白狼 白起伝

松井暁彦

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王星

 二十

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 孝公こうこうの御代で法家の商軮しょうおうが官僚による、法治国家としての基盤を築きあげたが、地方の官吏などは法の眼を掻い潜るようにして、民から税を搾取しているのが現状である。だが、魏冄が治める封地は違った。農民から取り立てる税を三分の一に減らし、彼等の負担を軽くする。更には余り荒れた土地を開墾した農民には、開墾した田畑からの収穫分は免除した。

また自由市場を開き、周辺諸国から商人を招いた。自由市場で店を出すには、それなりの税を納めなくてはならないが、国境を越えて珍品奇品が自由市場に集結する為、諸国の豪商達はこぞって穣と陶の自由市場を目指した。魏冄の封地は環境も豊かであったが、人の心も同様に豊かであった。平等な世界があそこにはある。魏冄には人心を良い方々へ導く稟性の徳がある。
 
 今になって思う。武王は全て分かっていたのではないか。軍事において天才である白起と、政において天才である魏冄が組めば新世界を築けると。

「よく分りませんが、少なくとも俺には父のような才能はありません。身なりをみれば分かるでしょう。俺は農夫として育っているのです」

「少しずつでも王としての才覚を備えていけばよい。俺も奴隷から此処まで成り上がったのだから」

「まさか。軍の総帥が奴隷などと」
 魏翦は諧謔かいぎゃくとして受け止めている。

「なんなら其処の二人に訊いてみるがいい」
 顎で王齕と胡傷を指す。二人は真顔である。

「本当の話だ。俺達も殿と同様に餓鬼の頃は奴隷だった」
 魏翦は絶句していた。当然だ。軍の有力者達が元は奴隷に身をやつしていたなど思いもしないだろう。

「奴隷が軍の総帥となれるのだ。お前に魏冄の血。即ち楚の公族の血が流れている。血胤は申し分ないさ」
 
 。
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