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王星
十九
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「俺が王だと?笑わせるな。俺は青史に史上最悪の殺戮者と語り継がれるであろう男だぞ。殺戮者なぞに天下万民が摺伏すると思うか」
「総帥殿は万物を恐怖で支配してきたのでしょう。ならば天下も恐怖で統べればいい」
「恐怖は覿面の即効薬に過ぎない。天下を掌握するにはもっと別の力が必要なのだ」
「別の力?」
「徳だ」
かつて白起は魏冄が封ぜられている穣と陶の城郭を見て回ったことがある。二地は咸陽を除いて、何処の領土よりも富んでいた。
魏冄は語っていた。富を生むのは領主ではなく民であると。確かに二地では生活に困窮し餓えている民の姿はなかった。
この時代国が定める税は重い。収穫の三分の二を民から搾り取るなどざらである。更に秦では度重なる出兵が続き、空いた国庫を埋めるように政府は不作の年であろうが、お構いなしに重税を取り立てる。だが、皮肉にも民の困窮が秦の底力の強さでもあった。
秦は戦の論功行賞では徹頭徹尾、信賞必罰がなされる。爵位を持たない農民であっても、戦場で敵の首を五つ奪れば、五つの郷里をする権利が与えられる。下剋上も夢ではない環境にある。
現に運の作用があったとしても、奴隷であった白起が爵位を得て、今や軍の総帥の地位にある。とはいえ、下剋上などに興味もなく平穏に暮らした民も数多く存在する。現今の秦は大望を抱かない者には生き辛い国といえる。生き辛さを抱く民への追い打ちとして、地方を管理するはずの官吏達の不正が相次でいる。
「総帥殿は万物を恐怖で支配してきたのでしょう。ならば天下も恐怖で統べればいい」
「恐怖は覿面の即効薬に過ぎない。天下を掌握するにはもっと別の力が必要なのだ」
「別の力?」
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