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第一章 異世界への旅立ち

#10 疑いと相談

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「もういいのか?」
 

 武器屋を出ると、クラウスさんとミリーさんが待っていた。
 

「はい。 店員さんとかゲイルさんにも話を聞いて、大体の疑問は解消出来たので」
 
「そうか」
 

 ゲイルさんに話を聞いた後、店員さんにも話を聞いて、武器に関しての常識と改めて鍛冶師の力が規格外だということが分かった。 

 自分で作った際の付与枠がどのような基準で武器に付くのかは分からないが、恐らく+2か3は付くと思う。 

 更に、一般的な魔法付与師の話を聞いたところ、3つの付与が出来たらかなり腕がいいそうだ。 

 中には1つに特化している人とかもいるらしい。

 それに比べて僕はパッと見ただけじゃ分からない数の種類の付与が出来る。

 これを規格外と言わずなんと言うんだろう。
 

「これからどうする、ショーマ? まだ行きたいところあるのか?」
 
「いえ、大体は回り終えたので最後は宿屋に行きたいんですけど、その前にクラウスさん達3人に相談したいことがあります」
 
「お、そういやそう言ってたな。 いいぜ、何でも聞くから言ってみろよ」
 
「ただ、あまり聞かれたくないことなので、出来ればここにいる4人で話せる場所ってないですかね?」
 
「それなら私に心当たりがある」
 


      *



(クラウスside)

