白狼 白起伝

銀の誓い

十

　歳の頃は白起と同年くらいだろうか。まだ体も成熟しきっていない、少女である。
　閨室ねやで絢爛な衣服を脱ぐ、少女の表情は恐怖と恥じらい、屈辱が綯交ぜとなって表れていた。

「俺が怖いか？」
　魏冄は唇を固く結ぶ、少女に問うた。少女は瞳を潤ませて、何も答えない。
　
　同情はする。この少女は朝貢の荷の一つとして秦に入れられた。
　そして、本来後宮入りするはずだったのが、姉の検分を経て、魏冄を骨抜きにする道具として、己のもとへとやってきた。
　
　魏冄は嘆息した。少女の震える眼は、まるで獣を見るような眼であった。

「服を着なさい」
　努めて穏やか声で告げた。

「えっ？」
　初めて少女が声を放った。

「年端もいかない少女を抱く趣味はない」

「でも、私はー」

「そうだ。お前は俺への貢物としてやってきた。だから、抱くかどうかは、この俺が決める」
　少女は床に落とした衣服を胸の辺りで抱きかかえた。

「私は旦那様のお眼鏡に叶いませんでしたか。私はまた違う殿方のもとへ行かなくてはならないのでしょうか」
　少女の声は、不安と恐怖で小刻みに震えていた。ふと姉が恵文王の妃に迎え入られ、その供として、秦にやって来たときの心細さを思い出した。当時、確かこの少女と同じ歳頃だった記憶がある　供とは響きばかりはいいが、結局の所、父王に捨てられた質子なのである。