165 / 336
光輝の兆し
八
しおりを挟む
錆を含んだような鈍い色を放つ、なだらかな丘を神速で三万の騎馬隊が駆ける。丘を下った灰色の平野に布陣する八万の楚軍。高速の中で刃の如き朔風を受けながら、敵勢の闘志にばらつきがあるのを見てとった。
敵兵の顔が恐怖で引き攣るのが視認できる距離。眼前には槍衾―。怖じることなく更に加速。抜いた銀牙が煌めいた。
同時に耳を聾するほどの衝突音。三万の騎馬隊の圧に怖じて、逃げ出した兵士達を背中から通り抜けた軍馬が踏みつけていく。直ぐに楚軍の緊張感が弛緩した。舞う砂塵は血を含み、血塵が漂う凄惨な有様を見て取って敵兵が悲鳴を上げて逃げていく。
逃げ惑う兵士。未だ勇敢にも立ち向かうとする兵士で戦場は混迷を極めていた。今や馬の機動力を潰す為に構えられた横陣は機能せず、ありとあらゆる所に欠落が生まれている。
李莞は欠落を巧く衝いて、中央に肉薄し駆けまわっている。白起は圧倒的な速さと練度を誇る、天狼隊を率いて外側を縦横無尽に駆け回り伸びた叢莽を払うように敵を断ち切っていく。
二刻もすれば敵勢は最早軍の態を成していなかった。鵜の目鷹の目で退き口を探す敵兵達。だが逃げ場など何処にもなく、死神の鎌のように白起の剣が次々に命を吸い上げる。
突如、鯨波が起こった。大将を李莞が討ったのだろう。敵の動きが止まった。併せて此方の動きも止まる。頭を失った敵兵達は勝機なしと得物を下ろし、慈悲を求める眼で白起を見つめた。
中央で昂奮冷めやらぬ馬を宥める、李莞と視線が交錯する。白起の麾下は群れだった。故に群れの主である白起の思考を読めないはずもない。
(殺れ)と眼で訴えた。
李莞は視線を薙いだ。刹那。一瞬、動きを止めた騎馬隊が無防備な敵兵に襲い掛かった。断末魔が戦場に谺する。遮二無二に逃げ惑う敵兵を容赦なく斬り捨てていった。陽が暮れる頃には灰色の平野は屍で埋め尽くされ、砂は血を吸い上げ余すことなく朱に染まっていた。
敵兵の顔が恐怖で引き攣るのが視認できる距離。眼前には槍衾―。怖じることなく更に加速。抜いた銀牙が煌めいた。
同時に耳を聾するほどの衝突音。三万の騎馬隊の圧に怖じて、逃げ出した兵士達を背中から通り抜けた軍馬が踏みつけていく。直ぐに楚軍の緊張感が弛緩した。舞う砂塵は血を含み、血塵が漂う凄惨な有様を見て取って敵兵が悲鳴を上げて逃げていく。
逃げ惑う兵士。未だ勇敢にも立ち向かうとする兵士で戦場は混迷を極めていた。今や馬の機動力を潰す為に構えられた横陣は機能せず、ありとあらゆる所に欠落が生まれている。
李莞は欠落を巧く衝いて、中央に肉薄し駆けまわっている。白起は圧倒的な速さと練度を誇る、天狼隊を率いて外側を縦横無尽に駆け回り伸びた叢莽を払うように敵を断ち切っていく。
二刻もすれば敵勢は最早軍の態を成していなかった。鵜の目鷹の目で退き口を探す敵兵達。だが逃げ場など何処にもなく、死神の鎌のように白起の剣が次々に命を吸い上げる。
突如、鯨波が起こった。大将を李莞が討ったのだろう。敵の動きが止まった。併せて此方の動きも止まる。頭を失った敵兵達は勝機なしと得物を下ろし、慈悲を求める眼で白起を見つめた。
中央で昂奮冷めやらぬ馬を宥める、李莞と視線が交錯する。白起の麾下は群れだった。故に群れの主である白起の思考を読めないはずもない。
(殺れ)と眼で訴えた。
李莞は視線を薙いだ。刹那。一瞬、動きを止めた騎馬隊が無防備な敵兵に襲い掛かった。断末魔が戦場に谺する。遮二無二に逃げ惑う敵兵を容赦なく斬り捨てていった。陽が暮れる頃には灰色の平野は屍で埋め尽くされ、砂は血を吸い上げ余すことなく朱に染まっていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
空母鳳炎奮戦記
ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。
というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
永艦の戦い
みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。
(フィクションです。)
楽毅 大鵬伝
松井暁彦
歴史・時代
舞台は中国戦国時代の最中。
誰よりも高い志を抱き、民衆を愛し、泰平の世の為、戦い続けた男がいる。
名は楽毅《がくき》。
祖国である、中山国を少年時代に、趙によって奪われ、
在野の士となった彼は、燕の昭王《しょうおう》と出逢い、武才を開花させる。
山東の強国、斉を圧倒的な軍略で滅亡寸前まで追い込み、
六か国合従軍の総帥として、斉を攻める楽毅。
そして、母国を守ろうと奔走する、田単《でんたん》の二人の視点から描いた英雄譚。
複雑な群像劇、中国戦国史が好きな方はぜひ!
イラスト提供 祥子様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる