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第二章 新たな出会い
#14 異世界2日目
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朝の日差しが窓から入ってきて部屋の中を照らす。
その光を感じて僕は目を覚ました。
実にいい寝起きである。
(ん~~、ぐっすり眠れたな)
ゆっくりと体を起こし、背中を伸ばす。
体感では7時間から8時間くらいは寝ていただろうか。
この世界は地球みたいに照明や街灯が発達していなくて、基本的に用がない限り寝るのは早いようだ。
酒場や昨日行った領主邸などには魔力で動く魔法灯(マジックランプ)があるらしいが、値段がそれなりにするため、庶民の家などにはリビングに一つ付いているかいないかな事が多い。
この宿には入り口と食堂に一つずつ付いているが、各部屋には付いておらず、灯りが必要な場合は蝋燭で光を確保するという形になっている。
(結構早い時間に起きちゃったな)
流石にまだ食事の準備は出来ていないだろうし、何か暇を潰す事がないか寝起きの頭で考えてみる。
(鍛冶師のスキルの練習でもしようかな)
そう思い立ち、昨日クラウスさん達の前で作った短剣を取り出す。
これをゲイルさんに渡す予定だが、せっかくなので少し手を加えたい。
ただの鉄のダガーというのも味気ないので。
(付与は音が出るから後でするとして、何か出来ることはないかな……?)
何かできないかと思い、スキル欄を眺めていると、一ついいことを思いついた。
(合成と分離か…… これはまだ試してなかったな)
そう、鍛冶師のスキルである合成と分離のスキル。
このスキルを使って、鉄鉱石を加工できないかと思った。
具体的に言うと、鉄鉱石の中の武器作りに必要のない部分だけを分離させることが出来るんじゃないかということだ。
本来、武器作りに使う鉄は、余分な物質を極力取り除く作業を行ってから使うものである。
刀匠の息子だった事もあってその辺りの基礎的な知識は持っている。
が、めちゃくちゃ詳しく知っているわけではないので、とりあえず試してみることにした。
(余った鉄鉱石で試してみるか)
そう思い、アイテムボックスから鉄鉱石を取り出し、机に置いた。
そのまま手を置き、頭の中で武器作りに不必要な物質を取り除くことを念じ、魔力を流してみた。
すると鉄鉱石が少し光ったと同時に二つに分かれ、どちらも金の延棒みたいな形になった。
確かインゴットと言うんだっけ?
片方は黒っぽいくすんだ色のインゴットになり、もう片方は少し光沢のある銀と黒の間みたいなものになった。
綺麗な方を鑑定してみると、
【鉄のインゴット】:
鉄鉱石の無駄な物質を取り除き、インゴット化したもの。
硬度にとても優れており、武器を作る上では最適。
「出来ちゃった……」
まさかこんな大雑把なイメージで成功するとは。
相変わらず不思議過ぎる力だと思う。
まぁ、なんにせよ想像通りに出来たので良しとする。
もう、スキルに関しては原理を考えるのはやめた。
科学などでは説明出来ないだろうし、恐らく考えるだけ無駄だろうから。
「でも、ちょっと小さいかなー?」
無駄な部分を取り除いたからか、元の鉄鉱石のサイズよりかなり小さくなってしまった。
そこで、昨日作ったダガーに分離のスキルを使ってインゴットに戻せばいいんじゃないかという考えが新たに生まれた。
さっきの感触だと、ある程度イメージすれば望むような形になるからこれもいけるんじゃないかと思う。
よし、やってみよう。
「分離」
スキルを唱え、ダガーから武器作りにいらない物質を取り除くイメージをする。
すると、短剣が光りだし、一瞬で二つに分かれる。
うん、さっきと同じように出来たな。
二つのほぼ大きさの同じ鉄のインゴットが出来たところで、今度はこの二つを合成し、一つにする。
そうすれば短剣を作れるくらいのサイズにはなるはずだ。
「よし、合成」
