98 / 336
合従軍戦
二十二
しおりを挟む
田文は廉頗の巨体を支え、意識を失った、彼の耳元で「ご苦労」と囁いた。
従者を呼びつけ、廉頗を軍医の元へ運ばせる。
一拍を置いて、
「さきのはどういう意味ですか?」
平原君は怒りを含んだ声で問うた。
白濁した双眸が、何を探るように絶えず微動する。袖がはためき、田文は静かに指を差した。
喧騒。鉄器がぶつかり合う、鈍い音。平原君は音のする方を見遣った。魏の旗と秦の黒旗。秦軍が一気呵成に、本陣の壁を食い破ってきている。その勢いは、最早留まることはない。
「我等の敗けだ」
孟嘗君は、ぽつりと漏らした。
「何を申されるのです!数では我等が未だ圧倒している。今から押し返すことなど容易いはず」
平原君は縋るようだった。
「いいえ。我等の敗けだ。大軍とは言えど、所詮は寄せ集めの軍。練度も疎らで、決して士気は高いとは言えない。勢いに乗った秦軍を押し返せるだけの力はない」
「そんな馬鹿な。我々は五十万を超える大軍を有しているというのに」
「数で戦をする時代は終わりを告げたのだ。それを秦が証明した。いやー、違うな。白起という一人の少年が証明してみせた。早々に退陣されよ、平原君。我等はここで踏み止まる。面子にかけて痛み分け程度にはもっていくさ」
平原君は烈火のように燃える、眼で孟嘗君を睨むと。無理矢理に溜飲を下げるように唾を嚥下した。
「ご武運を。孟嘗君」
従者を呼びつけ、廉頗を軍医の元へ運ばせる。
一拍を置いて、
「さきのはどういう意味ですか?」
平原君は怒りを含んだ声で問うた。
白濁した双眸が、何を探るように絶えず微動する。袖がはためき、田文は静かに指を差した。
喧騒。鉄器がぶつかり合う、鈍い音。平原君は音のする方を見遣った。魏の旗と秦の黒旗。秦軍が一気呵成に、本陣の壁を食い破ってきている。その勢いは、最早留まることはない。
「我等の敗けだ」
孟嘗君は、ぽつりと漏らした。
「何を申されるのです!数では我等が未だ圧倒している。今から押し返すことなど容易いはず」
平原君は縋るようだった。
「いいえ。我等の敗けだ。大軍とは言えど、所詮は寄せ集めの軍。練度も疎らで、決して士気は高いとは言えない。勢いに乗った秦軍を押し返せるだけの力はない」
「そんな馬鹿な。我々は五十万を超える大軍を有しているというのに」
「数で戦をする時代は終わりを告げたのだ。それを秦が証明した。いやー、違うな。白起という一人の少年が証明してみせた。早々に退陣されよ、平原君。我等はここで踏み止まる。面子にかけて痛み分け程度にはもっていくさ」
平原君は烈火のように燃える、眼で孟嘗君を睨むと。無理矢理に溜飲を下げるように唾を嚥下した。
「ご武運を。孟嘗君」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる