白狼 白起伝

松井暁彦

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雄飛

 十七

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「そうか」
 宋はいん後胤こういん達によって築かれた国だ。何百年もの間、栄耀栄華の礎の上に立っていた殷は紂王ちゅうおうの代に周に滅ぼされ、侘しくも生き残った殷の後胤達は、宋の滅びとと共に終に地上から消え失せた。始まりと終わりは一対。ならばこの先の視えない群雄割拠する時代にも終わりがくるはずだ。その先にあるのは武王が夢見た理想郷である。

 宋を併呑したことにより、斉の国力は更に増すこととなった。旭日昇天きょくじつしょうてんの勢いである。与国として追従した、楚と魏に百里程度しか与えなかったのは失策である。これにより、魏と楚は、斉に対して強い不信感を抱いたことだろう。恐らく孟嘗君の献策ではなく、驕慢と噂される、斉王の指示によるものと推測できる。

(これは利用できるかもしれんな)
 魏冄は内心でほくそ笑んだ。
 
 飛び地であり、魏冄が封じられた陶を守禦する為に、即刻宋を滅ぼした斉へ使者を送った。所領の陶は重要な財源地なのである。失う訳にはいかない。白起が陶に駐屯しているが、斉軍と事を構えたという報告はない。白起を警戒してのことだろう。

「斉が目障りになってきたな。討たねばならんか」
 魏冄は独りごちた。

「はい?」
 大胆な独り言に臣下は眼を丸くしている。

「陶に駐屯する白起将軍を咸陽に呼び戻せ。大戦は近いぞ」
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