二つのインゴットに魔力を流しスキルを発動させる。
分離の時とは違って一瞬では終わらず、二つのインゴットが重なり合い、少しずつ形が一つのインゴットに固まっていく。
10秒程変化を続け、光が収まると、そこには体積がほとんど2倍近くになったインゴットが一つ置かれていた。
(うん、このサイズなら短剣を作れそうだ)
早速、その素材を使ってダガーを作ってみる。
もう何回か鉱物操作のスキルを使ったからか、大分この作業にも慣れてきた。
短剣を作る作業は1分とかからず終了し、完成品を見てみる。
「おぉ…… 全然仕上がりが違うな」
そうして作ってみた短剣を眺めてみると、見た目だけでもかなり変化があった。
昨日作ったロングソードやダガーはどこか刀身が黒ずんでいたりしていたが、今作ったダガーは鉄のインゴットの色そのままで、全体的に美しい銀色をしており、ちゃんと一体化するような形で柄も作られていた。
今回の検証で、素材を変えるだけでここまで差が出ることを当たり前なのだが実感出来た。
そして、気になる鑑定結果と言うと、
【ダガー+3】:
力+95
鉄鉱石から生まれた鋼で出来た短剣。
無駄な物質を取り除いた一級品の鉄で作られた。
素材の良さと作者の力量により力のパラメーター上昇率が他の一般的なダガーよりも高い。
作成者はショーマ=ケンモチ。
……すごいな。
力の上昇率が最初に僕が作ったロングソードに届きそうだ。
ここまで素材一つで差が出るのか。
ゲイルさんには感謝してるし、良いものをあげたいと思っていたので、今回の検証は大成功と言えるだろう。
昨日見せてもらったゲイルさんの短剣もかなりの業物みたいだったし、これでも満足は出来ないかもしれないけど、今作れるものでは一番良いものが出来たんじゃないだろうか。
コンコンッ
一仕事終えたことに満足していると、ドアがノックされた。
「ショーマお兄ちゃーん? 起きてますかー? 朝ごはんが用意できましたよー」
この声はミラルちゃんか。
朝食が出来たことをわざわざ伝えにきてくれたらしい。
身だしなみを手早く整え、ドアを開ける。
「おはよう、ミラルちゃん」
「おはようございます!」
朝から元気だな、ミラルちゃん。
「わざわざ起こしに来てくれてありがとね」
「いえいえ! 朝食が出来たことはお客さん全員に伝えることにしているんです! 食べ損ねてしまうのはもったいないので!」
「そうなんだ、早起きしてまでお手伝いして偉いね」
そう言ってミラルちゃんの頭を撫でる。
「はわわ…… い、いいんです、これがミラルの出来ることなのです……」
若干照れた様子でミラルちゃんはそう言う。
「じゃ、じゃあミラルはまだお手伝いするので! 食堂に行けばご飯は出てくるので座って待っていてください!」
「分かったよ。 気をつけてね」
「はーい!」と言いながらミラルちゃんは廊下を抜け、階段を降りていった。
その後をゆっくりと追いかけるように食堂へ向かう。
食堂に入ると、既に何人かの宿泊客が食事をしていて、その中にゲイルさんもいた。
「おはようございます、ゲイルさん」
「おう、おはようショーマ。 俺も今来たところだ」
ゲイルさんに挨拶をし、向かいの席に座る。
「ショーマは今日どうするつもりなんだ? 俺は飯食ったらギルドに行くつもりだが」
「そうですね…… 昼過ぎには僕もギルドに行くので、それまでは街を歩いたり、色々してみようかと思います。 なにか欲しいものがあったら買うのもいいかと思うので」
「そうか、まぁ、ショーマは強いし、一人でもなんとでもなるだろうから大丈夫だな!」
「買い被りすぎですよ…… 僕なんてまだまだです」
「そうかぁ? まぁ、この街は平和だからそこまでトラブルとかはないだろうが、一応気を付けろよ?」
「分かりました、気を付けておきます」
「おう! それじゃあ、俺は先に行くぜ」
「はい、ゲイルさんもお気をつけて」
「おうよ」
ゲイルさんはそう言って席を立ち、食堂を出ていった。
少し急いでるみたいだし、クラウスさん達と待ち合わせでもしてるのかな?
同じパーティーだし。
ゲイルさんを見送った後は、しっかりと美味しい朝ごはんを堪能させてもらった。
さて、僕もそろそろ行くことにしよう。
食べ終わった食器を下げてくれたミラルちゃんにお礼を言って食堂を出る。
そして、そのまま受付にいたミルドさんに鍵を預け、夕食までには帰ってくることを告げた。
「気を付けて行ってこいよー」
「はい、ありがとうございます。 行ってきますね」
宿を出て大きな通りに出るため少し歩くと、冒険者っぽい人達を何人か見かけた。
(冒険者の人は朝早いんだな)
そんな事を考えながら歩いていると、大通りに出ることが出来た。
大通りの店は空いているところもあれば、まだ閉まっている店もある。
そこを少し歩いていると、少し離れたところでなにやら喧騒が聞こえてきた。
どうやら隣の通りからみたいだ。
気になって足を向けてみると、そこは市場になっていた。
大通り程ではないが、広めの通りに所狭しと出店が並んでいる。
すごいな。
食材を売っていたり、工芸品を売っていたり、売られているものはバラバラだったが、どの店もとても活気がいい。
ふと気になって野菜を売っている店を見てみると、見覚えのある食材が沢山売られていた。
トマトにピーマン、キャベツ、キュウリなどなど、地球と同じような食材ばかりだった。
違う点を挙げるとするならば、やたらとカラフルなものがあるところだろうか。
白いトマトや黒いピーマン、赤いキャベツに黄色いキュウリなど、実にカラフルだった。
普通の色のものも、もちろんあるが。
「どんな味なんだろう……?」
今はお金に余裕がある訳ではないので買うことは出来ないが、いずれ自分で買って料理をしてみたいな。
地球では父さんといた時も一人で暮らしていた時も食事は自分で作っていたからな。
今度、お金に余裕があったら買ってみよう。
「ん? あの店は……」
通りの終わりに差し掛かった頃に気になる店があった。
「お! いらっしゃい兄ちゃん! なんか欲しいもんあるかい?」
「ここは、鉱石屋ですか?」
「ああ、そうだぜ! 色んなところで取れた鉱石を売ってんだ! 値段もお手頃だぞ?」
そう、鉱石を売っている店があった。
中には鉄鉱石はもちろん、見たこともないような鉱石が沢山あった。
「この赤い鉱石はなんですか?」
「おう、それは魔熱石って言って魔力を流すと高熱を出す鉱石だな。 武器職人が鉄を溶かしたりする時に使ったりするぜ」
おぉ、異世界鉱石だ。
地球では見たこともない性質がある物も沢山あるんだな。
ちょっと欲しいが、お財布が心許ない。
「すいません、普通の鉄鉱石って売ってないですか?」
「もちろんあるぞ。 買うかい?」
そう言って見せてもらった鉄鉱石は僕が持っていたものと大差ない物だった。
ただ、一つ銀貨一枚する。
僕の所持金は昨日宿代でそこそこの量を払ったから、あまり無駄遣いはしたくない。
「兄ちゃん手持ちが無いのかい?」
「そうなんです。 まだこちらの方に来たばかりなのであまり使いたくも…… ん? その奥の樽に入った物はなんですか?」
断ろうとした僕の目に、赤くなった鉱石が目に入った。
あれは僕の記憶が正しければ……
「ああ、あれはかなり酸化しちまった鉄鉱石で買い手が付かないんだよ。 上の方は辛うじて固形だか、下の方はもう砂みたいになっちまって使い道がないんだ」
やっぱり、そうか。
理科の教科書とかで出てきたのを偶然覚えていた。
「それ、もらえませんか?」
「ん? これをか? 構わねぇが、これを欲しがるなんて兄ちゃん変わってんなぁ」
確かに、あまり需要はないのかもしれないが、僕のスキルを使えば恐らく有用な物に変えることが出来るだろう。
「いいんですよ。 それで、いくらですか?」
「処分しようと思ってたから代金はいいぜ。 処分代が浮くから、むしろ貰ってくれてありがたいくらいだ」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「だが、どうやって運ぶんだ? かなり重いぞ?」
「あ、それは大丈夫です」
なにが大丈夫なのか分からない店主が首をひねる中、僕は収納魔法を発動する。
発動先は樽のすぐ下だ。
すると、樽は地面に吸い込まれるようにして消えた。
その光景を見ていた店主が驚きに目を見開き、こちらを見てくる。
「兄ちゃん、なにしたんだ?」
「僕、収納魔法が使えるんです」
「はぁー、珍しい魔法持ってるんだな! 商人からすると喉から手が出るほど欲しい魔法だぜ?」
「確かに便利ですね」
「まぁ、何はともあれ、ありがとな! よくこの辺に店出してるからまた来てくれよ!」
「はい、見かけたらまた来させてもらいます」
店主に別れを告げ、市場を抜ける。
思わぬ収穫もあったし、来てよかったな。
昼まではまだまだ時間あるし、ゲイルさんの短剣作りの続きをすることにしよう。
その光を感じて僕は目を覚ました。
実にいい寝起きである。
(ん~~、ぐっすり眠れたな)
ゆっくりと体を起こし、背中を伸ばす。
体感では7時間から8時間くらいは寝ていただろうか。
この世界は地球みたいに照明や街灯が発達していなくて、基本的に用がない限り寝るのは早いようだ。
酒場や昨日行った領主邸などには魔力で動く魔法灯(マジックランプ)があるらしいが、値段がそれなりにするため、庶民の家などにはリビングに一つ付いているかいないかな事が多い。
この宿には入り口と食堂に一つずつ付いているが、各部屋には付いておらず、灯りが必要な場合は蝋燭で光を確保するという形になっている。
(結構早い時間に起きちゃったな)
流石にまだ食事の準備は出来ていないだろうし、何か暇を潰す事がないか寝起きの頭で考えてみる。
(鍛冶師のスキルの練習でもしようかな)
そう思い立ち、昨日クラウスさん達の前で作った短剣を取り出す。
これをゲイルさんに渡す予定だが、せっかくなので少し手を加えたい。
ただの鉄のダガーというのも味気ないので。
(付与は音が出るから後でするとして、何か出来ることはないかな……?)
