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最終章・転生勇者編
第149話 お茶会と開戦の合図
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Sランク冒険者との手合わせ。これは実際のところユウシの実力を上げるのに十二分の効果を発揮していた。
かつてはモンスターを大量に狩ったり、毎日剣を振ったりし、地道にレベルを上げていた。しかし強者との実戦訓練ほどの効果は無く、やはり戦闘が一番実力をつけるのに効果的であった。
Sランク冒険者との戦闘もこれで3度目。
非戦闘冒険者のシャルル・フローラルを除けば、ここで折り返しとなる。
が、それはユウシにとっては一つの壁でもある。
(アリス・ワンダーランド。"三危"の一人、か)
三危とは、ギルドが提唱したSランクの中でも特出した強さを持った3人の冒険者たちのことを指す。
ムサシ・ミヤモト。
レオン・フェルマー。
そして、アリス・ワンダーランド。
Sランク冒険者の中でも、手を出してはいけない危険な三人として、ギルドがそう名付けた。
要するに、実力トップ3の内の一人ということだ。
「……おまたせ」
アリスは戦闘準備を終えてユウシの前に現れた。
先ほど同様青いワンピースで、服装に変化はない。
しかし、右手に持った禍々しい魔力を帯びたノコギリが、アリスの独特な恐怖感をさらに煽っている。
耳にはしていたが、見るのは初めてのソレにユウシは生唾をゴクリと飲み込んだ。
「それが暴食の魔剣か」
「……うん」
アリスはこくりと頷いた。
魔剣を見るのは初めてではない。魔王リッカ=ジード=エメラルドの嫉妬の魔剣を一度見ているし、その能力も肌で直接感じた。
だが、ハッキリ言って次元が違った。
その異様さ。魔力。なにより恐怖。
本能が直接訴えかけてくる『逃げろ』という命令に、ユウシは必死に抗った。
頭を振って恐怖を打ち消していると、後ろでアンブレラが魔法を発動した。
「禍々しき不思議の国!」
アンブレラが両手を広げると、黒い靄がアリスとユウシの周りを囲むように発生する。
マーティたち4人を巻き込まず、2人だけを閉じ込めると、静寂がその場を支配した。
「さ! あなたたちはこっちへいらっしゃい!」
アンブレラは魔法でテーブルとイス、お茶とクッキーを取り出すと、4人をそこへ招く。
けれど、実際それどころではなかった。
「ユウシたちをどこへやったのだ!?」
セイバーが声を荒げて尋ねる。
アンブレラはカップにお茶を注ぎながら淡々と、かつ笑顔で答えた。
「ここで戦ったらせっかくの奇麗なお花畑が焼け野原になっちゃうでしょ?
だから結界を張っただけよ」
別に身体に影響はないわ、と言いお茶の準備を進める。
しかしながら外からユウシの姿を見ることはできないため不安は残る。
誘いを断り、ユウシの元へ行きたい仲間たち。
それに対しアンブレラは。
いや、魔王アンブレラ=サファイアは。
「――終わるまで、おばさんとお話しましょ?」
僅かな殺気を含んだ、優しい声音で4人を恐怖で縛った。
「「「「~~~~ッ!?」」」」
ユウシの仲間は決して弱くない。
けれどそれはSランクや魔王級を除いた中での話。
歴史上、唯一代替わりをしていない3柱の魔王の中の1柱にとって、彼女らは障害にも邪魔にもならないのである。
「さあ、楽しいお茶会にしましょうね?」
魔王の笑顔と共に、楽しい楽しい地獄のお茶会は始まるのだった。
***
黒い靄の中は、外見とは対照的な美しい樹海であった。
人工物など一切なく、静けさに満ちている。
そんな、お伽話に出てくるような穢れの無い世界の中に似つかわしくないオーラが二つ。
「おれの贄になってもらうぞ、アリス・ワンダーランド」
