白狼 白起伝

松井暁彦

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廉頗

 七

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 秦の実権者であった、魏冄を葬ったことで心中穏やかとなった、秦王嬴稷は益々、范雎はんしょを重用することとなった。

同時に胸のつっかりが一つ取れた、秦王は連日と饗応を催し、狂ったように窈窕ようちょうなる美女達を抱いた。

最早、政務は新たに宰相として立った、范雎に万事任せておけば良いという構えである。秦王は王としての器は具えていないが、傀儡としては大器である。これほどに操り易い王は他にはいないだろう。

全権を委ねられた范雎は炙り出した、白起の飼い狗を徹底的に処断した。その数は二百。之ほどの間者を咸陽に潜ませていた、白起の周到かつ狡猾さには舌を巻くものがある。更に詰めていけば、もう少し数は伸びるかもしれない。

白起も咸陽から報せが届かないことを不審に思っているだろう。だが幾ら手を拱いた所で、白起は戦線を離脱することは出来ない。白起が趙の長平に布陣して、早二ヶ月。

 戦況は千日手せんじつての様相を極めていた。籠城戦にもちこんだ、趙軍の総大将廉頗は、城塞から押しても引いても出てこない。流石の常勝将軍白起も、鉄壁の防御の前に苦心惨憺としているようだった。

 このまま膠着状態が続けば、一年を待たず、秦軍は長平から撤退を余儀なくされる。此度の戦。四十万もの兵を投入している。彼等を喰わすには、莫大な費用がかかる。兵はかすみを食う訳ではないのだ。

(ここは一つ手を打たねばなるまい)
 范雎は決意すると、相府を出て、咸陽宮へと馬車を向かわせた。
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