白狼 白起伝

松井暁彦

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合従軍戦

 四

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 恐れていた通りのことが起こった。斉・韓・魏・趙・中山の四国合従軍が成った。不幸中の幸いなのは、趙と秦は以前より同盟を結んでおり、派兵の態勢は見せているものの、傍観の構えに入っているということ。更に中山国は、昨年趙に滅ぼされている為、趙の属国としての参戦で、趙軍に服属している。また、趙王の意向が強くこれまた傍観の構えを崩す気はない。そして、燕は斉への怨恨が強く、合従の申し出を峻拒しゅんきょした。
 
 実質、斉・韓・魏の三国連合ということになる。合従軍総司令は斉の麒麟児、孟嘗君である。

「来たか」
 秦軍総司令は、大将軍の印綬いんじゅを下賜された魏冄。歩墻ほしょうから見渡す黄土を、雲霞の如し大軍勢が埋め尽くしている。
 
 朔風さくふうが吹き、斉・韓・魏の旌旗せいき翩翻へんぽんと翻る。地平線の果てでは、後詰めに控える趙と中山の旗がある。
 
 更に悪いことに、孟嘗君は小国宋にも密書を頻繁に送っており、出兵を促している。斉二十万。韓十万。魏十万。趙・中山十万。総勢五十万。埒外の数である。
 
 最早、不随意ふずいいな笑みを浮かべることしかできない。秦軍も虎符を用い、四十万の兵力を掻き集めているが、所詮は寄せ集めに過ぎない。一線での活躍が見込める、実質の兵となると二十万ほどか。
 
 天嶮てんけんの要塞、函谷関に拠っての守戦になる。地の利は此方にある。兵糧は兵站線から随時、補給されるので飢えの心配はない。
 
 代わって敵方には、兵糧の不安は常に付き纏う。総勢五十万を越える大軍勢である。兵糧の数、伸びる兵站線。長く見積もっても三か月。乗り切ることができれば、合従軍は撤退を余儀なくされるだろう。
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