白狼 白起伝

松井暁彦

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血意

 七

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「で、額は?」
 白起は表情を変えず問うた。

「商人は荷台を空にして帰る訳には行きませぬ。其れは利を挙げるにおいて、絶対の法則で御座います」

「ふん。やはり吹っ掛けてきたか」

「商いとは需要と供給で御座います」
 
 呂不韋の双眼が妖しく光る。彼は知っている。上党から奪い取った、財宝の存在を。確かに財宝や銭に、微塵の関心も寄せない白起にとって、金銀財宝など塵芥ちりあくたに等しい。だが、金銀財宝が市場では馬鹿にならない値が付くのも事実。価値としては、十万の良質な武器より、上党から奪った金銀財宝の方が、遥かに値が高い。その辺りを呂不韋はしっかりと弁えている。

「小賢しい男だ」

「では」
 呂不韋がにこやかに微笑む。

「質を確かめてからだ」
 白起は荷台から一本の剣を抜き出し、其れを王齕に放り投げる。

「構えろ」
 白起は黒爪を抜き去った。

「えっ?」
 王齕が眼を丸くしている間に、半月の軌跡が描かれた。鉄華が散る。白起は黒爪を鞘に納め、未だ呆然とする王齕の手から剣を奪い去る。

「ふむ」
 黒爪の一撃を受けた、刃にはひびも刃毀れもない。黒爪は剣の刃など、簡単にくだくほどの切れ味を誇る。だが、この剣は黒爪の絶撃を耐えて見せた。
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