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最終章・転生勇者編
第158話 知らされた真実
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「――全治1週間です。安静にしていてくださいね」
タイタンの治療院でユウシはそう診断された。
魔剣による傷は回復魔法や完全回復薬でも治療が困難となる。
この世界で魔剣の傷を完全に癒すことが出来るのは、ただ一人、シャルル・フローラルのみである。
「ヒーラーとして彼女の治療を拝見させていただきましたが――正直、あのレベルに達することはわたしには無理でしょうね」
キララはそう提言した。
キララの実力は決して低くない。けれどそう思ってしまう程、シャルルの治療は見事であった。
スキルの効力ももちろんある。が、それを抜きにしてもキララの遥か上を行く技量を持ち合わせていた。
Sランクの中では唯一の非戦闘員。しかし、紛れもなく、そのレベルはSランクに相応しい。
「やはりSランク冒険者。実力は計り知れませんね」マホが言った。
一方でユウシは窓の外を見つめながら黄昏るばかりだった。
***
『タローくんには到底勝てないね』
ムサシの言葉が頭から離れなかった。
圧倒的なSランク冒険者たちが束になっても敵わないという人間。
アキラが言っていた"アイツ"。ランとジードが言っていた"あの人"。
情報を照らし合わせるなら、そのタローのことを指しているのだろう。
けれど噂にも聞いたことがない。そんなに強い者がいるなら世界に名が轟いていてもおかしくないはずだが。
キララから教えて貰い、自分が現在レベル88になっていることは知っていた。
だが、自分はムサシに手も足も出ない。
そのムサシはタローの足下に及ぶ程度だという。
「いったいどんな奴なんだ…………タローという人物は」
溜息と共に疑問が出た。
と、そのとき。――
「タローちゃんについて知りたいの?」
5人は一斉に声の方向に振り向いた。
そこには、いつの間にいたのやら金髪の美女が座っていた。
思わず見とれてしまう美貌であるが、それよりも5人に気配を全く気取らせなかったことに驚いていた。
「な、何者だ貴様は!?」
セイバーが狼狽しつつ尋ねると、女性はヒラヒラと手を振り答えた。
「リアム=エリス=アメジスト。魔王よ」
「なッ!?」
魔王と聞き思わず剣を抜こうとしたセイバー。
思わず剣を抜こうとする。が、それは叶わない。
それよりも速く、エリスの人差し指が剣の柄を押していたからだ。
(ぬ、抜けない!)
力尽くで抜刀を試みるもエリスの指一本に押し負けてしまい、完全に制されてしまった。
「落ち着きなさい。あたしがシャルルの使い魔だってこと、知ってるでしょ~?」
苦言を呈しながら「まったくも~……」と目を瞑る。
「戦う気はない。
それより知りたいんでしょ? タローちゃんのこと」
5人は目を見合わせると、仕方なく頷いた。
思うところがないわけではないが、戦う気がないのならと、素直に情報を得ることにしたのだった。
***
エリスはタローという人物について語った。
曰く。
覇気無し。
根性無し。
やる気無し。
常に目が死んでる。
怠惰の化身。
擬人化したナマケモノ。
らしい。
いったいどんな人間なのか違う意味で気になってきたところだった。
が、もちろんそれだけではないそうだ。
悪い奴がいたら倒す。
泣いている子供がいれば手を差し伸べる。
自分の信念を曲げない。
そして何より――恐ろしく強い。
「魔王が言うなら、間違いないんだろうな。そのタローという人間の強さは」
「強いわよ~。あたしの親友を屈服させるくらいだからね~」
「親友?」
魔王の親友を屈服。ということは魔王クラスの誰かなのだろうか?
そう思って何気に尋ねた疑問。
しかしこの質問は、のちに起こる大きな騒動の切っ掛けとなる。
「魔王タイラント=マリア=コバルトよ」
「――……えっ」
ユウシは、そこで頭が停止した。
それほどの衝撃だった。
「えっと、もしかして魔王タイラントは、そのタローという方の?」
代わりに訊いたのキララだ。
その問いに「ええ、使い魔よ」と首を縦に振った。
だが4人は何となく察していた。
ユウシが最初に接触したとき、魔王タイラントは明らかに敵意というものが無かった。
とても人間に馴染んでいて、街の人たちからも好かれている様子だった。
「タローちゃんは見ればすぐにわかるから、興味があれば探してみたらどう?」
エリスはタローの特徴を教えてくれた。
ダルンダルンに袖が伸びたTシャツ。
真っすぐなストレートの髪。
あと、肩にクマのぬいぐるみを乗せているそうだ。
「ま、Sランクや魔王みたいな強者なら一目でわかるけどね」
強すぎるから――と最後にそう言い残して、エリスは部屋を出て行ってしまった。
それに全く気付かぬほど、ユウシはボーっとしていた。
(おれは、いったい……――)
これまでやってきたことを思い返す。
魔王の城へ乗り込み、そこには誰もいなくて。調べてみると、もう魔王は人を襲うことは無くなっていた。
その中でようやく見つけた、人を襲う可能性のある魔王。
大敗を喫し、転移者に片っ端から勝負を吹っ掛け、強くなった。
けれど、アリス・ワンダーランドとムサシ・ミヤモトにボロ負け。しかもそいつらより遥かに強い男がいるとか。
それでもって、その男の使い魔は、リベンジを誓った魔王タイラント。
話を聞いてもタローという人物は悪い人間ではなく、この世界を守る冒険者の一人。
つまり、魔王タイラントは人を襲うことは無い。
つまり、ユウシのやってきたことは。――
「全部……無駄だったってことか」
呟いたあと、乾いた笑いが零れた。
