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最終章・転生勇者編
第170話 理解している、だからこそ
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先に手を出したのは勇者だ。
ならば、俺に殺されても文句はないだろ。
……いや、本当にそうなのか?
……いや、本当は理解しているんだ。
けれど……だったら、俺はいったい――。
***
「最大解放ごと、ぶっ潰してやるよッ!」
怠惰の魔剣から魔力が溢れ、それを身体に纏っていく。
第三段階・『身体強化』である。
だが、従来の静かな雰囲気とは違い、タローの身体強化は目に見えるほどに濃密な魔力が、燃え盛る炎のように揺らめいていた。
これほどまでに魔力を滾らせれば、普通なら四肢が爆散してもおかしくないはず……なのだが。
身体がバラバラになる様子も無く、タローはこれが普通であるかのように佇んでいた。
「タロー……すまない。
――でも、おれは仲間のためにも、死ぬわけにはいかない……ッ!」
一方のユウシは、白金の輝きが身体から迸っている。
以前であれば盾を前にした防御特化の構えで様子を見ていたところであるが、今は剣を前に構えた攻撃特化の構えをしていた。
全身から溢れる力がユウシの精神をも強くしたのか、完全に自信と活力で漲っている。
「勝手を、言うなよ……ッ!」
「あぁ、おれは自分勝手な人間だ。 だから、この罪を背負ってこれからを生きる!」
「黙れ! 背負うくらいなら――償って死ねッ!」
言葉の終わりと同時に、タローの足元が大きくひび割れた。
砂煙を上げながらダッシュで迫ると、右手に持った魔剣を左から一文字に振るう。
ユウシはそれを避ける――と思いきや、右手の剣で受けた。
ガギィイン! という金属音と共に周囲は爆音に包まれる。
「ォオオオオオオッ!」
「はあぁああああッ!」
両者鍔迫り合いとなると、雄叫びとともに互いに押し合う。
火花を散らし睨み合いが続いていると、タローは魔力を一部左の拳に移動。
アキラのスキル:喧嘩上等のように纏われた拳で、ユウシを殴りつける。
「ぐっ!」
拳が当たる寸前で一歩後退すると、パンチをすれすれで回避する。
しかし、後退した影響から鍔迫り合いとなっていた力の均衡は崩壊。
タローが押し勝つと、ユウシはさらにバランスを崩されてしまう。
その瞬間、タローは魔力を足に移動し、強烈な回し蹴りを打ち込んだ。
ユウシはギリギリ盾で受けたが、あまりの威力に10数メートルも後退させられた。
だが、距離が出来たことで魔法を放つ時間が生まれ、ユウシは極大の魔法を放つ。
「地獄からの咆哮!」
勇者の剣の能力で威力を倍にして撃ち込まれた魔法は、龍人の青龍神王牙を上回る質量の火炎放射に昇華していた。
熱波を受けた地面は燃えるように赤く染まっていく。
強大な威力の魔法を前に、タローは怠惰の魔剣を両手で強く握りしめると、大量の魔力を刀身へと宿らせる。
「ブッ飛ばしてやらァッッ!」
タローは左足を強く前に踏み出すと、渾身の力で振り抜いた。
あまりの力に踏ん張った左足の地面が大きく抉れるが、前方に放出された魔力は一直線に強大な炎へと向かっていく。
大出力魔力と大質量火炎が激突。
威力は互角であり、寸刻の押し合いの後、同じタイミングで二つとも爆散した。
凄まじい爆風が発生。周囲を吹き飛ばしながら、タローとユウシも飲み込まれてしまうのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「――ゲホ、ゲホッ」
砂埃が舞い視界が鈍る中、ユウシは立ち上がった。
勇者の盾で防いだことで難を逃れたが、一瞬でも防御が遅れたら危なかった。
最大解放で防御力は上がっているものの、それを軽く貫くだけの威力が爆風にすらあった。
あの放出された魔力が当たっていたら、一片の塵も残さずに消滅しただろう。
(なんて男だ……スキルも魔法も無しに、ここまで人は強くなれるものなのか!?)
