白狼 白起伝

松井暁彦

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王星

 三

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 ひなびた邑に武具などはなく、魏翦以外の少年等はくわすき。錆びた板斧。けんを盾としている者さえいた。魏翦は初恋の屍に串刺し放置された、剣を装備している。

「殺してやる」
 草叢の隙間から哄笑こうしょうを上げながら集落を破壊していく、匪賊達に怨刺えんしを吐く。

「突撃するか?」
 幼馴染の荘英そうえいが息を潜めて問う。彼は小柄ながら勇敢な男だ。今も怯懦による竦みは見えない。

「いや、駄目だ」
 憤怒により視界は朱に染まっている。それでも、自分でも驚くほど頭は冴えていた。
 
 匪賊共は全員で十人。数としては同数だが、奴等には立派な装具がある。また、圧倒的に此方より有利なのは経験だろう。人を畜生のように、葬り去る術を知悉し心得もある。無策で突撃を仕掛けた所で、返り討ちに合うのは目に見えている。

候伸こうしん候瞬こうしゅん。頼めるか?」
 一歳年下の候兄弟を傍らへ呼び寄せる。双子の手には弓。背には二十本ばかり入った矢が入った矢筒。二人は農夫の子でありながら、下にいる五人の兄妹を養う為、森に入っては狩りをしている。弓の腕前は一箭双雕いっせんそうひょう。正真正銘の名射である。

「あいよ」
 兄の候伸が飄々ひょうひょうと返事をする。

「決して同じ場所に留まるな。射手の居場所が確定されれば、奴等はお前達の元に雪崩れ込んでくる。動き回りつつ射続けろ」

「了解」双子の声が重なる。

「あの二人を先に斃して欲しい」
 小さく指を指して示したのは、匪賊共に指示を送る二人の荒くれ者。

「奴等二人で匪賊共を指揮している。頭を失えば、連中は統率を失うはずだ。其処に勝機はある」

「俺達はどうする?」
 荘英以下六名が、殺意を漲らせた眼を魏翦に向ける。

「二人一組で動く。数を減らし尽くすまで姿を現さず、大声を張り上げて草叢を駆け回る。連中は邑人と侮って散り散りに追ってくるはずだ。奴等は驕慢だ。其処を巧く利用してやろう」

「流石だ。大将」
 荘英が白い歯を見せる。

「いいか。奴等は手練れだ。勝てないと判断すれば直ぐに退け。仲間と合流した後に、各個撃破だ」

「応!」

「一人とて逃がすなよ。恐らく奴等にはまだ仲間がいる。逃がせば本拠の仲間が大挙して押し寄せてくるはずだ」
 全員が固く頷いた。

「では作戦開始」
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