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タイタン編

第2話 ドラムスの叫び

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 1.名前:タロー
 2.年齢:18
 3.種族:人間
 4.出身地:田舎
 5.希望職業:バイト




(……)

(……)

(……)

(……)

(……)

(……)


 おっと、思考停止しちまったぜ。

 ……って、いやいやいやいや!
 希望職業 《バイト》って!?
 コイツ一体何なんだ!

「おい! あぁ…タロー!」
「はい?」
「希望職業 《バイト》ってなんだ!?」

 いまだボーっとした目でいるソイツ――タローに俺は訊いた。
 少々声が大きかったためか、周りにいる冒険者に聞こえており、かすかに笑い声が聞こえる。
 だが、そんなことには動じないタロー。

「お金欲しくてって、本業は嫌だけどバイトくらいならいいかなって……」

 その言葉に俺は――いや、そこにいた者全員が一斉に笑ってしまった。

「はっはっはっは!」
「オイオイこいつ冒険者のことなんもわかってないぞ!」
「ギルマス駄目だろぉ。こんな奴冒険者にしたらさぁww」

 各々がそれぞれの言葉で嘲笑う。
 俺も少し嘲笑ってしまった。
 久しぶりに見たからな、こんなバカは。
 目元の涙を拭き、改めてタローに言う。

「あのなタロー、お前さん冒険者って何か知ってるか?」
「全然知らん」

 案の定な答えだ。
 その言葉に周りの連中もまた笑い出した。
 俺はコホンと咳を一つして説明する。

「いいか? 冒険者はあそこの掲示板にある依頼を受けて、その依頼を達成するというのが仕事だ」
「へぇ……」
「それに、職業っていうのはバイトとかじゃなくて、簡単に言えばお前さんの戦闘スタイルのことだ。
 それを教えてもらえればこちらで武器を支給する」
「なるほど」
「で、お前の戦闘スタイルは?」
「戦ったことないからわからん」

 ……もう呆れるしかないわ。

 戦ったことが無いのは今でも多くいるが、皆それぞれ、剣を振りたい、魔法を使いたいという思いがあったのに。

「ま、何とかなるっしょ」
 と言って、タローはそのまま掲示板へ行く。
 この時点で俺は察した。
(コイツ、何言ってもダメなタイプだな)と。

 そうこうしていると「よくわからんけど、これでいいや」と適当に依頼書をもってこちらに渡してくる。

「これ受けるわ」

「……もう勝手にしろ」

 とりあえず俺はタローの冒険者登録と依頼受注を済ませた。


 ***



「はぁ、久しぶりの奇想天外な奴だったな……」

 タローは受付を済ませると、依頼を達成しに出かけた。
 そしてタローの姿が見えなくなると、受付の椅子に深く座り、ドラムスはため息を漏らした。

(にしても・・・あんなバカみたことねぇぞ。)

 多分アイツ根は良い奴だけど、周りが怠惰かなにかで覆われすぎてもう別物になってるんだなきっと。
 そう考えるドラムスだっただが、すぐにどうでもいいと思った。

(あいつならすぐに辞めるだろうな)

 ドラムスは長年ギルマスをやっているので人を見る目は養われている。
 ドラムスはタローの怠惰を見抜いていた。
 そんな彼に、依頼待ちの冒険者が茶々を入れる

「なあなあギルマスよぉ。あのガキもう死んだかな?」 

「あぁ?」

「たぶん泣いて帰ってくるぜ?」

「おい!」

「冗談冗談w」

「はっはっはっはっはっは!!」

 ガラの悪い冒険者にドラムスは腹を立てた。
 先ほどはタローのバカさに笑ってしまったが、彼はギルマスとして、冒険者には誰一人死んでほしくはなかった。
 だからこういう冗談は好きではなかったのだ。

「うるせぇぞお前ら! 暇ならそこに貼ってある依頼でも受けろ!」

 頭を掻きながら少し強めの口調で言う。
 だが、冒険者にとっては日常茶飯事だ。

「落ち着けよギルマスww」
「だいたい受けようにも、どの依頼も難度ランクが高くて俺たちじゃ受けられねぇよ」

「……はぁ。なんか最近ため息ばっかついてんなぁ」

 ギルマスはまた頭を悩ませた。
 Bクラス以上の冒険者は別の依頼を受けているので、今はここにはいない。
 難度の高いものもかなりの数たまってきているので、そろそろ何とかしたいのだが。

「せめてお前らがもっと強くなってくれりゃ――」

 とギルマスはあることに気が付く。


 ここにいる冒険者が言った一言。



『だいたい受けようにも、俺たちじゃ受けられねぇよ』








 難度が高くて受けられない?

(あれ、ちょっと待って?)

 ギルマスは背中に嫌な汗をかいた。
 

 じゃあ――






(タローが受けた依頼は?)




 ギルマスはタローが受注した依頼書を見る。





 _______________________

 難度 A



 キング・オーガ の討伐



 報酬 200000 Gゴールド


 Bランクなら5人以上
 Aランクなら3人くらいで受けてね☆

 _______________________



 この☆が妙に腹立つ。
 が、そんなことはどうでもいい。

 冒険者の最初のランクはD
 タローの受けた依頼はA

 あきらかな無理ゲーであった。





「ちょっと皆集まってぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!!!」



 ドラムスは、緊急でタローの救出パーティーを編成した。
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