 私は今、ショーマを領主邸へと連れて行くため歩いている。 

 ショーマにはまだ私が領主の弟であることや、これから向かうのが領主邸であることは告げていない。 

 まだ何を考えているか分からないこの少年に、簡単に領主の弟だと告げてしまうと警戒させてしまうかもしれないからだ。

 ちなみに、冒険者ギルドの近くに領主邸はある。 

 街の中で重要な施設が遠く離れてしまうと緊急時に不便だということで、街の真ん中付近に冒険者ギルド、領主邸、あとは衛兵の詰所もある。 

 なので少し歩いたところで領主邸に到着した。
 

「着いたぞ」
 
「ここは? とても立派な建物ですけど……」
 
「ここは領主邸だ」
 
「へ? 領主邸に僕なんかが入っていいんですか?」
 
「私はこの街の領主の弟だ。 今、兄は王都の方に行っていて留守にしているがな」
 
「え、そうだったんですか!? だとすると、とても失礼をしたと思うんですが……」
 
「いいんだ、気にするな。 領主の弟と言っても冒険者だからな。 粗野な連中との付き合いも慣れてるから言葉遣いなども気にしなくていい」
 
「そうだぜー? ショーマはもっと気楽に行けよー? そんな堅っ苦しい口調じゃなくて」
 
「あんたはもう少し慎みを覚えなさいよ。 誰にでも気軽に接すればいいってもんじゃないのよ?」
 
「あはは、大丈夫ですよ。 これが僕の素の口調なので。 それよりも、クラウスさんが領主の弟だということをもう少し早く教えてもらいたかったですけど」
 
「すまない。 あまりすぐに言うのもこちらとしては避けたいところだったんでな」
 
「いえ、クラウスさんにも何か考えがあってのことなら僕は気にしないです」
 
「そう言ってもらえると助かる。 では、行こうか」

 
 そう言って私達は領主邸に入っていく。

 門を抜けて玄関の扉を開けると、執事長が出迎えてくれた。
 

「おかえりなさいませ、クラウス様」
 
「ああ、ご苦労。 仕事に戻ってくれ。 これから内密な話をするから私達のことは気にするな。 応接室の方には人を近づけないようにしてくれ」
 
「畏まりました」
 

 そう言って執事長は仕事に戻っていった。
 

「なんか、すごいですね」
 

 ショーマはここに入ってから忙しなく視線を動かしている。

 
「貴族の家に入るのは初めてか?」
 
「もちろんですよ。 なんか別世界のような気がしますね」
 
「そんな大それたものじゃないが、一応貴族の端くれなんでな。 領主邸も少しは見栄え良くしなくてはいけないんだ」
 
「そういうものなんですね」
 
「ああ。 それでは、話せる場所まで案内しよう」
 

 そのまま一階にある応接室に案内する。

 応接室に4人で入り、しっかりと鍵を閉める。 

 人払いは済ませたので、これで内からも外からも出入りは出来ない。
 

「それでは話を聞こうか。 何から聞きたいんだ?」
 
「何でも聞いていいぞー」
 
「えっと、相談したいことは僕の職業についてです」
 

 いきなり気になっていた部分を話すと言われ、クラウスとミリアンヌの顔が少し引き締まる。 

 それをなるべく顔に出さないように平然を装うのも忘れない。
 

「ただその前に、この事はなるべく口外しない事を約束してもらいたいんです。 それと、僕はこの街に危害を加えるつもりは全くもって無いということを先に言っておきます」
 
「口外しない事は分かったが、なぜそんな事を言う?」
 
「だって、クラウスさんとミリアンヌさん、僕のことをかなり疑ってますよね?」
 

 その言葉を向けられた私とミリーは、驚きによって目を見開いた。

 ゲイルは何が何だか分からないと言う顔をしている。

 
「……なぜ分かった?」
 
「クラウスさんの場合は目ですね。 人を疑いにかかる目をしていました」
 
「そんな事が分かるのか?」
 
「昔、僕の故郷でそういう目を向けられた事があって、分かるんです」
 
「故郷で?」
 
「はい」
 

 そんな目線を向けられる事に慣れてしまうような経験とは一体なんなんだろうか。

 私の疑問を察したのかショーマが続きを話す。
 

「僕は両親がいません。 母は僕を産んだ時に、父は仕事中に突然死したんです。 父が死んだ時の葬儀で、あいつは呪われてるんじゃないかとか、あいつのせいで両親が死んだんじゃないかとか、口には出さずともそう思っている事が目や雰囲気で伝わってくるんです。 さっきのクラウスさんの目に同じものを感じて、領主の弟って聞いてさらに確信が深まりました。 恐らく、この街に危害を加えるつもりなんじゃないかと疑ってるんじゃないかって」
 
「その話は少しおかしくない? だって、あなたは冒険者に成り立ての新人なのよ? そんな人が一人でこの街をどうこう出来るとは思えないわ」
 
「そうですね。 ただ、ミリアンヌさん僕のことを何かしらの方法で調べようとしませんでしたか?」
 
「!? ……気付いていたの?」
 
「はい。 冒険者ギルドでなんかこう、チリっと嫌な魔力を感じて、その元を探ってみたらミリアンヌさんからのものだったので、そうなのかなと」
 
「元を探るって、どうやって?」
 
「僕に干渉してきた魔力を鑑定したんです。 出所を探るために」
 
「貴方も鑑定が使えるのね…… なるほど…… 鑑定魔法のそんな使い方、試したことなかったわ」
 
「その嫌な感じを向けられた後から二人の視線や雰囲気に疑いが混ざっているのに気付いたので、僕の職業やスキルが危険なものであると疑っているんじゃないかと思いました」
 
「なるほどね、納得よ」
 

 ここまでの話を聞くに、ショーマは相当頭が良く、慎重であることが分かった。

 これでも貴族の一員であるから、感情や考えを顔に出さないのはそれなりに出来るつもりだったが、視線で考えを読み取られるとは。
 

「ショーマが私達の疑いを見破っていたのは分かった。 その上で危害は加えないと?」
 
「はい、恐らく僕の職業は使い方によってはこの街を、下手をするとこの国に影響が出ると思います。 ただ、僕はこの力を無闇に他人のために使うつもりはありません。 誰かに感謝して使うだとか、冒険者の仕事としては使いますけど、他人に危害を加える事になるような使い方はしません。 約束します」
 

 その言葉を聞いて少し安心した。

 この世界では、個人の力が重視されることの方が多い。 

 例えば戦争で何万という兵を集めようが、力のある魔法使いの大規模魔法で壊滅することだってざらにある。
 

「これから話す上で、まずはクラウスさん達の疑いを晴らしておきたくてこの話をしました。 疑ってるまま僕の話を聞いたら問答無用で危険人物認定されてしまいそうだと思ったので」
 
「そうか…… 疑って悪かったな」
 
「私も、ごめんなさい。 了承も得ずに鑑定してしまって」
 
「気にしてませんよ。 疑われてもしょうがないと思っているので。 疑いも晴れたところで、色々と相談してもいいですか?」
 
「ああ、そうしよう」
 

 私は少し身構える。 

 国を動かすかもしれない力を持つ、この少年の話を聞き逃さないように。 

 そして、出来ればこの優しい少年の力になってやりたいと思いながら。
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