それぞれの事情

紫陽花

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第四章 鈴世

世間知らず

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鈴世はビールを一口飲んで 一呼吸置くと話し始めた
たった四カ月しか付き合っていなかった
あいつの事を
単に振られただけならここまで痛手はなかったかも知れない いや無かった 絶対!

あいつは悪魔だった
然しその悪魔に魅せられていた自分

最悪な最後の夜に言われた事も
全部田向秋也に話した

一気に話され戸惑いを隠せないでいる
のは判ったが
話し出したら止まらなくなって
感情の高ぶりに声が震えてくる

悔しくてい!…あの夜は何一つ
言い返せずにいた自分

「セックスって何だろ 
自分が感じるとか 不感とか正直判らない
誰でも何回かすれば判るもんなの?
好きな人に抱かれるから気持ち良い
だから感じるんじゃないんの?
まぁまぁ感度の違いはあるんでしょうね

あっ私超絶鈍いんだった

感じてないのに下手な演技為てるとか
考えてもないことを言われて
本当判らなかった

可哀想な子だって あれは絶対蔑みだった
憐れみ……どっちでもいいや
不感症って……それっていつ判る?

女性は自分が不感症かどうかなんて
日々考えて生きてません もしかしたら丁寧に教えてくれてありがとうなのかな?アハハ

でも男性は良いよね 構造的には
判りやすくて」

こんな話し後輩の男の子が聞いて困るだけで
意味なんて無い

あいつに遊ばれたのは今は判る
世間知らずで何でも信じていた
すべて鵜呑みにしていた
都合が良い女だったけど
感じな所が駄目だった
不感症!で捨てられた!
女じゃないと烙印を押されたのと
同じことだ

もし次があるとして
こんなことその相手に話せるのだろうか

やっぱりばれてしまうのか……
そしてまた捨てられるのかと思うと

怖くて
とてもじゃないが
恋愛は出来なきい

女としての人生は終わったのだ

「そっかあ ひでぇ男に引っかかったな
幾つだっけそいつ」
「四十六才」
「ちゃんとした恋愛為てねぇよ そいつ
人を好きになるって 楽しい事ばかりじゃないんだよ 辛いことだって沢山あるんだよ 
それでも好きだからその人が大切だから
踏ん張るんだよ お互いにね」

「そんなこと判ります!秋也は判るわけ無いよ」

少しの沈黙の後田向秋也は呟いた

「判らないかも知れない でも間近で
頑張ったふたりを見てきたから」
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