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魔剣争奪戦編
第117.5話 ガス抜き
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ムサシは転移したあと、男子病棟で治療を受けた。
治療したシャルルによれば、受けた攻撃は少ないものの、かなりの重傷らしい。
タローの防御貫通が完璧に決まっていたら間違いなく死んでいたというので、ムサシはそれを聞いてゾッとしていた。
後に優勝者のタローもされると、彼はすぐに治療を受けて寝てしまった。
これにて魔剣争奪戦も終了。
激動の一日は幕を閉じたのであった。
***
その夜、ムサシはベッドに腰をかけて窓の外にある月を眺めていた。
使い魔のハザードが横で豪快にイビキをかいて寝ていて、向かい側でアキラもぐっすりと眠っている。
タローも先ほどまでいたのだが、女子たち数人に半分拉致される形でどこかへ連れていかれてしまった。
今ここにいるのはムサシ、ハザード、アキラ、クロス、そして――
「眠らないのですか?」
ムサシに声をかけたのはレオンだった。
切断された腕は完全に治っている。これもシャルルの治療のおかげだ。
ハーブティーを飲みながら話しかけたレオンに、ムサシは小さく呟いた。
「不思議なんだ。
負けたのに、どこかスッキリしていて……心が軽くなってるんだよ」
ムサシは口元に笑みを浮かべながら窓の外を見つめていた。
そんなムサシに「そうですか……」とレオンも穏やかな口調で相槌を打つ。
「負けて悔しいんだけどね。でも、満足してる。
ははは……これでいいのかな?」
初めての感覚に戸惑う。
敗北が己の恥だと思って生きてきたムサシにとって、この感情は新しく、受け入れ難いものであった。
けれど、それでいいのだと、レオンは言う。
「だってこの大会は、Sランクや魔王たちのガス抜きなんですから」
「――ッ」
そう言えばそうだったとムサシは思い出した。
この戦いの発端は、そもそもSランクたちや魔王たちがタローと争わないように提案したものであった。それにはSランク冒険者と魔王が暴れないようにというガス抜きの意味も兼ねている。
そして、それは結果として成功しているのだ。
アリスは食欲以外の恋愛感情を覚えた。
アンブレラはフェニックスとの再戦が叶った。
ランとジードは互いの絆を深め、新たな力と目標を得た。
アキラは自分の目指すべきものをもう一度見直せた。
クロスは一時的にも良い夢を見ることが出来た。
シャルルは新しい友を作れた。
エリスは親友との絆を取り戻せた。
タマコは嫌っていた力を受け入れ、精神的にも成長した。
タローは優勝して100億を貰えた。
ハザードはタローの力に触れ満足した。
そしてムサシは過去を断ち切るのではなく、受け入れることを学んだ。
「君も闇、ちょっとは抜けたんじゃないですか?」
「……あぁ、そうだね」
心を覆っていた闇が少しだけ晴れているのが自分でも分かった。
様々な事情を抱えているSランク冒険者と魔王たち。
それが少しでも軽くなったのなら、この戦いはレオンにとって、最高のエンディングを迎えたと言える。
と、ここでムサシは一つの疑問を抱いた。
「レオンさんは、ガス抜きできたのかい?」
今までの話の中に、レオンは出て来なかった。
もしレオンが自分を犠牲にしてまで他人を優先していたのなら、それはムサシが許さない。
けれど、どうやらそれは杞憂に終わりそうである。
「私のガス抜きは――これからです」
レオンはティーカップに紅茶を注ぐと、それをムサシに手渡した。
「私が満足するまで、夜更かしに付き合ってもらいますよ? ムサシくん」
レオンは今までムサシのわがままに突き合わされてきたのだ。
ならば今回は、自分のわがままに付き合ってもらおうと考えていたのである。
「もちろん。いくらでも」
ティーカップを受け取ると、ムサシはレオンと対面になるように座る。
