白狼 白起伝

松井暁彦

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合従軍戦 弐

 十二

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 従者に酒を運ばせ、口に運びながら臨淄の財宝と美女を手に入れた己の姿を夢想する。酒のせいもあるのか、昂奮で勃起するのは早かった。酒で濡れた唇を舐め具足を脱ぎ、軍袍を脱ぎ捨てる。下半身を露わにし、男根を乱暴に掴む。瞼を閉じればしとねを共にする閨房術けいぼうじゅつ巧みな美女達が淖歯を囲んでいる。幻のまぐわいを堪能し射精すると深い息をつく。

 薄っすらと開いた眼に映る燭台の灯り。ふっと柔い風が幕舎の中を通り抜け炎が揺れる。 意識が墜落しそうになる。その時。首筋に冷たいものが触れた。

「動くなよ」
 背後に人の気配。そして首筋には小刀の刃が。

「お愉しみだったか」
 男だった。口調は明らかに、淖歯の無防備な姿を見て小馬鹿にしているようだった。

「お前は何者だ?」
 刃は肌にぴたりと押し付けられている。微動でもすれば頸動脈は斬れ、己は憐れな姿で絶息することになるだろう。すると不意に肌に触れた刃がおさめられた。振り返ると其処には見覚えのある男の姿があった。

顔を覆った外衣を払うと、雪のように白い髪がはらりと露わになる。白皙の瑕疵かしのない美しい顔。狼星ろうせいの如く瞬く双眼には、無機質な光を放っている。

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