「……喰らいつくしてあげる、ぜんぶ」
そのとき、暴食の魔剣の鼓動が静寂を喰い破る。
そしてそれは、開始のゴングとなるのだった。
かつてはモンスターを大量に狩ったり、毎日剣を振ったりし、地道にレベルを上げていた。しかし強者との実戦訓練ほどの効果は無く、やはり戦闘が一番実力をつけるのに効果的であった。
Sランク冒険者との戦闘もこれで3度目。
非戦闘冒険者のシャルル・フローラルを除けば、ここで折り返しとなる。
が、それはユウシにとっては一つの壁でもある。
(アリス・ワンダーランド。"三危"の一人、か)
三危とは、ギルドが提唱したSランクの中でも特出した強さを持った3人の冒険者たちのことを指す。
ムサシ・ミヤモト。
レオン・フェルマー。
そして、アリス・ワンダーランド。
Sランク冒険者の中でも、手を出してはいけない危険な三人として、ギルドがそう名付けた。
要するに、実力トップ3の内の一人ということだ。
「……おまたせ」
アリスは戦闘準備を終えてユウシの前に現れた。
先ほど同様青いワンピースで、服装に変化はない。
しかし、右手に持った禍々しい魔力を帯びたノコギリが、アリスの独特な恐怖感をさらに煽っている。
耳にはしていたが、見るのは初めてのソレにユウシは生唾をゴクリと飲み込んだ。
「それが暴食の魔剣か」
「……うん」
アリスはこくりと頷いた。
魔剣を見るのは初めてではない。魔王リッカ=ジード=エメラルドの嫉妬の魔剣を一度見ているし、その能力も肌で直接感じた。
だが、ハッキリ言って次元が違った。
その異様さ。魔力。なにより恐怖。
本能が直接訴えかけてくる『逃げろ』という命令に、ユウシは必死に抗った。
頭を振って恐怖を打ち消していると、後ろでアンブレラが魔法を発動した。
「禍々しき不思議の国!」
アンブレラが両手を広げると、黒い靄がアリスとユウシの周りを囲むように発生する。
マーティたち4人を巻き込まず、2人だけを閉じ込めると、静寂がその場を支配した。
「さ! あなたたちはこっちへいらっしゃい!」
アンブレラは魔法でテーブルとイス、お茶とクッキーを取り出すと、4人をそこへ招く。
けれど、実際それどころではなかった。
「ユウシたちをどこへやったのだ!?」
セイバーが声を荒げて尋ねる。
アンブレラはカップにお茶を注ぎながら淡々と、かつ笑顔で答えた。
「ここで戦ったらせっかくの奇麗なお花畑が焼け野原になっちゃうでしょ?
だから結界を張っただけよ」
別に身体に影響はないわ、と言いお茶の準備を進める。
しかしながら外からユウシの姿を見ることはできないため不安は残る。
誘いを断り、ユウシの元へ行きたい仲間たち。
それに対しアンブレラは。
いや、魔王アンブレラ=サファイアは。
「――終わるまで、おばさんとお話しましょ?」
僅かな殺気を含んだ、優しい声音で4人を恐怖で縛った。
「「「「~~~~ッ!?」」」」
ユウシの仲間は決して弱くない。
けれどそれはSランクや魔王級を除いた中での話。
歴史上、唯一代替わりをしていない3柱の魔王の中の1柱にとって、彼女らは障害にも邪魔にもならないのである。
「さあ、楽しいお茶会にしましょうね?」
魔王の笑顔と共に、楽しい楽しい地獄のお茶会は始まるのだった。
***
黒い靄の中は、外見とは対照的な美しい樹海であった。
人工物など一切なく、静けさに満ちている。
そんな、お伽話に出てくるような穢れの無い世界の中に似つかわしくないオーラが二つ。
「おれの贄になってもらうぞ、アリス・ワンダーランド」
「……喰らいつくしてあげる、ぜんぶ」
そのとき、暴食の魔剣の鼓動が静寂を喰い破る。
そしてそれは、開始のゴングとなるのだった。
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