上 下
84 / 198
魔剣争奪戦編

幕間 まあ要するにラブコメ回です

しおりを挟む
 それは、アリスとアンブレラに遭遇する前のこと――

「マリアはいつタローちゃんに告白するのよ?」
「――ブフッ!?」

 突如耳元でエリスが囁くと、タマコは思わず噴き出した。

「な、なななななななな何を言っておるのじゃエリスッ!?」
「だって……どう見ても貴女、惚れてるじゃない?」
「――グハッ!」

 言葉のボディーブローがクリティカルヒットすると、タマコは吐血した。
 フラフラになり、歩くのもままならない状態になるが、タマコはそれでも否定する。

「いやいやいや……ないだろうそれは」

 確かに勘違いしてしまう場面もあった。
 出会って間もない頃や、可愛いと言ってもらった時はドキッとしたし、ラン・ジード戦においても「あ、かっこいい」と感想を抱いた。
 しかし、それは全て"使い魔になった"からだ。
 以前も話したが、使い魔になると性別によって違う感情を抱く。
 雄の場合は、主人への"忠誠心"が強く、雌は主人へ恋心のような"愛情"を持つのだ。
 よって、タローへの感情は使い魔になったことによる『弊害』でしかない。

 と、エリスにも説明すると――

「……え?」

 エリスは頭に大きな"?"を浮かべた。

「……何言ってるのよマリア?」
「な、何って何がじゃ?」
「だって――」

 エリスはその後、この発言を後悔した。
 まさかその一言が、大事な親友をあんな状態にしてしまうなんて――

「それって言葉の通じない下級のモンスターの話でしょ? 知能の高いモンスターあたし達にはないじゃない」
「…………………………………………へ?」

 その瞬間、タマコの頭の中に高速で情報が行き交った。

(主殿へ強い想いを抱くことは認識していた。だがそれは使い魔になったことによる弊害のはず――
 で? それは下級のモンスターの話で、上級の私たちには適用されないと?
 ……あれ、ちょっと待って……なら私が主殿に抱いた感情は――)

 タマコはぎこちない動きで振り向くと、後ろを歩くタローと目を合わせた。

「……どうした?」

 ――そのとき、不思議なことが起こった――

 いつものように気怠さMAXが顔に出ているタローの表情が、
 アルティメットで、
 シャイニングで、
 サバイブで、
 ブラスターで、
 キングで、
 アームドで、
 ハイパーで、
 超クライマックスで、
 エンペラーで、
 コンプリートで、
 エクストリームで、
 スーパーで、
 コズミックで、
 インフィニティで、
 極で、
 スペシャルで、
 ムゲンで、
 ムテキで、
 ジーニアスで、
 グランドで、
 リアライジングで、
 オールマイティで……――

 まぁ要するに、

 超強力な乙女フィルターにより、ストライクゾーンド真ん中の顔に見えたのである。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
「……マリア?」

 親友が呼び掛けても、反応が全くない。
 だが、しばらく呆然とすると、だんだんとその顔色が赤く染まっていったのである。

「……あ、あう……あの……え、と……///」

 魔王の中でも屈指の頭脳を誇るタイラント=マリア=コバルト。
 彼女の頭は人生で初めて、ショートした。

「――ふにゅ~~~~……」

「ちょ、マリア!?」
「ま、マリア様」
「Σ(・ω・^)!」
(訳:どうしました!?)

 頭から煙を出しながら倒れるタマコに、エリスとシャルル、そしてプーが駆け寄った。
 エリスが抱き上げるが、目はグルグルと回したままピクリともしない。

「マリア! 戻りなさいちょっと!?」
「わ、わたしが回復を!」

 シャルルが自身の能力で回復させると、タマコはゆっくりと目を開ける

「――はっ! 私は何を!?」

 エリスとシャルルとプーはそれを見てホッと息をつく。
 完全に正気を戻したタマコは、起こったことを思い出そうと――

「おい、大丈夫か?」

 する前に、タローが目に入った。
 そして頭が回復しきれていないタマコに起こることは、必然的に決まっている

「タマコ?」首をかしげるタロー。

「………………………………………………」

 魔王レベルの乙女フィルターが施されたその瞳により、もはや平静を保てるわけもなく……。

「カッコよすぎかよ……――」

 そう言い残し、タマコは再び眠りにつくのだった。
 シャルルとプーは慌てて、もう一度スキルで癒しを試みる。

「……何が起こったの?」
「あぁ……そうね~――」

 状況を理解できないタローに、エリスは戸惑いながらも一言で説明した。

「魔王レベルの恋する乙女症候群、かしら?」
しおりを挟む

処理中です...