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魔剣争奪戦編

第55話 タロー&タマコ vs ラン&ジード(1)

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 左手の甲に施された転移魔方陣により、エリア内のどこかに転送される。
 一瞬強い光が発生したので目を瞑った。
 そして次に瞼を開いた時には、先ほどまでいた冒険者と魔王たちは消え、タローとタマコ、プーの三人のみになっていた。
 場所は、木々が生い茂った森の中である。

「さてと、もう金取り合戦は始まったってことでいいんだよな?」

「そのようじゃの」

「(`・ω・´)」
(訳:頑張りましょう!)

 三人それぞれ思いは一緒。負けるつもりは毛頭ない。

「とりあえずどっか行くか」

 タローはこの場所を移動しようとする。だが、それをタマコが止めた。

「待て主殿。ここは一旦身を隠そう」

「え、なんで?」

「Sランクの能力はまだわからん。アキラは近接格闘系、シャルルは回復系とわかってはおるが、それ以外の能力で遠距離系の者がいないとも限らん」

「(^・ω・^)」
(訳:狙い撃ちなどをさけるために、まずは様子見ということですか?)

「そういうことじゃ。ちなみに魔王の能力もあまり知らん。不干渉だったからな」

 冒険者の能力は謎。魔王も謎。
 不確定要素がありすぎる今の状態で動くのは、確かにリスクが大きすぎる。
 タマコの判断は間違っていないだろう。
 タローはタマコの意見を採用し、近くの茂みに隠れた。
 タマコはそのまま聴覚に意識を集中し、敵の位置の特定を試みる。
 音の魔法を使うタマコは、特性ゆえに聴覚も優れているのだ。

「…………近くに人はいないようじゃのぉ。戦闘もまだ行われておらん」

「まだ始まったばかりだからな。これからだろ」

「(`・ω・´;)」
(訳:油断はできませんね……)

 森の静けさが目立つ。
 木々の揺れる音がやけに大きく聞こえ、川のせせらぎが耳に届くほどの静寂。
 開始20分が経過した今、そろそろどの冒険者が動いても不思議ではない。
 じっと息を潜め、集中していたとき――衝突音が響いた。

「――始まったか!」

 タマコは衝突音を逆探知し距離を導く。
 その結果、現在地点から南東に約2キロ地点での音だと判明。
 そこまで遠くは無い。

「戦ってんのは誰だ?」

「……聞こえたのは剣の音じゃ……十中八九、魔剣じゃろう」

 魔剣を持っているのは魔王とは限らない。
 タローのように魔剣を使う人間もいるし、アキラのように魔剣を使わず、魔王が持っていることもある。
 戦っている人物を特定するのは難しそうだ。

「アキラってやつとはもうやりたくないな……あーゆうタイプは苦手だ」

「だが視線は完全にお前に向いていたぞ。復讐する気満々じゃろ」

「……だよなー」

 アキラのような根性で向かってくるタイプをタローは苦手としている。
 理由はもちろん戦いが終わらないからである。
 何度でも立ち上がってくる相手はタローにとってはある意味、天敵であった。
 タローがげんなりしていると、もう一つの衝突音が聞こえてきた。
 どうやらもう一組戦いだしたようだ。
 しかも今度は1キロも離れておらず、とても近かった。

「移動しよう。巻き込まれるのは面倒だ」

 タローたちは移動を決意し、この場所をすぐさま離れる。
 戦闘場所が近い2番目の戦闘場所から離れるように走る。
 だが、タマコの耳に奇妙な音が聞こえた。
 それはヒュンッ! と森の中を駆け抜ける音だ。

(速いな、まるでモンスターじゃ)

 このスピードでは追い付かれるだろう。
 そう判断したタマコはタローを担いで音速移動ソニックを使おうとした。
 だが、その作戦は一つの影により断念せざるを得なくなった。

