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最終章・転生勇者編

第144話 ヤバい奴

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 強くなっている。それも急激な成長だ。
 手合わせしなくても見ただけでそれが理解できるほど、ユウシの雰囲気はがらりと変わっていた。

 だったらどうする? 逃げる?
 もちろん答えはNOノーだ。

 強くなったから逃げるなんて有り得ない。
 何しろランとジードは――

「「いいね……そっちのほうが燃えるよッッ!」」

 目を輝かせて純粋無垢な笑みを浮かべた。
 龍人は全身に青龍之雷せいりゅうのいかづち・纏を発動させた。
 そして、自身の出せる最速のスピードでユウシに突撃する。

「「青龍雷迅爪せいりゅうらいじんそう!」」

 両腕に雷を纏った爪。強靭な刃を備えたその爪を立てると、トップスピードのまま攻撃を仕掛ける。
 瞬間移動かと見紛うほどのスピード。
 蒼雷の軌跡が無ければ、走って移動したと信じることはできないだろう。
 まるで見切れるとは思えない最速の一撃だった。

 が、それを嘲笑うかのように、黄金の刃は一閃した。

「――お前のスピードは、もう超えさせてもらった」

 刹那、龍人は悪寒を感じた。
 直感に従い腕を引っ込めたい。しかし繰り出された攻撃は、すでにキャンセル不可能な状態だ。
 その直感は正しく、ザシュ! と切断される音が響いた。
 龍人の最速を超えるスピードで振るわれた剣が、雷の爪ごと両手首を斬り落としたのだ。
 そして、刃はそのまま龍人の首元へと迫るのだった。

 その瞬間、勝敗が決した。

「……ボクたちの負けだ」
「降参するッス」

 龍人からジードとランに戻ると、二人は白旗を上げた。


 ***


 降参したのを確認すると、ユウシも剣と盾を指輪に戻した。
 ユウシが一息つくと、そこへ仲間の4人が駆け付ける。
 すると、4人同時に「大丈夫か!?」と心配され、キララがすぐさま回復魔法をかけた。
 そうして仲間たちが勝利に喜ぶ中、ユウシは確かな強さに手ごたえを感じていた。

(いいぞ……確実に強くなっている……ッ!)

 手を強く握り、その力を噛みしめる。
 そして仲間から一気にレベルが4つ上がったことを知ると、スキル:階位昇格レベルアップの能力を改めて理解した。

(相手が強いほど、レベルは数段飛びで上昇するのか!)

 今まで、魔王級の強敵と対峙したことが無かったからわからなかった真実。
 この事実が本当なら、あとは簡単だ
 これまで通りSランク冒険者との戦いをすれば、魔王タイラントと戦う頃には圧倒的な差で勝利できるのだから。
 勝利への地図が完成し、ユウシが有頂天になっていると、横からランが声をかけてきた。 

「いやー、やっぱ転生者はつえーッスね。
 くらいに強敵だったっスわ!」

 はっはっは! と大口を開けて笑うランに、ジードは「ラン、はしたないよ」と注意する。
 だが、ユウシはある言葉に引っかかった。

とは誰のことだ? おれより強いのか?」

 聞き捨てならぬその言葉。
 思い返せばアキラも誰かのことを言っていたような……。

「あぁ、彼かい? 彼は、何というか……ねぇ?」
「あー、そうッスねー……直接会ったほうがわかると思うッスよ?」

 何だかジードとランは言いづらそう。いや、説明しづらそうだった。
 そしてそれを最後に、二人はこの場を去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待て! ソイツは何者なんだ!?」

 ユウシはその人物が気になり、二人を無理矢理呼び止める。
 すると二人は揃って口を開き、同じことを言った。

「ヤバい奴だ」
「ヤバい人ッス!」
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