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最終章・転生勇者編

第173話 再会

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 タローとユウシの戦いは熾烈を極めていた。
 ユウシは魔王ジードがやっていたように、雷魔法の<全能の雷霆ゼウス・ディザスター>を纏うことで超高速移動を可能にしている。
 常人では到底視認することさえ不可能な速さに対し、タローは全身ではなく脚部に集中して第三段階フェーズ・スリーを発動。
 速度特化のフォームでユウシのスピードに対抗した。
 超高速戦闘は更に加速していくと、タローの魔剣とユウシの剣がぶつかり合う音すらも追い抜いていく。
 両者一歩も譲らない互角の勝負が永遠に続くように思えた。

 しかし、タローは迷っていた。
 "このまま勇者を殺すことが正しいのか"――と。
 勇者ユウシの一方的な恨みから始まった戦いを、自分タローの憎しみで終わらせていいのだろうか。
 自らの行動に懐疑的になっていく。
 だが一方で、もう自分では止められないことも理解していた。
 タマコを殺したという事実は、タローにとってそれほどにまで重い罪なのだ。
 もう振り上げた拳を収めることはできない。
 ならばどうするかと考えたとき、タローは即決した。

(悪に片足つっこむくらいなら、たっぷり全身浴してやる……ッ)

 今からでも善良な考えで勇者を許すか、このまま悪に徹して勇者を殺すか。
 結論、タローは悪道を貫くことを決めたのだ。

「――ぶちのめすぞ、勇者ッ!」

 タローは高速戦闘の中で勇者へ接近すると、乱雑に怠惰の魔剣ベルフェゴールを振り回す。
 テキトーに振り回しているだけに見えるが、一発一発が必殺の威力となっているため、当たれば危険だ。
 尚且つ、タローは当てようと思って振っていないため、軌道が読みづらくなっており避けるのも困難になっていた。
 ユウシは即座に避けるのを諦めると、盾を力いっぱいに構える。
 すると、数発がヒットし、ユウシを吹き飛ばす。
 盾で防御したことによりダメージはそれほどない。
 が、盾はひび割れていき、ついには音を立てて破壊されてしまった。

(ッ!? もう許容量ストレージオーバーしたのか!)

 ユウシは驚愕の表情を浮かべた。
 最大解放の影響で盾がチャージできるダメージ量も大幅に上昇しているため、アキラの殴り続ける作戦でも破壊は不可能なほどになっていた。
 それほどにまで強化された盾を、たった数発で破壊したタローの攻撃力は明らかにおかしいと言える。
 驚いているのも束の間、吹き飛ばされ岩へと激突したユウシは痛みに顔を歪めた。

「――ぬぅぅ……負けて、たまるかぁあッ!」

 ユウシは勇者の剣に再び魔法を纏わせる。
 能力により威力が倍になった魔法は、剣を振るうと同時に発動。
 追撃しようと向かってくるタローへと放たれた。

氷河の静寂コキュートス・ゼロ!」

 撃たれたのは極大の氷魔法である。
 大規模の氷河はタローを呑みこむと、永久凍土のごとく閉じ込めてしまった。

「う……ぐッ!」

 動けないタローを見て、ユウシはチャンスと悟る。
 刃に炎魔法である地獄からの咆哮インフェルノ・ロアを乗せて、超スピードで突き技を放った。
 炎を乗せた聖火の剣ウェスタの上位版――。

神火の剣ヘスティア・ウェスタ!」

 地獄の業火を天の聖火へと昇華させた赤き刃。
 狙うは、タローの首である。

(殺したくはない……だが、君が殺すというのなら――おれも腹をくくろう!)

 柄を強く握りしめ、決意を胸に刃を向けた。
 死が迫る最中、タローは魔剣からの魔力を全身の内側に溜めると、それを一気に爆発させた。

「――ぅぉおおおおおッッ!!」

 爆発した魔力は分厚い氷を割り、タローを開放する。
 だが、刃は向かい続けていた。
 タローは咄嗟に魔力を接触部分へと集め、防御力を局所的にアップさせ致命傷を避けた。
 刃はタローを貫くことは無かった――が、威力は殺せず、タローの内臓にダメージが届いた。

「げほッ! ごッほ、ごほッ! ……ハァ、ハァ……――」

 込み上げてくる血反吐を吐き、膝をついた。この戦いで初めて受けたダメージだ。
 ユウシの神火の剣ヘスティア・ウェスタは強力な技である。
 外傷は避けたが、内臓のダメージは相当なものであり、到底戦闘を続けることなどできないケガであった。
 続行は不可能かに思えたが、タローはさらに魔力を練る。

「――ッ! やめろ、本当に死ぬぞ!」
「……安心しろよ、死ぬのはテメェだ……ッ」

 ユウシを睨むその瞳に、迷いはない。
 たとえ命尽き果てようと戦う意思を感じた。
 魔力はさらに禍々しく、不気味にタローを包み込む。
 立ち上がった姿は、魔王よりもよっぽど恐ろしい。
 この男が『真の魔王』と聞かされれば、誰もが信じることだろう。

「俺は……お前をぶっ殺すんだ……」

 ゆっくりと前進を始めるタローの気迫と執念に、ユウシは思わず後退りしてしまう。
 気を抜けば意識を持っていかれそうなほどのプレッシャーを感じながら、ユウシは死を覚悟して立ち向かうことを決めた。
 恐怖と殺意が蔓延する地で、最後の戦いが始まろうとした――そのときだった。

「――落ち着け、タロー」

 天から降り立つと、その女はタローを後ろから優しく抱きしめた。
 その声に反応したのは、もちろんタローだった。
 聞き馴染みのある優しい声。
 ほのかに香る花のような匂い。
 ゆっくりと目を向けたとき、瞳から闇は消えていた。

 ――戻ってくると信じていた。
 ――けれど、どうしても信じきれない部分があって、憎しみに走った。

 ウルウルと瞳を揺らしながら、その女性ひとの頬に手を当てる。

「ぁあ……ああ……ッ」

 確かな温もりを感じた瞬間、ダムが崩壊するように涙が溢れた。
 禍々しかった魔力はすっかり晴れ、もとの優しい雰囲気へと戻っていく。
 だらりと力が抜け、魔剣が手から落ちると、怠惰の魔剣ベルフェゴールはぬいぐるみの姿へと変わり、プーも再会を喜び抱き着く。
 タローは女性を抱きしめると、肩に顔を寄せた。

「おかえり……タマコ」
「うん……ただいま、タロー」
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