白狼 白起伝

廉頗

十五

　背後から迫る喊声。

「莫迦な餓鬼だ」
　白起は馬を駆けさせながら、背後を見遣り唾棄した。

「全軍。反転。左翼、右翼は左右から敵軍を包み込み、退路を断て。存分に暴れてやれ」
　白起の負傷は虚報。冷静に情況を分析すれば、欺瞞ぎまんであると察知出来そうなものだが。半ば呆れながら、白起は馬首を回した。
　
開けた荒野。趙軍が黄塵こうじんを上げて進撃する。

「やれ」
　白起の合図で、左右の双丘に伏せていた五万が挟撃をかける。
　喧噪と共に、弛緩する趙軍。更に撤退を装っていた、右翼、左翼の三十万が加わる。

「行くぞ」
　白起は銀牙と黒爪の柄頭を合わせた。両刃剣が蒼輝そうこうを宿した。