最強と謳われた冒険者の実力に、ユウシが抱いたのは畏怖。そして、尊敬の念だった。
転生、スキル、魔法、努力、才能。
自分のすべてを使っても、タローと互角に戦えるという程度。
それは、まさにラノベやアニメで見る、チート主人公そのものだった。
それほどの強さを得たタローを、ユウシは純粋にすごいと思った。
「――やっぱり、スキルってのはメンドーだな」
ユウシが目を向けると、そこには盾に変形した怠惰の魔剣があった。
煙が止むと、いつもの棍棒へと姿が変わり、無傷のタローが現れる。
しかも、疲労の影が一切感じられない
肩で息をする様子も無く、まだまだ戦える余力がありそうである。
だが、実は内心イライラしていた。
これだけ自分が本気になっても殺されないユウシ。
仲間のために戦うと決意した直後からの巻き返しに、思わず歯ぎしりしてしまう。
「いい加減……終わってくれ」
「悪いが、終わるわけにはいかないんだ」
瞳に闇を宿すタロー。
瞳に光を宿すユウシ。
似ているようで違う、二人の決着は近い。
***
先に手を出したのは勇者だ。
ならば俺に殺されても文句はない。
そう思って、戦っている。
……なのに、今コイツは仲間のために生きようと必死になっている。
そんな奴を、俺は殺そうとしている。
生きようとするユウシと、殺そうとしているタロー。
悪く見えるのは……俺だ。
いや、最初から理解していたんだ。
先に手を出したのが相手だからと、俺は俺の私怨で殺そうとしている。
でも、コイツも最初は、恨みから殺したんだ。
先に手を出したのはユウシかもしれない。
けれど、自分は今、それと同じ行為をしようとしている。
そうすれば、今度はユウシを慕うあの女性たちが、俺を殺そうとする。
このままでは、負の連鎖は止まらなくなる。
そんなことは、理解しているんだ……。
でも――。
だったら、俺のこの悲しみはどうすればいいんだよ……。
なぁ……。
助けてくれよ……タマコ……――
ならば、俺に殺されても文句はないだろ。
……いや、本当にそうなのか?
……いや、本当は理解しているんだ。
けれど……だったら、俺はいったい――。
***
「最大解放ごと、ぶっ潰してやるよッ!」
怠惰の魔剣から魔力が溢れ、それを身体に纏っていく。
第三段階・『身体強化』である。
だが、従来の静かな雰囲気とは違い、タローの身体強化は目に見えるほどに濃密な魔力が、燃え盛る炎のように揺らめいていた。
これほどまでに魔力を滾らせれば、普通なら四肢が爆散してもおかしくないはず……なのだが。
身体がバラバラになる様子も無く、タローはこれが普通であるかのように佇んでいた。
「タロー……すまない。
――でも、おれは仲間のためにも、死ぬわけにはいかない……ッ!」
一方のユウシは、白金の輝きが身体から迸っている。
以前であれば盾を前にした防御特化の構えで様子を見ていたところであるが、今は剣を前に構えた攻撃特化の構えをしていた。
全身から溢れる力がユウシの精神をも強くしたのか、完全に自信と活力で漲っている。
「勝手を、言うなよ……ッ!」
「あぁ、おれは自分勝手な人間だ。 だから、この罪を背負ってこれからを生きる!」
「黙れ! 背負うくらいなら――償って死ねッ!」
言葉の終わりと同時に、タローの足元が大きくひび割れた。
砂煙を上げながらダッシュで迫ると、右手に持った魔剣を左から一文字に振るう。
ユウシはそれを避ける――と思いきや、右手の剣で受けた。
ガギィイン! という金属音と共に周囲は爆音に包まれる。
「ォオオオオオオッ!」
「はあぁああああッ!」
両者鍔迫り合いとなると、雄叫びとともに互いに押し合う。
火花を散らし睨み合いが続いていると、タローは魔力を一部左の拳に移動。
アキラのスキル:喧嘩上等のように纏われた拳で、ユウシを殴りつける。
「ぐっ!」
拳が当たる寸前で一歩後退すると、パンチをすれすれで回避する。
