白狼 白起伝

松井暁彦

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王星

 二

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 彼等は涙を流し、慈悲を乞う村民に冷笑を浴びせ、時には命をも奪う。秦が民に課す税は重く不作の年であっても忖度なく収穫の三分の二を租税として納めなくてはならない。民は一の取り分で限り限りの生活を強いられる。子が多い家族ならば、残りの取り分で家族全員を養うことなど不可能で、自分の子を奴隷として安い銭で売らなければならない。

ましてや匪賊共に蓄えを奪われてしまっては、被害にあった者達は今年の冬さえ越すこともできない。更に悪いことに皆が飢えを凌ぐだけの生活を送っている為、お互いに助け合うこともままならない。戦う力も気力もない邑人達は同じ集落の者達が餓えて死にゆく様を、ただ指を咥えて眺めていることしかできない。
 
 魏翦は幼い頃から不条理な現実を目の当りにし続けてきた。隣人の不幸を対岸の火事と思い定め納得する非力な大人達にも殺意さえ覚えた。

 幼少の頃より喧嘩には自信があった。十五になった今では大人の体格と遜色もない。母は決して魏翦の負けん気の強い気性を理解し、匪賊達に刃向かってならぬと懇々こんこんと魏翦を諭し続けた。

「お前が事を起こしては、更なる悲劇を生むのです」
 母の言い分も理解できる。しかし、既に惨禍は広がっている。物心ついた頃より匪賊達は邑の周辺に跋扈し、邑を食い荒らしている。これまで何十人もの邑人が奴等のせいで餓えて死ぬのを見てきた。初恋の女子が匪賊に輪姦まわされ家畜のように殺されていく様を目の当りにした時、とうとう堰が切れた。

 奈落の殺意を纏い、魏翦は勇猛な若者を十人ばかり招集した。魏翦は少年達の間では一目置かれる存在で、彼に従順な態度を示す者も多かった。
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