白狼 白起伝

松井暁彦

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孟嘗君

 十二

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 五日程療養の期間を与えられ、嬴稷と田文は念願の会見を果たした。
 若き秦王は空っぽだった。彼に信念はなく、他人に流れやすく、会話の中で彼には王としての器はないのだと分かった。
 
 巷間こうけんの噂話で訊いたことがある。秦王は母と叔父の傀儡であると。この程度の器では、彼が傀儡の王であることこそ、国民の幸せなのだと思った

 彼の側で常に控えていた、彼の叔父にあたる魏冄からは、王としての器がひしひしと感じられた。彼が放つ精気は炎のように熱く、強い信念が感じられる。この王の下に置くには、惜しい男とさえ思える。彼の存在があるからこそ、秦は尚も力を維持できるのだろう。
 
 会見はつまらないものとして終わった。嬴稷は終始満足気であった。
 一度、白起という少年のことを問うた。武王の拾い者だと嬴稷は語り、礼儀を知らない、頭の悪い餓鬼、血を好む白い悪魔など散々悪罵した。

 ならば、若くして逝った武王は、白起の異質さに気が付いていたということなのかもしれない。だとすれば、惜しい男を早くに亡くしたものだ。
 
 それから暫く、白起の顔を見ることはなかった。彼は魏冄の子飼いの傭兵のようなものであり、組織には属していないという。白き狼の正体は、白起という少年なのだと確信がある。天は白起と己を引き合わせた。其処には、何か理由があるはずだ。
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