白狼 白起伝

松井暁彦

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澱み

 二十

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 一の壁を突き抜けた。だが直ぐに二の分厚い壁が道を阻んだ。
 
 乱戦。死は間近に迫っている。不思議と恐怖はない。
 
 むしろ高揚している。魂が燃えている。全身を白い神気が覆っている。鉛のように重かったはずの躰が軽い。
 まるで水の一部になったようだった。
 
 王翦は雄叫びと共に、馬上で剣を振るう。一撃で敵の骨ごと断つ。力が漲る。四方から繰り出される槍撃。刃を回し穂先ごと斬る。

「くっ」
 一つ漏らした。脇腹に浅く刺さる。

「この」
 憤怒と共に槍手に剣を振り下ろす。脳天から股まで綺麗に両断。
 
 仲間が次々に斃れていく。あの白起ですら、銀の鎧を鮮血に染めている。
 
 突如、胸騒ぎがした。
 
 勁い気配。視界の先。翩翻と翻る、賈の旌旗せいき
 撃金鳴鼓げききんめいこする中、白起の顔が向く。

「俺に続け!」
 十字の斬撃。白起の両刃剣が煌めく。道が拓く。
 
 続いた。賈の旗へ駆ける。
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