「なんだこれ?」

 怪訝に空を見るタローの視線の先には、蛇のような影が映っていた。
 しかもデカい。
 大蛇とは比較にもならない。これは蛇というよりも――

「龍、か」

 西洋のドラゴンではなく、中国などの龍。
 影の形は細長く威厳に満ちたその姿にそっくりだ。
 そして、この龍から感じるのは敵意だ。
 後ろから走ってくる奴も友好的ではない様子。
 どうやらタローたちは標的にされてしまったようだった。
 覚悟を決め、タローとタマコは互いに背中合わせに立つ。
 タローは魔剣をクマから棍棒に変形させ、タマコは黒弦刀を手に持った。

「やっぱり主役は忙しいみたいだな」

「そういう巫山戯ふざけたことは後から言え。来るぞ」

 龍の影が消えると、代わりに現れたのは二人の人物。
 タローの前に立った中華服を着た少女と、タマコの前に立つダークエルフの少年だ。
 様子をうかがうタローだったが、唐突に少女はタローに指を突き付ける。

「アキラさんを倒したのはあなたッスね!」

 見るからに元気いっぱいの少女が言い放った。
 ふふんっ、とちょっとドヤ顔しながら何かを期待しているような顔をしている。

「あー、うん」

 とりあえず正解ではあるので肯定したが、そのタイミングでダークエルフの少年が大きな拍手をした。

「かわいいよ! ラン!」

 その言葉を受けた少女――ラン・イーシンは頬を染め顔がだらしなく緩んだ。

「うへへぇ……ありがとうジー君!」

 照れながらお礼を言うランの姿を受けた少年――魔王リッカ=ジード=エメラルドは、突然鼻血を噴出させた。

「くっ……なんて可愛さなんだラン!」

 何だろうこのカップルは、とタローもタマコも冷めた目で視線を送る。
 こんなクソくだらない惚気を見せるだけなら他の場所に移動したいのだが、その前に二人が復活してしまう。

「ごめんよ。あまりにもランが可愛すぎるせいで変な空気にしてしまったね」

「あー! ズルいッス! ジー君が過剰に反応しすぎるのがいけないんッスよ!」

「どーでもいいから話し進めてくんない?」


「「黙っててくれ(ッス)!」」


「え、俺が怒られんの?」


 せっかくの制止は無視され、挙句黙ってろである。
 理不尽極まりなかった。

「ランが可愛すぎるからだ!」
「ジー君がいけないんッス!」
「いーやランが――」
「ジー君が――」

 完全にタローたちなど眼中にもなく、勝手に言いあいが始まった。
 もはや戦うのか戦わないのかも微妙である。
 だがある意味これは絶好の機会である。

「なータマコ」
「なんじゃ?」
「これ移動してもバレねーんじゃね?」
「……そうじゃの。移動しようか」

 タローたちは、そろりそろりと静かにこの場を去る――

「「――って、逃げるな!」」

 ――だが、上手い具合にはいかなかった。

「まったく、ボク達を喧嘩させてその隙に逃げる作戦とは……油断したよ」

「勝手にやってただけじゃん」

「自分たちのなかを引き裂こうったって、そうはいかないッス!」

「引き裂くつもりは無いぞ?」

「「いざ――尋常に勝負 (ッス)!」」


 はい。というわけでタローたちは戦うことになるのでした。




「……毎回戦う理由雑じゃね?」

「ツッコむな。もう受け入れよう」



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 ラン・イーシン
 Sランク冒険者。転移者
 スキル:部分変化ヘンシン
 ・体の一部をモンスターの一部に変える(変化中ステータスも一部上昇)。
 ・一定ダメージで自動解除される

 ステータス(スキル未使用時)
 攻撃力:6230
 防御力:4089
 速度:5976
 魔力:0
 知力:706


 魔王:リッカ=ジード=エメラルド(ダークエルフ)
 武器:嫉妬の魔剣レヴィアタン
 魔法:なし

 ステータス
 攻撃力:7008
 防御力:4895
 速度  :6729
 魔力  :210
 知力  :1988
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