何かできないかと思い、スキル欄を眺めていると、一ついいことを思いついた。
(合成と分離か…… これはまだ試してなかったな)
そう、鍛冶師のスキルである合成と分離のスキル。
このスキルを使って、鉄鉱石を加工できないかと思った。
具体的に言うと、鉄鉱石の中の武器作りに必要のない部分だけを分離させることが出来るんじゃないかということだ。
本来、武器作りに使う鉄は、余分な物質を極力取り除く作業を行ってから使うものである。
刀匠の息子だった事もあってその辺りの基礎的な知識は持っている。
が、めちゃくちゃ詳しく知っているわけではないので、とりあえず試してみることにした。
(余った鉄鉱石で試してみるか)
そう思い、アイテムボックスから鉄鉱石を取り出し、机に置いた。
そのまま手を置き、頭の中で武器作りに不必要な物質を取り除くことを念じ、魔力を流してみた。
すると鉄鉱石が少し光ったと同時に二つに分かれ、どちらも金の延棒みたいな形になった。
確かインゴットと言うんだっけ?
片方は黒っぽいくすんだ色のインゴットになり、もう片方は少し光沢のある銀と黒の間みたいなものになった。
綺麗な方を鑑定してみると、
【鉄のインゴット】:
鉄鉱石の無駄な物質を取り除き、インゴット化したもの。
硬度にとても優れており、武器を作る上では最適。
「出来ちゃった……」
まさかこんな大雑把なイメージで成功するとは。
相変わらず不思議過ぎる力だと思う。
まぁ、なんにせよ想像通りに出来たので良しとする。
もう、スキルに関しては原理を考えるのはやめた。
科学などでは説明出来ないだろうし、恐らく考えるだけ無駄だろうから。
「でも、ちょっと小さいかなー?」
無駄な部分を取り除いたからか、元の鉄鉱石のサイズよりかなり小さくなってしまった。
そこで、昨日作ったダガーに分離のスキルを使ってインゴットに戻せばいいんじゃないかという考えが新たに生まれた。
さっきの感触だと、ある程度イメージすれば望むような形になるからこれもいけるんじゃないかと思う。
よし、やってみよう。
「分離」
スキルを唱え、ダガーから武器作りにいらない物質を取り除くイメージをする。
すると、短剣が光りだし、一瞬で二つに分かれる。
うん、さっきと同じように出来たな。
二つのほぼ大きさの同じ鉄のインゴットが出来たところで、今度はこの二つを合成し、一つにする。
そうすれば短剣を作れるくらいのサイズにはなるはずだ。
「よし、合成」
二つのインゴットに魔力を流しスキルを発動させる。
分離の時とは違って一瞬では終わらず、二つのインゴットが重なり合い、少しずつ形が一つのインゴットに固まっていく。
10秒程変化を続け、光が収まると、そこには体積がほとんど2倍近くになったインゴットが一つ置かれていた。
(うん、このサイズなら短剣を作れそうだ)
早速、その素材を使ってダガーを作ってみる。
もう何回か鉱物操作のスキルを使ったからか、大分この作業にも慣れてきた。
短剣を作る作業は1分とかからず終了し、完成品を見てみる。
「おぉ…… 全然仕上がりが違うな」
そうして作ってみた短剣を眺めてみると、見た目だけでもかなり変化があった。