その後、ユウシは1週間、魂が抜けたような状態だったという。
瞳に虚ろを浮かべ、彼は死人のような状態で退院した。
タイタンの治療院でユウシはそう診断された。
魔剣による傷は回復魔法や完全回復薬でも治療が困難となる。
この世界で魔剣の傷を完全に癒すことが出来るのは、ただ一人、シャルル・フローラルのみである。
「ヒーラーとして彼女の治療を拝見させていただきましたが――正直、あのレベルに達することはわたしには無理でしょうね」
キララはそう提言した。
キララの実力は決して低くない。けれどそう思ってしまう程、シャルルの治療は見事であった。
スキルの効力ももちろんある。が、それを抜きにしてもキララの遥か上を行く技量を持ち合わせていた。
Sランクの中では唯一の非戦闘員。しかし、紛れもなく、そのレベルはSランクに相応しい。
「やはりSランク冒険者。実力は計り知れませんね」マホが言った。
一方でユウシは窓の外を見つめながら黄昏るばかりだった。
***
『タローくんには到底勝てないね』
ムサシの言葉が頭から離れなかった。
圧倒的なSランク冒険者たちが束になっても敵わないという人間。
アキラが言っていた"アイツ"。ランとジードが言っていた"あの人"。
情報を照らし合わせるなら、そのタローのことを指しているのだろう。
けれど噂にも聞いたことがない。そんなに強い者がいるなら世界に名が轟いていてもおかしくないはずだが。
キララから教えて貰い、自分が現在レベル88になっていることは知っていた。
だが、自分はムサシに手も足も出ない。
そのムサシはタローの足下に及ぶ程度だという。
「いったいどんな奴なんだ…………タローという人物は」
溜息と共に疑問が出た。
と、そのとき。――
「タローちゃんについて知りたいの?」
5人は一斉に声の方向に振り向いた。
そこには、いつの間にいたのやら金髪の美女が座っていた。
思わず見とれてしまう美貌であるが、それよりも5人に気配を全く気取らせなかったことに驚いていた。
「な、何者だ貴様は!?」
セイバーが狼狽しつつ尋ねると、女性はヒラヒラと手を振り答えた。
「リアム=エリス=アメジスト。魔王よ」
「なッ!?」
魔王と聞き思わず剣を抜こうとしたセイバー。
思わず剣を抜こうとする。が、それは叶わない。
それよりも速く、エリスの人差し指が剣の柄を押していたからだ。
(ぬ、抜けない!)
力尽くで抜刀を試みるもエリスの指一本に押し負けてしまい、完全に制されてしまった。
「落ち着きなさい。あたしがシャルルの使い魔だってこと、知ってるでしょ~?」
苦言を呈しながら「まったくも~……」と目を瞑る。
「戦う気はない。
それより知りたいんでしょ? タローちゃんのこと」
5人は目を見合わせると、仕方なく頷いた。
思うところがないわけではないが、戦う気がないのならと、素直に情報を得ることにしたのだった。
***
エリスはタローという人物について語った。
曰く。
覇気無し。
根性無し。
やる気無し。
常に目が死んでる。
怠惰の化身。
擬人化したナマケモノ。
らしい。
いったいどんな人間なのか違う意味で気になってきたところだった。
が、もちろんそれだけではないそうだ。
悪い奴がいたら倒す。
泣いている子供がいれば手を差し伸べる。
自分の信念を曲げない。
そして何より――恐ろしく強い。
「魔王が言うなら、間違いないんだろうな。そのタローという人間の強さは」
「強いわよ~。あたしの親友を屈服させるくらいだからね~」
「親友?」
魔王の親友を屈服。ということは魔王クラスの誰かなのだろうか?
そう思って何気に尋ねた疑問。
しかしこの質問は、のちに起こる大きな騒動の切っ掛けとなる。
「魔王タイラント=マリア=コバルトよ」
「――……えっ」
ユウシは、そこで頭が停止した。
それほどの衝撃だった。
「えっと、もしかして魔王タイラントは、そのタローという方の?」
代わりに訊いたのキララだ。
その問いに「ええ、使い魔よ」と首を縦に振った。
だが4人は何となく察していた。
ユウシが最初に接触したとき、魔王タイラントは明らかに敵意というものが無かった。
とても人間に馴染んでいて、街の人たちからも好かれている様子だった。
「タローちゃんは見ればすぐにわかるから、興味があれば探してみたらどう?」
エリスはタローの特徴を教えてくれた。
ダルンダルンに袖が伸びたTシャツ。
真っすぐなストレートの髪。
あと、肩にクマのぬいぐるみを乗せているそうだ。
「ま、Sランクや魔王みたいな強者なら一目でわかるけどね」
強すぎるから――と最後にそう言い残して、エリスは部屋を出て行ってしまった。
それに全く気付かぬほど、ユウシはボーっとしていた。
(おれは、いったい……――)
これまでやってきたことを思い返す。
魔王の城へ乗り込み、そこには誰もいなくて。調べてみると、もう魔王は人を襲うことは無くなっていた。
その中でようやく見つけた、人を襲う可能性のある魔王。
大敗を喫し、転移者に片っ端から勝負を吹っ掛け、強くなった。
けれど、アリス・ワンダーランドとムサシ・ミヤモトにボロ負け。しかもそいつらより遥かに強い男がいるとか。
それでもって、その男の使い魔は、リベンジを誓った魔王タイラント。
話を聞いてもタローという人物は悪い人間ではなく、この世界を守る冒険者の一人。
つまり、魔王タイラントは人を襲うことは無い。
つまり、ユウシのやってきたことは。――
「全部……無駄だったってことか」
呟いたあと、乾いた笑いが零れた。
その後、ユウシは1週間、魂が抜けたような状態だったという。
瞳に虚ろを浮かべ、彼は死人のような状態で退院した。
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