白狼 白起伝

松井暁彦

文字の大きさ
上 下
84 / 336
合従軍戦

 八

しおりを挟む
 黄河の支流に橋が架けられ、五十万の大軍がひしめき合いながら押し寄せて来る。函谷関は南北に亘って山脈が巡る、天嶮てんけんの要塞。敵からすれば、攻め入るべき要所は無数に存在し、一点突破は困難である。
 
 敵の軍勢は横に大きく広がることを余儀なくされる。敵も函谷関の強みを理解して、攻め込んできている。故に五十万もの大軍勢なのである。函谷関の三重の楼閣の上で、魏冄は足元までに迫る大軍勢を睥睨へいげいし、指揮刀を振るった。


 万の吶喊とっかん

「弓兵用意!放て!」

 矢の驟雨しゅううが、眼下の合従軍に襲い掛かる。盾で防ぐ兵士達。だが防ぎ切れず、矢を食らい倒れていく者達もいる。だが止まらない。

「間断なく放ち続けろ‼」
 今や一端の将軍となった、鳥獲うかく任鄙にんぴが歩墻を駆け回り指示を送り続けている。

 むことのない矢の嵐。そして、仲間の屍を踏みつけ、壁に寄りかかろうとする敵の軍勢。梯子を壁に立て掛けようとする敵に、油を浴びせる。

「火矢用意!放て!」
 赤き閃光が孤を描き、飛んで行く。油を浴びた敵に火矢が突き刺さり、断末魔と共に地上が火の海と変わる。油の備蓄は腐るほどある。仮になくなっても、汚穢おわいをぶちまけてやればいい。
 
 初日は、敵も小手調べという様相だった。日が暮れる前に、撤退し支流を越えた先の陣営へと戻っていた。此方の損害は軽微で、合従軍の五千を討ち果たしているという報告が上がってきた。
しおりを挟む

処理中です...