しかし、後退した影響から鍔迫り合いとなっていた力の均衡は崩壊。
タローが押し勝つと、ユウシはさらにバランスを崩されてしまう。
その瞬間、タローは魔力を足に移動し、強烈な回し蹴りを打ち込んだ。
ユウシはギリギリ盾で受けたが、あまりの威力に10数メートルも後退させられた。
だが、距離が出来たことで魔法を放つ時間が生まれ、ユウシは極大の魔法を放つ。
「地獄からの咆哮!」
勇者の剣の能力で威力を倍にして撃ち込まれた魔法は、龍人の青龍神王牙を上回る質量の火炎放射に昇華していた。
熱波を受けた地面は燃えるように赤く染まっていく。
強大な威力の魔法を前に、タローは怠惰の魔剣を両手で強く握りしめると、大量の魔力を刀身へと宿らせる。
「ブッ飛ばしてやらァッッ!」
タローは左足を強く前に踏み出すと、渾身の力で振り抜いた。
あまりの力に踏ん張った左足の地面が大きく抉れるが、前方に放出された魔力は一直線に強大な炎へと向かっていく。
大出力魔力と大質量火炎が激突。
威力は互角であり、寸刻の押し合いの後、同じタイミングで二つとも爆散した。
凄まじい爆風が発生。周囲を吹き飛ばしながら、タローとユウシも飲み込まれてしまうのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「――ゲホ、ゲホッ」
砂埃が舞い視界が鈍る中、ユウシは立ち上がった。
勇者の盾で防いだことで難を逃れたが、一瞬でも防御が遅れたら危なかった。
最大解放で防御力は上がっているものの、それを軽く貫くだけの威力が爆風にすらあった。
あの放出された魔力が当たっていたら、一片の塵も残さずに消滅しただろう。
(なんて男だ……スキルも魔法も無しに、ここまで人は強くなれるものなのか!?)
最強と謳われた冒険者の実力に、ユウシが抱いたのは畏怖。そして、尊敬の念だった。
転生、スキル、魔法、努力、才能。
自分のすべてを使っても、タローと互角に戦えるという程度。
それは、まさにラノベやアニメで見る、チート主人公そのものだった。
それほどの強さを得たタローを、ユウシは純粋にすごいと思った。
「――やっぱり、スキルってのはメンドーだな」
ユウシが目を向けると、そこには盾に変形した怠惰の魔剣があった。
煙が止むと、いつもの棍棒へと姿が変わり、無傷のタローが現れる。
しかも、疲労の影が一切感じられない
肩で息をする様子も無く、まだまだ戦える余力がありそうである。
だが、実は内心イライラしていた。
これだけ自分が本気になっても殺されないユウシ。
仲間のために戦うと決意した直後からの巻き返しに、思わず歯ぎしりしてしまう。
「いい加減……終わってくれ」
「悪いが、終わるわけにはいかないんだ」
瞳に闇を宿すタロー。
瞳に光を宿すユウシ。
似ているようで違う、二人の決着は近い。
***
先に手を出したのは勇者だ。
ならば俺に殺されても文句はない。
そう思って、戦っている。
……なのに、今コイツは仲間のために生きようと必死になっている。
そんな奴を、俺は殺そうとしている。
生きようとするユウシと、殺そうとしているタロー。
悪く見えるのは……俺だ。
いや、最初から理解していたんだ。
先に手を出したのが相手だからと、俺は俺の私怨で殺そうとしている。
でも、コイツも最初は、恨みから殺したんだ。
先に手を出したのはユウシかもしれない。
けれど、自分は今、それと同じ行為をしようとしている。
そうすれば、今度はユウシを慕うあの女性たちが、俺を殺そうとする。
このままでは、負の連鎖は止まらなくなる。
そんなことは、理解しているんだ……。
でも――。
だったら、俺のこの悲しみはどうすればいいんだよ……。
なぁ……。
助けてくれよ……タマコ……――
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