白狼 白起伝

松井暁彦

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澱み

 二十二

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 賈偃が落馬。頸は外した。だが戦場が静まり返る。
 
 王翦は呆然と地に落ちた、敵の総大将を見下ろしていた。

「俺がやったのか」
 手は震えていた。ほうぼうで快哉かいさいが上がった。
 
 己ではない、何かが吼えていた。呼応するように、趙軍全体が揺れた。
 
 趙の旗に紛れて幾つもの黒旗が見える。

「あれは」

「遅すぎだ。魏冄の野郎」
 血に塗れた白起が、馬を傍らに並べ力なく呟いた。

「お手柄だ」
 兜を指で小突く、白起の顔は優しかった。
 
 不意に涙が溢れた。俺達は死を乗り越えて勝ったのだ。

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