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最終章・転生勇者編

第162話 おれは悪くないから……

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 逃げていく魔王を追っていた。
 魔法で攻撃したが、身体を炎に変えるせいでイマイチ決定打に欠けている。
 どこまでも逃げていく魔王だったが、突然奴は逃げるのを止めた。
 おれが剣を振り下ろすと、何故か魔王は炎になるわけでもなく一撃を受けた。
 刃が肉を切り裂く感触が忘れられない。
 悪の象徴たる魔王を、おれは討伐したのだ。

 ――やった、やったぞ……ッ!

 魔王タイラントが血反吐を吐きながら倒れ伏す姿を目の前にし、おれは歓喜に沸いた。
 生まれたときから与えられた使命。
 辛く厳しい毎日だったが、転生前の冴えない人生に比べたらどうってことなかった。
 ようやくおれにスポットライトが当たるんだ!
 ついに……偉業を成し遂げたんだ!

 ――魔王を討伐した勇者として、民はおれを崇めることだろう!

 そう思い、辺りを見回した。

 ……けれど、そこには尊敬の眼差しを向けるような者はいなかった
 それどころか皆一様に恐れを抱いており、中には憎悪を抱いているような者も数名見られた。

 ――なんで……なんでそんな目で見るんだ……。
 ――魔王を倒したのに、なんでおれの方を悪者みたいに見てるんだよ……ッ!
 ――やめろ……やめろ、やめろ……。

『ハァ……ハァ――』

 ――やめろ、ヤメロ……ッ!

『ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――』

 ――そんな目で……見るな!

『あぁ……ぅああああァああァああァあッ!!』


 精神的に追い込まれ、周りが見えなくなるほど、おかしくなっていたユウシ。
 彼は魔王を倒したことで我に返った。
 だが、まともな人間ほど誹謗中傷には耐えられない。
 ユウシもまた、例にたがわずであった。
 彼は人々の視線に耐え切れず、悲鳴を上げながら走り去っていった。



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 タイタンから少し離れた場所が、今のユウシ一行がいる拠点である。
 今までは街に泊まるなりしていたが、ユウシの行いを知った女性陣により、一旦タイタンを離れることにしたのだ。
 今回の所業が許されないことだと女性たちは理解していた。
 咎めたいが、その本人はブルブル震えながら膝を抱えている。

「……そうとうやらかしたな、ユウシの奴」

 マーティが嘆息しながら言った。
 テイムした動物を使って街の様子を覗いたが、辛うじて犯人が勇者ということはバレていないようである。
 しかし街では犯人を見つけ出して成敗しようという動きになっているようだ。

「氷漬けの建物に、けが人もチラホラいるみたいだな。
 ……魔王タイラントが被害を少なくなるように動いたおかげで、死人がでなかったのが救いってところか」

 偵察を終えた鳥を撫でながら、マーティは目を細めた。
 セイバー、キララ、マホはどうしていいかわからず戸惑うばかりだ。
 マホは、そっとしておこうと提案した自分の責任だと言ったが、他の3人は首を横に振る。
 あのときの判断はあれで間違いなかったし、それが原因だとするなら同意した自分たちにも責任があるからだ。
 と、そんな話し合いをしているものの、解決策は生まれない。
 暗い雰囲気が漂う中、別の足音が近づいてくる。

「すみません、転生者に話があって来ました」

 その人物はレオン・フェルマーであった。
 4人が驚くのも束の間、断りを入れることもせずにレオンは震えるユウシへと近づき、用件を話す。

「――タローくんからの伝言です」
「……タロー、だと?」

 ユウシは一瞬ビクリと身体を跳ねさせると、恐る恐るレオンを見た。

「『タイラントの城に来い』だそうです」

 それだけ伝えると、「では、これで」とレオンは立ち去った。
 ユウシは思った。

(そうか……敵討ちをしようっていうんだな……ッ!)

 当然だ。自分の使い魔がやられて黙っているはずない。

(おれは悪くない……悪いのは魔王だ……!
 なのにおれを殺そうと言うんだな……上等だッ!)

 ギシギシと歯を食いしばったユウシは血走らせた目を見開くと、勢いよく立ち上がった。
 身体から、レベルアップの光を放って――。

「お前も討伐してやるよ……タローッ!」

 勇者の咆哮が一つ、天空へと轟いた。



 スキル:階位昇格レベルアップ
 魔法:全属性魔法
 ステータス:
 LEVEL:99
 攻撃力:50000
 防御力:48000
 速度:50000
 魔力:60000
 知力:2000
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