白狼 白起伝

松井暁彦

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合従軍戦 弐

 十七

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 白起は軍を率いて咸陽への帰還の道すがら、楚が合従軍を裏切り臨淄を包囲したという報せを訊いた。また、楚の総大将である淖歯は莒を襲撃し、斉王を弑逆した後に自ら斉王を号したという。
ここまでは計算通りだった。だが結果として淖歯は王を号して暫く、彼は蹶起けっきした民間人達によって殺害された。何ら感慨はない。元より王の器ではなかった。遅かれ早かれ玉座から引き摺り落とされるであろうことなど容易に想像ができた。

 欲をいえばもう少しの間、莒と即墨の二城しか持たない斉国内を引っ掻き回して欲しかった。淖歯が殺害されたことで、莒で匿われていた斉王の落とし子である田法章でんほうしょう(後の襄王じょうおう)が遺臣達に擁立され正式に践祚した。彗星の如く現れた田単将軍が、莒と即墨を起点に徹底した防衛線を巡らせ、果敢に攻め込む楽毅率いる燕軍の攻勢を凌いでいた。

 同じ頃、魏の宰相孟嘗君が莒へと入ったという報せを狗が寄越した。斉の粘り強さの裏には、田単将軍だけでなく孟嘗君の采配もあるのかもしれない。多少の時を稼いだとしても、悉く領土を奪われた斉の滅びは止められない。所詮は孟嘗君の悪あがきだ。万が一にでも、斉がこの窮地を脱することが出来、存続の道を往くのならー。

天祐は孟嘗君にある。

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