レオンとムサシはその後、久しぶりに友人として、時間も忘れて語り合ったのであった。
治療したシャルルによれば、受けた攻撃は少ないものの、かなりの重傷らしい。
タローの防御貫通が完璧に決まっていたら間違いなく死んでいたというので、ムサシはそれを聞いてゾッとしていた。
後に優勝者のタローもされると、彼はすぐに治療を受けて寝てしまった。
これにて魔剣争奪戦も終了。
激動の一日は幕を閉じたのであった。
***
その夜、ムサシはベッドに腰をかけて窓の外にある月を眺めていた。
使い魔のハザードが横で豪快にイビキをかいて寝ていて、向かい側でアキラもぐっすりと眠っている。
タローも先ほどまでいたのだが、女子たち数人に半分拉致される形でどこかへ連れていかれてしまった。
今ここにいるのはムサシ、ハザード、アキラ、クロス、そして――
「眠らないのですか?」
ムサシに声をかけたのはレオンだった。
切断された腕は完全に治っている。これもシャルルの治療のおかげだ。
ハーブティーを飲みながら話しかけたレオンに、ムサシは小さく呟いた。
「不思議なんだ。
負けたのに、どこかスッキリしていて……心が軽くなってるんだよ」
ムサシは口元に笑みを浮かべながら窓の外を見つめていた。
そんなムサシに「そうですか……」とレオンも穏やかな口調で相槌を打つ。
「負けて悔しいんだけどね。でも、満足してる。
ははは……これでいいのかな?」
初めての感覚に戸惑う。
敗北が己の恥だと思って生きてきたムサシにとって、この感情は新しく、受け入れ難いものであった。
けれど、それでいいのだと、レオンは言う。
「だってこの大会は、Sランクや魔王たちのガス抜きなんですから」
「――ッ」
そう言えばそうだったとムサシは思い出した。
この戦いの発端は、そもそもSランクたちや魔王たちがタローと争わないように提案したものであった。それにはSランク冒険者と魔王が暴れないようにというガス抜きの意味も兼ねている。
そして、それは結果として成功しているのだ。
アリスは食欲以外の恋愛感情を覚えた。
アンブレラはフェニックスとの再戦が叶った。
ランとジードは互いの絆を深め、新たな力と目標を得た。
アキラは自分の目指すべきものをもう一度見直せた。
クロスは一時的にも良い夢を見ることが出来た。
シャルルは新しい友を作れた。
エリスは親友との絆を取り戻せた。
タマコは嫌っていた力を受け入れ、精神的にも成長した。
タローは優勝して100億を貰えた。
ハザードはタローの力に触れ満足した。
そしてムサシは過去を断ち切るのではなく、受け入れることを学んだ。
「君も闇、ちょっとは抜けたんじゃないですか?」
「……あぁ、そうだね」
心を覆っていた闇が少しだけ晴れているのが自分でも分かった。
様々な事情を抱えているSランク冒険者と魔王たち。
それが少しでも軽くなったのなら、この戦いはレオンにとって、最高のエンディングを迎えたと言える。
と、ここでムサシは一つの疑問を抱いた。
「レオンさんは、ガス抜きできたのかい?」
今までの話の中に、レオンは出て来なかった。
もしレオンが自分を犠牲にしてまで他人を優先していたのなら、それはムサシが許さない。
けれど、どうやらそれは杞憂に終わりそうである。
「私のガス抜きは――これからです」
レオンはティーカップに紅茶を注ぐと、それをムサシに手渡した。
「私が満足するまで、夜更かしに付き合ってもらいますよ? ムサシくん」
レオンは今までムサシのわがままに突き合わされてきたのだ。
ならば今回は、自分のわがままに付き合ってもらおうと考えていたのである。
「もちろん。いくらでも」
ティーカップを受け取ると、ムサシはレオンと対面になるように座る。
レオンとムサシはその後、久しぶりに友人として、時間も忘れて語り合ったのであった。
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