白狼 白起伝

松井暁彦

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終  黒の章

 十

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「之が軍神白起の末路とはな」
 馴染みのない声が執拗にこだましていた。

 五感の感覚は鈍い。それでも、己が今牢獄に囚人の如く、鎖で繋がれ、眼の前にいる男が范雎なのだと分かる。
 
 牢獄に火が灯された。

「お前が范雎か」
 口腔内は枯渇し、なおかつ血の錆臭い臭気が広がっている。

「なるほど。陰気な面をした醜悪な男だな」
 煽るように、范雎は顎を突き出す。

「ふむ。そういう貴様は、噂に違わぬ美男のようだ。何とも」
 鼻先をうごめかせ、彼の鼻がおとがいに迫る。
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