昨日作ったロングソードやダガーはどこか刀身が黒ずんでいたりしていたが、今作ったダガーは鉄のインゴットの色そのままで、全体的に美しい銀色をしており、ちゃんと一体化するような形で柄も作られていた。
今回の検証で、素材を変えるだけでここまで差が出ることを当たり前なのだが実感出来た。
そして、気になる鑑定結果と言うと、
【ダガー+3】:
力+95
鉄鉱石から生まれた鋼で出来た短剣。
無駄な物質を取り除いた一級品の鉄で作られた。
素材の良さと作者の力量により力のパラメーター上昇率が他の一般的なダガーよりも高い。
作成者はショーマ=ケンモチ。
……すごいな。
力の上昇率が最初に僕が作ったロングソードに届きそうだ。
ここまで素材一つで差が出るのか。
ゲイルさんには感謝してるし、良いものをあげたいと思っていたので、今回の検証は大成功と言えるだろう。
昨日見せてもらったゲイルさんの短剣もかなりの業物みたいだったし、これでも満足は出来ないかもしれないけど、今作れるものでは一番良いものが出来たんじゃないだろうか。
コンコンッ
一仕事終えたことに満足していると、ドアがノックされた。
「ショーマお兄ちゃーん? 起きてますかー? 朝ごはんが用意できましたよー」
この声はミラルちゃんか。
朝食が出来たことをわざわざ伝えにきてくれたらしい。
身だしなみを手早く整え、ドアを開ける。
「おはよう、ミラルちゃん」
「おはようございます!」
朝から元気だな、ミラルちゃん。
「わざわざ起こしに来てくれてありがとね」
「いえいえ! 朝食が出来たことはお客さん全員に伝えることにしているんです! 食べ損ねてしまうのはもったいないので!」
「そうなんだ、早起きしてまでお手伝いして偉いね」
そう言ってミラルちゃんの頭を撫でる。
「はわわ…… い、いいんです、これがミラルの出来ることなのです……」
若干照れた様子でミラルちゃんはそう言う。
「じゃ、じゃあミラルはまだお手伝いするので! 食堂に行けばご飯は出てくるので座って待っていてください!」
「分かったよ。 気をつけてね」
「はーい!」と言いながらミラルちゃんは廊下を抜け、階段を降りていった。
その後をゆっくりと追いかけるように食堂へ向かう。
食堂に入ると、既に何人かの宿泊客が食事をしていて、その中にゲイルさんもいた。
「おはようございます、ゲイルさん」
「おう、おはようショーマ。 俺も今来たところだ」
ゲイルさんに挨拶をし、向かいの席に座る。
「ショーマは今日どうするつもりなんだ? 俺は飯食ったらギルドに行くつもりだが」
「そうですね…… 昼過ぎには僕もギルドに行くので、それまでは街を歩いたり、色々してみようかと思います。 なにか欲しいものがあったら買うのもいいかと思うので」
「そうか、まぁ、ショーマは強いし、一人でもなんとでもなるだろうから大丈夫だな!」
「買い被りすぎですよ…… 僕なんてまだまだです」
「そうかぁ? まぁ、この街は平和だからそこまでトラブルとかはないだろうが、一応気を付けろよ?」
「分かりました、気を付けておきます」
「おう! それじゃあ、俺は先に行くぜ」
「はい、ゲイルさんもお気をつけて」
「おうよ」
ゲイルさんはそう言って席を立ち、食堂を出ていった。
少し急いでるみたいだし、クラウスさん達と待ち合わせでもしてるのかな?
