会った時に、全く人が近づいている事に気付けなかったのを、このスキルを見つけた時に思い出した。 

 あれがもし、ゲイルさんではなく魔物や悪い人だったらと思うと怖くなったので、対策をすることにしたのだ。

 早速スキルポイントを払い、レベル1の気配察知を取得する。 

 そのまま、2ポイント、3ポイント、4ポイントをそれぞれ払い、気配察知のレベルを4まで上げた。 


 ショーマ=ケンモチ  Lv3   男 17歳

  種族:ヒト種

  職業:鍛冶師 Lv3 魔導師 Lv3
               ウェポンマスター Lv3

  スキル:言語知識 Lv10
      家事 Lv8
      運命神の加護(隠蔽) Lv10
      気配察知 Lv4

  HP:1815
      MP:1452
      力:363
      速:121
      技:605
      守:181
      魔:363
      運:1210

      スキルポイント:0


 うん、ちゃんとステータスにも表示されてるな。 

 まだ発動はしていないみたいだけど。

 せっかく取ったし、発動もしてみよう。 

 この辺りには基本、魔物は出ないらしいが。

 少し集中し、スキルを発動する。 

 すると、自分を中心に半径100mくらいの範囲の中の生物の気配を感じることができた。 

 主に鳥が中心で、それなりのサイズの虫の気配も感じることが出来た。 

 ただ、数が多すぎて少し気になったので、自分の頭より小さな生物は除くように気配察知に集中すると、小さな生物の気配を感じる事は無くなった。 

 うん、虫の気配はちょっと数が多くて気持ち悪かったから、対象を指定できるのは助かるな。
 

(ん? なんだこの気配……?)
 

 と、スキルを試していると突然、気配察知のスキルに複数の気配が現れた。 

 しかし気になるのは、複数の気配の一番前の反応がやけに小さい事と、その後ろの数個の気配がなにやら危ない気配をしている。
 

(これは…… 追われてるのか……!?)
 

 かなりのスピードで移動していて、もう直ぐ僕の近くにこの気配の群れが到着しそうだ。 

 どうする……?

 悩んでいると、先頭の気配が一つの気配に追いつかれた。 

 一瞬、その気配が重なったと同時に、弱っていた気配が僕の方にものすごいスピードで迫ってきた。

 さっき作ったロングソードを持ち、警戒するが、小さな気配は動きを止めていた。
 

(……この気配の弱まり方はまずいかもしれない)
 

 このまま放っておくと、弱った気配の主は手遅れになってしまうかもしれない。 

 そう思うと、体が勝手にその気配の元へと全速力で動き出す。

 茂みをかき分け進むと、少し広めのスペースに出た。 

 そのスペースを囲むように生えている木の一本の根本に、体中ボロボロでぐったりしている黒猫がいた。 

 サイズは大人の猫と子供の猫の間くらいで、全身真っ黒の毛で覆われているが、所々赤黒く染まっている。 

 これは、早く治さないと手遅れになる……!

 処置をしようと慌てて近寄ると、黒猫は薄く目を開けてこちらを認識した。
 

「フーッ フーッ」
 

 どうやら、こちらを警戒しているみたいだ。 

 ただ、体に力が入らないのか、動けないでいる。
 

「大丈夫、安心して? 痛い事はしない。 ただ君を助けたいんだ」
 

 そう言って、怖がらせないようゆっくりと頭に触れようとする。

 すると、頭を少し上げ、近づいてきた僕の手の指目掛けて噛み付いてきた。
 
 
「いてて……」
 

 避ける事も出来たが、敢えてここは大人しく噛まれておく。

 弱っていて力が入らないようで、そこまで痛いわけでもなかったので。
 
 噛まれた右手はそのままにして、左手で黒猫の頭に触れ、魔法を唱える。
 

「『メガヒール』」
 

 恐らく、この怪我だとこの前使ったヒールじゃ足りないと思い、それよりも効果が高いメガヒールを使ってみた。

 すると、黒猫の体がヒールよりも強い緑色の光に包まれる。 

 同時に、所々についていた傷が消えていく。

 黒猫は驚いたのか、僕の指から口を離し、治っていく傷を眺めていた。

 その後、数秒で傷は全部消えたみたいだ。 

 回復魔法は体力までは回復させられないので、まだ動けないようだが。
 

「うん、治ったみたいだね。 よかった」
 

 そう言って黒猫の頭を優しく撫でてみると、少しビクッとされたが今度は噛まれなかった。
 

「「「グルルルルッ…」」」
 

 と、安心したのも束の間、複数の唸り声が聞こえてきた。 

 気配察知のスキルを展開していたから、近くで様子を伺っているのは気付いていたが、正体はこいつらか。

 木の間から姿を現したのは、4匹の青色の狼。 

 ただ、地球にいるような狼では断じてなく、一目見るだけでも凶暴さが見てとれる。 

 こいつらに黒猫は襲われていたのか。

 そうか、これが…… 魔物か。 

 ここは森の道に比較的近いから本来この辺りに魔物はいないはずなんだけど、黒猫という獲物を見つけてここまで辿り着いたということか?

 黒猫を撫でていた手を離し、立ち上がる。 

 同じように黒猫も立ち上がろうとしたが、
 

「無理はしないで。 大丈夫、君のことは必ず守るからそこでじっとしていて?」
 

 と言ったところ、黒猫は立ち上がるのをやめた。 

 それと同時に、体力の限界が来たのかそのまま目を閉じて眠ってしまった。

 僕はロングソードを持ち、構えをとる。 

 狼たちは一定の間隔を開けながらゆっくりと近づいてくる。

 1匹ならなんとでもなるが、4匹に連携されると少し厳しいかもしれない。 

 それに、高威力の魔法を使うと僕もそうだし、黒猫も巻き込んでしまうかもしれない。

 なので、まずは分断することにする。
 

「『ロックウォール』」
 

 土魔法の中の、壁を作り出す魔法を唱えた。

 高さが僕の身長以上ある四角形の土壁が狼のうち2匹を囲む。

 これで、分断は出来た。 

 残された2匹が魔法に驚いているうちに、僕は地を蹴り、狼たちに急接近する。 

 そのままの勢いで1匹の狼に向かって剣を振るう。

 肉や骨を裂く感触が剣を通して伝わってきた。 

 ウェポンマスターのスキルのおかげか、ほとんど抵抗無く1匹の狼は首を切り落とされ、絶命した。
 

「グルァァ!」
 

 もう1匹の狼が動きを止めた僕目掛けて、牙を剥き出しにしながら突進してくる。
 
 ……こいつらには、仲間が斬られた事に関する動揺とかは無いのか。 

 魔物っていうのは皆そういうものなのだろうか? 

 昨日ゲイルさんとか、ギルドとかに聞いておけば良かったな。

 そういえば、初めての戦闘なのにやけに視界はハッキリしてるし、思考は落ち着いている。 

 これは、戦闘職を持っている影響なのだろうか? 

 狼の牙を横にステップしてかわす、と同時に狼の体をロングソードで深く切りつけた。

 狼はそのままの勢いで地面に突っ込み、行動を停止した。

 狼はあと2匹残っている。 まだまだ気を抜けない。
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