同じパーティーだし。
ゲイルさんを見送った後は、しっかりと美味しい朝ごはんを堪能させてもらった。
さて、僕もそろそろ行くことにしよう。
食べ終わった食器を下げてくれたミラルちゃんにお礼を言って食堂を出る。
そして、そのまま受付にいたミルドさんに鍵を預け、夕食までには帰ってくることを告げた。
「気を付けて行ってこいよー」
「はい、ありがとうございます。 行ってきますね」
宿を出て大きな通りに出るため少し歩くと、冒険者っぽい人達を何人か見かけた。
(冒険者の人は朝早いんだな)
そんな事を考えながら歩いていると、大通りに出ることが出来た。
大通りの店は空いているところもあれば、まだ閉まっている店もある。
そこを少し歩いていると、少し離れたところでなにやら喧騒が聞こえてきた。
どうやら隣の通りからみたいだ。
気になって足を向けてみると、そこは市場になっていた。
大通り程ではないが、広めの通りに所狭しと出店が並んでいる。
すごいな。
食材を売っていたり、工芸品を売っていたり、売られているものはバラバラだったが、どの店もとても活気がいい。
ふと気になって野菜を売っている店を見てみると、見覚えのある食材が沢山売られていた。
トマトにピーマン、キャベツ、キュウリなどなど、地球と同じような食材ばかりだった。
違う点を挙げるとするならば、やたらとカラフルなものがあるところだろうか。
白いトマトや黒いピーマン、赤いキャベツに黄色いキュウリなど、実にカラフルだった。
普通の色のものも、もちろんあるが。
「どんな味なんだろう……?」
今はお金に余裕がある訳ではないので買うことは出来ないが、いずれ自分で買って料理をしてみたいな。
地球では父さんといた時も一人で暮らしていた時も食事は自分で作っていたからな。
今度、お金に余裕があったら買ってみよう。
「ん? あの店は……」
通りの終わりに差し掛かった頃に気になる店があった。
「お! いらっしゃい兄ちゃん! なんか欲しいもんあるかい?」
「ここは、鉱石屋ですか?」
「ああ、そうだぜ! 色んなところで取れた鉱石を売ってんだ! 値段もお手頃だぞ?」
そう、鉱石を売っている店があった。
中には鉄鉱石はもちろん、見たこともないような鉱石が沢山あった。
「この赤い鉱石はなんですか?」
「おう、それは魔熱石って言って魔力を流すと高熱を出す鉱石だな。 武器職人が鉄を溶かしたりする時に使ったりするぜ」
おぉ、異世界鉱石だ。
地球では見たこともない性質がある物も沢山あるんだな。
ちょっと欲しいが、お財布が心許ない。
「すいません、普通の鉄鉱石って売ってないですか?」
「もちろんあるぞ。 買うかい?」
そう言って見せてもらった鉄鉱石は僕が持っていたものと大差ない物だった。
ただ、一つ銀貨一枚する。
僕の所持金は昨日宿代でそこそこの量を払ったから、あまり無駄遣いはしたくない。
「兄ちゃん手持ちが無いのかい?」
「そうなんです。 まだこちらの方に来たばかりなのであまり使いたくも…… ん? その奥の樽に入った物はなんですか?」
断ろうとした僕の目に、赤くなった鉱石が目に入った。
あれは僕の記憶が正しければ……
「ああ、あれはかなり酸化しちまった鉄鉱石で買い手が付かないんだよ。 上の方は辛うじて固形だか、下の方はもう砂みたいになっちまって使い道がないんだ」
やっぱり、そうか。
理科の教科書とかで出てきたのを偶然覚えていた。
「それ、もらえませんか?」
「ん? これをか? 構わねぇが、これを欲しがるなんて兄ちゃん変わってんなぁ」
確かに、あまり需要はないのかもしれないが、僕のスキルを使えば恐らく有用な物に変えることが出来るだろう。
「いいんですよ。 それで、いくらですか?」
「処分しようと思ってたから代金はいいぜ。 処分代が浮くから、むしろ貰ってくれてありがたいくらいだ」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「だが、どうやって運ぶんだ? かなり重いぞ?」
「あ、それは大丈夫です」
なにが大丈夫なのか分からない店主が首をひねる中、僕は収納魔法を発動する。
発動先は樽のすぐ下だ。
すると、樽は地面に吸い込まれるようにして消えた。
その光景を見ていた店主が驚きに目を見開き、こちらを見てくる。
「兄ちゃん、なにしたんだ?」
「僕、収納魔法が使えるんです」
「はぁー、珍しい魔法持ってるんだな! 商人からすると喉から手が出るほど欲しい魔法だぜ?」
「確かに便利ですね」
「まぁ、何はともあれ、ありがとな! よくこの辺に店出してるからまた来てくれよ!」
「はい、見かけたらまた来させてもらいます」
店主に別れを告げ、市場を抜ける。
思わぬ収穫もあったし、来てよかったな。
昼まではまだまだ時間あるし、ゲイルさんの短剣作りの続きをすることにしよう。
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青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
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